ネグレクトの末、保健所に持ち込まれた犬
飼い主さんからの相談
一昨年の11月、前代表に飼い主さんからの相談が舞い込んできました。
「入院するのでお世話ができなくなる。他に誰も面倒を見てくれる人がいないので引き取ってほしい」
前代表は「初期検査(フィラリア検査やノミダニ駆除など)を受けてからまたご相談ください」と答えました。
でもそれっきり、連絡が来ることはありませんでした。
その飼い主さんは“一度も病院に連れて行ったことがない”と言っていたため、その時点で病院に連れて行けと言われても、ピンとは来なかったのでしょう。
ペットショップで購入する時はお金をかけても、その後、一切病院に連れて行かずに過ごす人は案外多いのです。それは、自分が欲しい商品としての購入であって、命としての感覚の欠如かもしれません。
忘れられない
そのビーグルのことを忘れたことはありません。あの子はどうなったのか?と他のメンバーと時々話すことはありましたが、飼い主さんの連絡先を前代表に教えてもらっていなかったので、連絡の取りようがありませんでした。
前の代表曰く「先方からの相談なので、あちらからの連絡を待つべき」。
当時のその判断に否があったとは思いません。その通りだと考えております。
けれどその時にもし私が相談されていたら、多分まず会いに行っていたと思います。
直接会って犬の状態を見て、飼い主さんの話を直接聞いていただろうなと思います。でないと、ずっと気になって忘れられないからです。
そして多分、引き取っていたのではないかと思います。
これはすべて仮定の話であって、本当にそうしていたかどうかは今となってはわかりませんが、この犬のことがずっと頭から離れなかったことは事実です。
ビーグル犬の相談
それから4ヵ月後の昨年2月1日、私が新代表に就任しました。その年の10月のことです。
ビーグル犬の相談が若い女性から代表となった私に入りました。
「夫の親が飼っていた犬を引き取ってほしい」
義母が昨年他界し、義父も今年入院してしまい、ご主人の実家に取り残されたビーグル犬のお世話を息子さん夫婦が通いでしているのだが、自分たちは飼えないので誰かに引き取ってほしい、という相談でした。
この時私は前の代表と同じように「初期医療を受けて下さい」と答えました。そして「すぐには引き取れないので、そちらでお世話しながら里親探しをしましょう。後日、写真を撮りに行きます。」と伝えました。
具体的なことは、直接会って犬の様子を見てから考えるつもりでいました。でも、翌日その女性から「私の母が引き取ってくれるので、もう大丈夫になりました!ありがとうございました!」と断りの電話がかかってきました。
私はそれを素直に信じ「それは良かったですね!」と喜んだのです。
でも、それは嘘でした。
その後すぐに保健所から連絡が入りました。
「高齢のビーグル犬の持ち込みがありました。」
面会
そのビーグルは後ろ足を負傷していました。鎖が巻き付いていたのか、脱毛して患部が腫れていたのです。
その治療をすることもなく、ビーグルはセンターに持ち込まれていました。
私は相談の電話をかけて来た人の持ち込みだと確信していました。そして一昨年の11月に前の代表に相談があった、あのビーグルであるということも後日判明しました。
1年越しで気になっていたあのビーグルが、今、私の目の前にいる。しかも、足を負傷した状態で処分されるかもしれない保健所に収容されている。
保健所からも、この犬は高齢なこと、そして足を負傷していることなどから譲渡対象にはならないと私に相談されました。
それですぐに引き出すことにしました。引き出してまず足の治療をするべきだと判断しました。幸い、すでに他の犬を預かってくれている人が、もう1匹預かってもいいと言ってくれていました。1年前とは違って、預かり先がある状態での引き出しでした。
保護
保健所から引き取って、すぐに病院に連れて行きました。
フィラリア陰性、足の怪我はやはりチェーンが巻き付いてできた傷ではないかということで、骨折はしていませんでした。さらに、乳腺腫がありましたが、まだ小さいということでした。
食欲は旺盛、もうすぐ14歳になる高齢の女の子ですが、お歳の割にはとても元気な状態でした。乳腺腫以外は特に問題はなかったです。病院に一度も連れていってもらえなかった犬でしたが、健康は保たれていました。
しかし、あばら骨が見えるほど痩せていて、爪は巻き爪になりそうなくらい伸びていて、その爪にはウンチがこびりついていました。
飼い主さんがいなくなって息子さん夫婦が通いでお世話していると言っていましたが、毎日通って可愛がっていたわけではなかったようです。多分、生かしておくためだけの最低限のお世話だったのでしょう。体中ノミだらけでした。
