犬は「ペットロス」にはならない?
「犬もペットロスになる」と言われているそうですが、「ペットロス」とは、「ペットとの死別や別れがきっかけで、心や体に表れる症状」を言います。
また、「ペット」とは、愛玩を目的として飼育される動物のことなので、多頭飼いで一緒に暮らしている犬が、自分以外の動物を「ペットとして、自分が飼育している」と認識しているワケではなく、上下関係はあるにせよ、仲間として認識しているのであれば、「ペットロス」と言う言葉は当てはまらないと思います。
例えば、私たち人間が家族を失った時に喪失感や悲壮感に打ちひしがれて、心身ともに不調になったりすることを「ファミリーロス」などとは言いません。
その場合は、グリーフ(grief)と言います。
愛犬が亡くなった時に私たちが感じる悲しみは、「飼っている動物が亡くなったからペットロス」と人の目に映ることでしょう。
けれど、その感情や心身の状態が「グリーフ」と言われる状態なので、「ペットロス」とは「グリーフ」と言い換えることが出来ます。
動物にもある「グリーフ」
多頭飼いをしている動物同士の関係は、ご家庭によってさまざまだと思います。私がかつて高校生の時には、アメリカンコッカースパニエルの母と娘の多頭飼いを経験しています。その時、母犬のゴールディがまだ8歳だったにも関わらず、マダニに咬まれてバベシアを発症し、突然、亡くなってしまいました。
娘のチュパは、当時5歳で母親のご飯を横取りしたり、散歩の時に母親が自分より前を歩くと怒って、吠えたてるようなわがまま娘でしたが、眠る時は暑い夏でもゴールディとぴったりくっついて眠るような甘えん坊の娘でした。火葬するまでの間、家族が集まるリビングにゴールディの亡骸を入れた箱を置いていたら、ずっと側にいて、動きませんでした。それから二日ほどは水も飲まず、ご飯も食べず、元気なく過ごしたのを覚えています。その時の悲しそうな姿が今でも目に浮かびます。それでも、三日、四日と経つと、散歩に出かけるようになり、元気を取り戻しました。まさにあの状態が「グリーフ」だったのでしょう。
多頭飼いの仲間を亡くしたらどんな行動の変化が見られるか?
ニュージーランドアニマル評議会の研究結果
ニュージーランドのアニマル評議会とオーストラリアのクィーンーンズランド大学が400件のアンケート調査を行って、犬や猫の「グリーフ」について研究した結果があります。
それによると、同居している仲間の動物が亡くなった後、
- 亡くなった仲間の動物がお気に入りだった場所で、仲間を探すような行動を見せた
- 飼い主さんの愛情をより多く求めるような行動を見せた
- トイレの回数が増えた
- 飼い主さんやほかの同居動物に依存傾向を表すようになった
と言った結果が報告されています。犬の知能は3歳児程度と言われていますが、知能と感情は別だと考えれば、仲間を失った動物は、確かに悲しみを感じているように思えます。
仲間に先立たれた犬への接し方
飼い主さんの元気な姿を見せる
飼い主さんにとっては愛しい愛犬を、残された犬にとってはかけがえのない家族を失って悲しく、元気を出そうにも出せないと思います。けれども、犬は私たち飼い主の感情を驚くほど感じ取ります。飼い主さんが悲しみに沈み、元気を失くしていたら、その感情を感じ取って、残された犬はまるで、なにか自分が飼い主さんを悲しませているように思うかも知れません。
また、愛犬にとっては、飼い主さんの笑顔と明るい声で名前を呼ばれて、話しかけられるのが一番うれしい事です。ふだんと変わらない、元気な姿を愛犬に見せてあげることで、愛犬を元気づけることが出来るのではないでしょうか。
ネガティブなトーンで話しかけない
犬は、人の言葉をよく理解しますが、全て理解出来るワケではありません。しかし、飼い主さんの表情、飼い主さんの声音、口調などから感情を察知します。
悲しい顔をして低く、悲しい声で話しかければ、その感情をくみ取って、どうして飼い主さんはこんなに悲しんでいるの?と不安に思うようになるでしょう。残された犬に話しかける時は、出来るだけ明るい声で話しかけるように心がけましょう。
徐々に日常の生活に戻していく
仲間を失って、依存傾向を示すようになっても、「分離不安になるから」と言って夜泣きをしたり、後追いをし始めた愛犬を突き放してはあまりにも可哀そうです。悲しく寂しい気持ちは同じだと考えれば、ほんの少しの間だけでも、夜泣きをしたら犬が見える場所で一緒に眠る、それが出来なければ夜、眠れるように散歩の時間を増やすなどの工夫をして、徐々に普段の生活に戻していくようにしましょう。
まとめ
家庭環境、犬の気質や飼い主さんの考え方によっては、新しい犬を迎える、という対処の仕方もあると思います。ただ、「多頭飼いで仲間に先立たれてしまった犬への接し方」については、正しい対処の仕方など誰もわからないと思います。残された犬がシニア犬であれば、新しい家族を迎え入れる事が逆にストレスになってしまうこともあります。一番大切なのは、残された愛犬にとって飼い主が出来ることはなにかをよく考えつつ、心身の状態をしっかりと見守ることです。