訛りや発音の違いを区別できるのは人間だけ?
私たち人間は話し手が発する言葉を聞いたときに、多少訛りがあったり発音が違っていたりしても、それを理解することができます。また話し手が変わっても、同じ言葉を耳にすると同じものだと認識することができます。
特別な訓練なしに、自発的にこのような認識ができるのは人間だけだと考えられていました。
(オナガザルなどいくつかの動物では、訓練することで違う話し手が発する言葉の微妙な違いが認識できるようになることがわかっています。)
先ごろ発表されたイギリスのサセックス大学の認知生物学者による研究は、犬は異なる話し手が発する単語を認識することができるかどうかを調査したものでした。
違う声、違う発音、違う言葉に対する犬の反応をテスト
過去の研究では、犬は他の犬が吠える声を聞いて「この声は同じ犬」「この声はさっきとは違う犬」を区別できることが分かっているそうです。今回の研究のためのテストは、この過去の研究のときと同じ方式で行われました。
テストに参加したのは様々な犬種の70匹の犬たちです。犬たちは飼い主と一緒にスピーカーの側に座り、異なる話し手が発する単語を聞きます。単語は「had」「 hid 」「heard」「 heed」「 who'd」など音がよく似た一音節のものです。
スピーカーから聞こえてくる話し手の声は数人おり、犬にとっては皆馴染みのない人の声です。話し手は、違う年齢層、異なる発音、男女両方の性別が含まれています。
話し手が順番に違う単語を読み上げていく途中で、違う話し手の声に変わったり、違う話し手が同じ単語を1回ずつ読み上げていく途中で違う単語に変わったりしたとき、犬が反応するかどうかが観察されました。
犬は話し手も言葉も区別して認識している!
テストの様子を録画し、観察された犬たちの反応は非常にはっきりとしたものでした。
同じ話し手が違う単語を読み上げていくのを聞いている犬はだんだんと反応が薄くなっていき、その話し手の声に馴れていった様子が伺えました。しかし、途中で読み手の声や発音が変わったときには、明らかに興味を刺激された様子でスピーカーの方に顔を向けたり耳を前に倒したりする仕草が観察されました。これは犬が最初の話し手を様々な違う単語を発していても同じ人物だと認識していたことを示しています。
また、異なる話し手が順番に同じ単語を発することを繰り返したときにも犬の反応はだんだん薄くなっていきましたが、発する単語が違うものに変わると興味が復活した様子がはっきりと伺えました。
テスト中に犬の反応の一例を示す動画は次のようなものです。
このボーダーコリーは、初めて「had」という単語が聞こえたときにはハッという感じでスピーカーの方に顔を向けています。その後に異なる話し手が「had 」と繰り返していくと反応が薄くなっていきますが、途中で単語が「who'd」に変わると反応が復活しています。その後に再び「had」が聞こえたときには反応を示しません。
つまり、この犬は話し手が違っても同じ単語が発せられていることを認識しており、音が似ていても違う単語であれば「変わった」ということも認識していると考えられます。
テストに使用された単語は通常の犬のコマンドには使用されないものであり、犬たちは事前の訓練なども受けていないので、これらの認識は犬の自発的な理解によるものであることが分かります。
テストの結果から、犬は言葉の意味までは分からなくても、違う話し手が同じ単語を発したときには「同じものだ」ということが分かっていること、声によって話し手を区別していることが示されました。どうやら犬は私たち人間と同じように、人の声や単語の違いを識別しているようです。
まとめ
犬が人の声や発音の違いを超えて、単語を認識することができるというイギリスの認知生物学者による研究結果をご紹介しました。
飼い主以外の人からコマンドを出されたときに犬が応えること、「散歩」「おやつ」など特定の言葉に強い反応を示すことなどについての、科学的な裏付けが取れたとも言える結果ですね。
犬は明らかに人間が話す言葉に耳を傾けているようで、犬への愛情と敬意がさらに強くなるような報告でした。
《参考URL》
https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rsbl.2019.0555