それを駆除し、トリマーさんにシャンプーをしてもらいました。
一時預かりさんの家に連れて行ったのですが、先住犬と相性が合わず、お家の中に入れられなかったので車庫で保護することになりました。牙をむいて怒っている様子から小型の先住犬にとって危険だと感じ、やむを得ずの判断でした。
それでも寒くないようにと、保温マットや断熱材、犬用電気毛布などで暖はとれるように、一時預かりさんと共にできる限り工夫しました。
人に対してはとてもナイスな子でした。
名前は『なっちゃん』。保護して1週間後に14歳になりました。預かりさんがお誕生日のケーキを購入してくれました。
譲渡会
その後、何度か譲渡会に参加しました。その結果、昨年最後の12月の譲渡会で里親希望者が現れました。
そのため、なっちゃんの写真を里親募集から外しました。すると、そのことに気が付いた別の女性から電話がかかってきました。
「なっちゃんの写真が里親募集から消えたのですが、誰か決まったのですか?」
女性は、ずっとなっちゃんのことが気になっていたそうです。
でも遠くに住んでいるため、高齢のなっちゃんの体に負担がかかるのではと迷いがあったとのこと。そんな時になっちゃんに里親候補が現れたことで、気持ちが大きく動いたようでした。
「もしも第一候補の方が何かでダメになった時は、私がなっちゃんを迎えます」
と言われました。
下記写真は12月の譲渡会の後、一時預かりさんがなっちゃんの姿があまりにも郷愁を帯びて可愛かったので、メッセージ用にと加工したものでした。この写真も、女性の心を強く動かす要素だったみたいです。
白紙
なっちゃんの里親第一候補様は、市内在住のご家族でした。
なっちゃんを受け入れるために、年末のお休みに家を片付けて、年明けには受け入れられるようにするとおっしゃっていました。
しかし、年が明けても、三が日が終わってもお返事がなかったので、こちらからどうなったのか?と聞いてみました。
すると「あれからいろいろ迷いが出てきて、一旦お話を白紙にしていただけないでしょうか?」というようなお返事が戻ってきました。
すぐに第二候補の三重県在住の女性に連絡したところ「ずっと待っていました。なるべく早く迎えに行けるようにします」とのこと。
事前に飼育環境チェック、身元調査は行わせていただいた上でなっちゃんはこの女性に譲渡することになりました。
第一候補の方にもそれをお伝えしたところ、安心され喜んでいただけました。
幸いなっちゃんは車が平気な子なので遠距離での移動は問題ないと判断して、三重県の方にお迎えに来ていただくことになりました。
お迎え
その女性はすぐに三重県から、なっちゃんがいる山口県までご夫婦で駆け付けてくれました。
なっちゃんと会うなり「会いたかったよ!」とおっしゃっていました。
ご夫婦は先住犬がやはりビーグルで、18歳で看取られた経験があるそうです。なっちゃんはすでに14歳。長生きできてもあと4~5年でしょう。それを覚悟で家族として迎え入れてくださったのです。
道中
翌日、里親様から三重に向かう車の中のなっちゃんの様子を報せていただけました。
なっちゃんは高速道路に乗ってからは、ずっと後部座席で右往左往して落ち着かず、可哀想でした。そりゃ、なっちゃんには何が起ころうとしているか不明だし、いきなり知らないおじさんとおばさんが現れ、知らない車に乗せられ、怖かったでしょう。
岡山を出たくらいから寝転んでくれましたが、暗くなって車のライトやらトンネルの灯りやらが見えて気になるのか、また立ったり座ったり。でも途中エサを食べてお水も飲んだので、ホッとしました。途中トイレは一度もしませんでした。休憩は7回ほどしたのですが。
到着すると、知らない家に入れられ緊張したのか、また落ち着かず。今朝は廊下に失敗していましたが、その後散歩して、きちんと外で排泄できました。
今はまた良く寝ています。
なっちゃん、長旅本当に良く頑張りました。これから少しずつここに慣れてほしいです。
なっちゃんは、無事、三重県の里親様のご自宅に行きました。これからは、お家の中で一緒に暮らしていただけます。
自分の気持ちではなく、なっちゃんの気持ちになって考えられているのが里親様の上記のメッセージからよくわかります。
最後に
なっちゃんは一昨年から昨年の1年間は、ネグレクトされとても辛い時期を過ごしたと思います。
でもその後、私たちとのご縁があり、一時預かりさんに大事にされ、最終的にとても温かい心を持つ里親様に繋がりました。
なっちゃんのこれからの幸せを心から願っております。
※本記事に掲載している写真や動画は、全てライター自身の制作物です。