父とパル
父はパルを溺愛して、母の反対をよそに、いつもパルと一緒にベッドで寝ていました。
父とパルはどこに行くのも一緒で、父が一人のときは周囲の人が「今日はパルは?」と聞くほど、いつも父の側らには、ふさふさのしっぽを振るパルがいました。
アウトドア派の父に連れられて山に登ったり川で泳いだり、畑や田んぼで泥だらけになったりと、まるで柴犬のような室外犬みたいに育てられました。実際パルの小屋はガレージにあり、家に上がることは母から反対されていました。それでも父はパルを家に上げて、よく母に叱られていました。
また、パルは父のスクーターに乗せられて、家から1キロほど離れたところで降ろされると、スクーターで走る父を追いかけながら、時速30kmでダッシュして帰って来る、という訓練を受けていました。室内犬として品種改良されたミニチュアダックスなのに…おかげで体は引き締まっています。
突然の別れ
そんなパルの大好きな父が、突然の事故によって帰らぬ人となってしまいました。
粛々とお通夜の準備が進む中、パルはガレージにつながれて様子を見ていました。
父が棺に収められる前に、私はパルを家に上げて、父に会わせてあげました。父が死んだことを伝えようと思ったのです。しかし、冷たくなった父のにおいを嗅いでも、パルは何の反応も示しませんでした。
葬式が終わり、親戚が引き上げた後も、私は葬儀の片付けを手伝いつつ、パルの散歩に行ったりして数日を過ごしました。パルはいつものようにぐいぐいと引っ張って小走りを始めますが、ふと立ち止まってぼーっとしてみたり、ある時は元気なくうなだれたりしていました。父を思って寂しがっているのでしょうか?でも、食欲はあるし、きっといつもの1キロダッシュがないから物足りないのでしょう。
心配なさそうに思えたので、私も自宅に戻りましたが、いつもお世話になっている動物病院に来ていた飼い主さんと世間話をしているときに、気になることを聞きました。
飼い主が死んだ後、かわいがっていたペットも後を追うように死ぬことがあるというのです。
ペットロスならぬご主人様ロス?
うさぎのように、さみしいと犬も死ぬのでしょうか?
猫は家に懐き、犬は人に懐くというし、ペットロスならぬご主人様ロスと言うものがあるのでしょうか?
そもそも、ペットロスとはどういう症状なのでしょう?
ペットロスの主な症状
精神的な症状
- 悲しみで気分が落ち込む
- 何も楽しめない、喜べない
- やる気が起きてこない
- 集中して物が考えられない
- 自責の念罪悪感に苛まれる
身体的な症状
- 体がだるい
- 眠れない
- 食欲不振
このような症状が数ヵ月続き、日常生活に支障をきたすようになったら、うつ病の可能性もあると言われています。
犬もうつ病になるの?
犬のうつ病の症状
- 飼い主の呼びかけに反応しなくなる
- 食欲が低下する
- 下痢気味になる
- 遠吠えを繰り返す
などがあるようです。
ミニチュアダックスは寂しがり屋だと聞くし、心配になったので、翌週末も実家に帰ってみました。確かに寂しかったらしく、パルは私の気配に気づくと大興奮して、うれしょんしてしまいました。
母は高齢のため腰が悪く、1日1回往復300mほどの散歩に連れて行くのがやっとの状態で、普段はガレージの中につなぎっぱなしだといいます。そのためストレスがたまっているのか、すぐ吠えるようになっていましたが、散歩中は元気に歩くし、食欲もあります。
うつ病の症状は出ていないようです。しかし、パルの顔をよく見ていたら、目の上にマダニが!
スキンシップの不足
母はマダニに気付いていません。パルとのスキンシップが、父とは比べ物にならないほど不足してしまうのです。おそらく病気になっていても気付かないでしょう。
そして、気付いても動物病院に連れて行くこともできません。
「後を追うように死ぬ」原因は、「大好きな人を失った寂しさ」というよりスキンシップ不足による病気発見の遅れ「治療の遅れ」によるものではないでしょうか?
病気になる原因のひとつには「寂しさ」もあるのかもしれませんが。
幸い、パルは近所の子どもたちに人気があるので、ガレージの外にいるときは毎日誰かに名前を呼ばれ、なでてもらい、時には散歩に連れて行ってもらっています。
また、母の健康のためにもパルの散歩は欠かせないでしょう。
しかし、今7歳だからあと3年もすれば病気になり始めると思われます。ヘルニアの心配もあります。歩けなくなったパルを、高齢で腰の悪い母が面倒を見られるのでしょうか?
パルには、老後もちゃんと介護できる飼い主さんを探したほうが良いのでしょうか?
高齢者とペット
犬の譲渡会
何らかの理由で犬を飼えなくなったときに、新たな飼い主を探す「譲渡会」があります。
譲渡会は市や民間団体、動物病院などが主催していて、WEB上でも情報を掲載してます。サイトをのそいてみると、飼い主の年齢制限について記載されています。高齢の飼い主が老犬の介護をするのは、体力的にも経済的にも大変なことです。近年、高齢で飼育不可能な場合の受入施設提供サービスが求められています。
まとめ
犬の心理的ストレスの原因に多いのが家族の不仲と引っ越しなのだそうです。慣れない環境に置かれると不安と緊張状態に置かれてしまうのですね。
ペットの飼い主ロス(のような症状)は、寂しさというより、環境の変化によるストレスが原因だと考えられるのではないでしょうか。
それならば、パルは今のままが一番いいようですね。経過観察しながら、引き続き「犬の飼い主ロス」について研究していきたいと思います。
【参考資料】
http://www.petfood.or.jp/topics/img/170118.pdf
https://www.pochi.co.jp/ext/column/method-of-eliminating-stress-of-dog.html