失意のどん底
当時私は、3頭のラブラドールレトリバーと暮らしていました。その内2頭のラブラドールを病で亡くして、残る1頭は後ろ脚が弱り、寝たきり介護の日々。外に出ることも極端に減り、只々黙々と介護をこなす日々でした。
何をしても何を食べても、不意に涙が溢れてきて、寝たきりの仔には笑顔を見せて上げられない日々が続いていました。介護の空き時間に、何気に覗いた保健所のホームページ…そこには、今我が家にいる、その仔が写っていました。
目が大きくてクリクリ、でもお顔が随分と白くて、一目見て「あぁ〜シニア犬だなぁ」と言うのが分かりました。
その日から、その仔の顔が忘れられなく、脳裏に焼き付いてしまって、毎日々意味もなくホームページを見開き、まだ掲載されてる…引き取り手はいないのかな?とやきもきしながら見ていました。
1週間経っても、写真は掲載されたまま、思い立ってその保健所に電話を入れてみました。「とってもいい仔ですよ、でもお迎えもありませんし、引き取り手も誰からも声が掛かってません」とのお話でした。
とある街中の住宅街を彷徨い歩いてたと聞きました。人懐っこい犬で、呼んだら直ぐによってきたそうで、まんまと捕獲され、保健所送りとなったそうです。そんな経緯を聞いてとっても迷っていました、迷う理由は、今は寝たきりのラブラドールを介護している最中、はたして迎え入れても良いものだろうか?
それから、その収容されてる保健所へは、我が家からは車を飛ばして5時間ほどかかる遠距離、そうそう簡単に行ける場所では無かったのもありました。そして、保護犬を迎え入れた事のない私に、ちゃんと信頼関係を構築出来るだろうか?心に傷を追っていたら、その仔の全てを受け入れて、向き合って上げることが出来るだろうか?
そんな事を考えながら、時間ばかりが過ぎていきました。
これもまた運命
それからまた1週間後、保健所に電話を入れた私は、職員さんから衝撃の言葉を聞いたのです。「収容犬が多くなってきて、先に収容された仔から、順番に殺処分して行かなくてはならない、この仔は順番は2番目です」後1ヶ月も待てないであろうとの状況でした。
その言葉を聞いて、なんの迷いもなく「これから迎えに行きます、遠いので5時間かかりますが、必ず行きますのでよろしくお願いします」と…
寝たきりの仔の体位をかえて、お水を飲ませて「ごめんね、待っててね」高速を走らせて迎えに行きました。そこで待っててくれたその仔は、まるで飼い主さんが迎えに来たかのように、私に尻尾を振り飛びついてきて、口を舐めてくれました。
とても不思議な感覚でした、初めて会うのに、初めてじゃないような…そんな錯覚に陥る程でした。手続きを済ませて、とんぼ返り、幸い寝たきりの仔はおとなしく寝息をたてて待っていてくれました。連れてきたその仔には、亡くなった仔とその時寝たきりだった仔の名前から1文字ずつもらい、「りる」と名ずけました。
寝たきりの仔を見ても、嫌がる訳でもなく、怯える訳でもなく、不思議とスっーと寄り添って寝てくれた光景は、今も忘れられません。とっても運命的なものを感じた瞬間でした。これもまた偶然のような、でも必然性のある出会いだったのだと思わされました。
私が救ったのではなく、私が救われた。
そんな2頭との生活は3ヶ月で終止符を迎えたのです。我が家にやってきたりるも、3ヶ月も経ち、すっかり慣れて甘えてくれるようにもなりました。りるのお散歩にお世話、そして寝たきりの仔の介護。確かに大変でしたが、心と体に張合いやメリハリが出来て、介護も笑顔で楽しくしてあげられました。
しかしながら老いは進み、看取りの時を迎えました。老衰で静かな穏やかな最期でした。約2年弱程の寝たきり介護、その日々が急に奪われると、まるで自分の体の一部をもぎ取られたように辛く悲しく、そしてやるせない気持ちになりました。でも、その時助けてくれたのはりるでした。
屈託のない笑顔、人や犬も嫌がる事もなく、吠えることもせず、兎に角穏やかな仔でした。事情があって遺棄されたけれど、きっと前の飼い主さんからはとても愛されていたのではないかな…と思える日々でした。本当にりるには助けて貰いました、いっぱいの愛を注いでくれました。感謝してもしきれないような時間が流れていきました。
恩返しの時間
そして月日が流れて、その後また1頭のラブラドール(名前はるい)を迎え入れ、りるとるいの2頭の生活になり、早いもので6年目を迎えようとしています。保護当時、推定8歳と言われたりるも、今年14歳になろうとしています。14歳になれば体もあちこちガタが来ています。
心配は尽きない毎日ですが、でも食欲も落ちずに、ゆっくりとですがお散歩も楽しんでいる日々です。そしてまた介助や介護が必要になっても来ています。私が悲しみのどん底にいる時に、救ってくれたりる。これからは飼い主の私が恩返しをする時間です。
りるの目となり、耳となり、そして足となり、精一杯その最期の時まで、りるがりるらしく生きられるように、サポートをしていこうと思っています。
保護犬という選択肢
「保護犬って難しそう」「小さい時から飼わないと大変そう」「心に傷を追っていて難しそう」そんな声を沢山耳にします、中にはそんな仔もいるでしょう、たまたま我が家のりるは何の違和感も問題もなく、我が家に溶け込んでくれただけかも知れません。でも、その仔を思い、しっかりと向き合い、いっぱい愛してあげれば、必ず犬達はそれに応えてくれると信じています。
犬を飼いたい!と思う人々が、少しでも保護犬に目を向けてくれると嬉しいです。保護犬を迎え入れる事が、特別な事ではなく、当たり前の世の中になってくれる事を願うばかりです。