愛犬がお墓を覚えておりました
それはある年のお彼岸のこと。
父のお墓にお参りする時には、いつも愛犬のK君を連れて行きます。
その日も、K君を連れてお墓の前へ。すると、どういうつもりか隣りのお墓にズンズン入って行き、そこにチョコンと座り込むのです。
「そっちじゃないよ、こっちだよ」と言って、リードを軽く引っ張っても、私の顔をジッと見つめたまま、そこから動きません。
仕方がないので、「それなら、そこにいてね」とリードを荷物に結びつけ、私はお墓の草むしりに取りかかりました。
その様子を隣りから、相変わらずジッと見つめるK君。いつもとはちょっと違う、何か言いたげな不思議そうな表情なのが気になりつつも、お墓の掃除を続ける私。
ひと通り終え、さて、お花とお線香を、と墓石を正面から見てハッとしました。
「うちのお墓じゃない!!」
そうです。なんとも間の抜けたことに、お隣のお墓をせっせと掃除していたことに、ようやく気がついたのでした。
ってことは・・・とK君を振り向けば、相変わらず私を不思議そうに見つめながら微動だにせず座り込んでいる、そちらこそが我が家のお墓。
自分の間違いが自分でおかしく、「そっか、こっちだよって、さっきから教えてくれてたのね」と、今度こそ我が家のお墓の掃除に取りかかったのでした。
それにしても不思議です。
お墓参りに行くのはお彼岸やお盆といった節目、年に2〜3回ほどなのに、墓石など読めるはずもないK君のほうが、しっかり覚えていたのでした。
あの不可解な表情は、K君のほうこそ「なんでそっち?」と不可解だったのでしょう。ジーッと動きもせず私を見つめ続けていたのは、「そっちじゃないよ、こっちでしょ」と教えてくれていたのかな?と思います。
それ以降も、お墓に行く時には、必ず私の前を歩き、やはり自分からトコトコ、我が家のお墓に向かいます。
相変わらず、どうして同形の墓石が立ち並ぶ墓地で、うちのお墓が分るのか、ナゾは残りますが、とりあえず、うっかり者の飼い主に忠犬。ありがたい組み合わせです。
スタバへGO
あるサービスエリアでのこと。食べ物を買うために、立ち寄ったときのことです。犬連れなので、外のベンチで買ってきたものを食べたのですが、さっきからずっとあたりにはコーヒーの素敵な香りが漂ってきました。
食べ終わり、そういえばコーヒー飲みたいな〜と思ったとたん、K君が急にスタスタと確信に満ちた足取りで歩き始めました。
「何だろ???」と思って、K君に導かれるようについて行ってみると、前方には有名コーヒーショップ、☆バックス。
「へ?」
「まさかねぇ」と思いつつ、リードをゆるめてみると、間違いなく☆バックスへ向かっていき、挙げ句の果てに迷い無く堂々と中へ入って行こうとする。
「ちょっと待って!!あんたは入れないから!!」と引き戻し、いったんそこから離れたものの、リードをゆるめるとまたスタスタと☆バックスへ向かうという・・・。
コーヒーが好きで、家でもよく飲んでいるし、そのにおいに反応した?とも思ったのですが、普通に外出した時、☆バの前を通ってもこんなことはまずありません。
あの日、タイミング的にK君が歩き始めたのが、私が「コーヒー飲みたいな〜」と思った瞬間だったこと、これまた不思議な忠犬ぶりでした。
あの日のこと
3月11日。あの日は朝から少し風邪っぽく、外出の予定をとりやめて、ソファでうつらうつらしていました。
午後、ぼんやりテレビを見ていると最初の揺れ。私が暮らす関東ではよくあること。特に慌てることもなく、そのままやり過ごそうとしたものの、揺れはどんどん強くなり、サッシがガタガタと激しく音を立て始める段になって、初めてこれはマズいかも!と起き直りました。
その時、K君はちょうど私と向かい合う形で、特に怖がる様子もなく下に座ってこちらを見上げていました。
古いマンション。外に出たほうがいいかもしれない。
「おいで!」と一言放つやいなや、パッと膝に飛び乗ってきました。K君を抱えていったん外に出たところ、若干、揺れが鎮まったので、再び最上階の我が家に戻りました。その後も揺れは続きましたが、結局、幸いなことに我が家は無事で済みました。
あのときのことを、その後もよく思い返すのですが、私がK君に対してはっきりと「この犬は何があっても信用できる!」と確信したできごととして忘れることができません。
「何を?」と思われるかもしれません。
でも、私にとってはとても大切なことなのです。
というのも、当時K君は1才半。共に暮らし始めて1年ほどのこと。特に問題行動もなかったので、何一つトレーニングらしきことはしていませんでした。
「おいで」は日常的な言葉なので、K君も理解していたとは思いますが、あえて教えたわけではなかったため、普段は「おいで」と言っても、来たり来なかったり。来るときも、何度か呼んでやっとトコトコ現れるくらいのいい加減さ。
でも、あのときは、「おいで!」のひとことで、迷わずパッと膝に飛び乗ってきたのです。
それだけ私の口調が真に迫っていたのかもしれませんが、成立しているのかどうか、まだあやふやだった信頼関係を確信できたこととして、とても重要な瞬間であり、このことひとつとっても私の中では「K君は忠犬!」として明確に位置づけられたできごとでした。
もちろん、その後は、私もトレーニングの必要性に目覚め、「おいで」の練習を繰り返しましたが、マイペースなK君が練習にノッてこない時でも、「大丈夫。このコはちゃんと分ってる。できる」と、私自身のK君に対する信頼を獲得できたきっかけでもありました。
さいごに
愛犬と暮らしていると、日々の小さなできごとの数々、少しずつ忘れていってしまっていることに、改めて気付きました。でも、こうして「忠犬」というテーマで過去を振り返ってみると、「ああ、そう言えばこんなこと、あったっけ」とささやかな出来ごとの数々を思い出します。
本当にささやかなこと。もっと素晴らしい忠犬ぶりを発揮しているワンちゃんたちは、たくさんいることでしょう。
こんな小さなできごとを「忠犬物語」として語るのはちょっと恥ずかしいような気もしたのですが、忘れたくないできごととして、あえて披露してみました。
「忠犬物語」はすなわち、飼い主と愛犬の心の絆の物語。あなたと愛犬の物語も、忘れないうちに記録してみてはいかがでしょうか?