【研究紹介】犬の賢さは食肉類でナンバーワン?脳のニューロン数からわかったこと

【研究紹介】犬の賢さは食肉類でナンバーワン?脳のニューロン数からわかったこと

犬はちゃんと飼い主の指示を理解して従うことができ、トレーニングしやすい動物といえます。それは犬が知的な動物だからと考える方も多いでしょう。最近、それを裏付けるような研究結果が発表されました。食肉目8種類の大脳皮質のニューロン数(神経細胞)を数えたところ、なんと、犬のゴールデンレトリーバーが一番多かったとのこと。今回はアメリカ・ヴァンダービルド大学の研究チームが行った、肉食動物の脳に関するニューロン数の調査を紹介します。

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記事の提供

  • 博物館アドバイザー(元自然史博物館学芸員)
  • 碇 京子
  • ( 博物館アドバイザー(元自然史博物館学芸員))

20年近く自然史博物館学芸員として恐竜をはじめとする古生物の展示に携わってきました。専門は古生物学と地質学で、博物館教育を通して化石生物とその進化に関する研究成果の普及に努めてまいりました。現在は個人で博物館などの恐竜・古生物展示のアドバイザーをしています。動物の体のしくみ、生態や行動に関する科学的知識をわかりやすく情報発信していきたいと考えています。

研究の背景

本をめくっている犬

一般に、大脳皮質のニューロンの数は認知能力の高さを示す1つの指標と考えられています。例えば、人は大脳皮質のニューロン数が100~200億個、チンパンジーは60~70億個ほどもあって、確かに高い認知能力を持つことが知られています。霊長類はずば抜けてニューロン数が多いのですが、霊長類以外の哺乳類では、基本的に体の大きな動物ほど脳量も多く、ニューロン数も多くなる傾向があります。しかし実際はそう単純ではありません。人やチンパンジーよりもずっと大きな哺乳類はたくさんいて、その法則にしたがうと人より大きな動物はみんな、人より認知能力が高いということになってしまうからです。

犬や猫など食肉目の大脳皮質のニューロンを調査

ニューロン

この研究では、哺乳類の中の食肉目というグループ(哺乳類の中の犬や猫を含む肉食性動物の分類グループ)に着目し、体の大きさ(体重)と脳量、ニューロン数との関係を明らかにしようとしました。食肉目は、小さなネズミサイズのものから5トンのものまでさまざまなサイズの動物がいて、肉食、雑食、草食、単独生活、集団生活とライフスタイルもバラエティに富んでいます。さらに野生種だけでなく、ペット化された動物、犬、猫も含まれます。食肉目を調べれば哺乳類全体の傾向が見えてくるかもしれないということで研究対象に選ばれました。

調査した8種類の食肉目

実験では、犬(ゴールデンレトリーバーと雑種の2種)、猫、アフリカライオン、ヒグマ、ペットのフェレット、シママングース、アライグマ、シマハイエナの8種類11個体の脳半球を調べました。

研究結果1:ゴールデンレトリーバーのニューロン数が一番多かった!

笑顔のゴールデンレトリーバー

調査の結果、ヒグマなど最大の脳を持つ動物のニューロン数が最も多いわけではなく、8種類の中でゴールデンレトリーバーの大脳皮質のニューロン数が6.27億個と最も多いことがわかりました(ただし、調査した他方の小型の雑種犬は4.29個と5番目)。ついでライオン5.4億個、アライグマ5.12億個と続きました。そして猫は2.5億個とゴールデンレトリーバーの半分。犬と猫では、犬に軍配があがったかたちとなりました。それでは犬は猫よりも、そして食肉類で一番賢いのでしょうか?

研究結果2:密度からみればアライグマが一番

木に登っているアライグマ

そう結論づけるのは早急です。確かにニューロンの絶対数が多ければ認知力は上がる傾向があるのですが、脳が大きければニューロン数が多いのは当然と言えば当然。実は、調査したもう1頭の雑種犬はゴールデンレトリーバーより体がずっと小さく、ニューロン数は4.29億個でした。この数値だと、猫の2.5億個よりは多いですが食肉類で一番ではなくなります。さらに言うと、ニューロン数を絶対数ではなく、脳の重量(そして体の大きさ)との関係でみると違う結果が浮かびました。ニューロン数6.27億個のゴールデンレトリーバーの脳重量(大脳皮質の重量)は84.8gで、5.12億個のアライグマはたったの24g。つまり密度でいえばアライグマのほうが圧倒的に高く、それは霊長類に匹敵するのだそうです。

大型食肉目は思ったよりずっと少なかった

ヒグマの家族

一方、体の大きなヒグマのニューロン数は猫と同数の2.5億個でした。ヒグマの大脳皮質量が222gもあるのに、猫はたった24gしかないことを考えると、ヒグマは、その体重や脳量の大きさから予測される数よりずっとニューロン数が少なかったのです。同様にライオンも、犬の2倍の大脳皮質量がありますが、犬と同等のニューロン数の5億個しかありませんでした。つまり、大型の食肉類は体の大きさに対してニューロン数が少ないこともわかったのです。

研究結果を全体的にみると、小型~中型の食肉目は(アライグマを除けば)他の非霊長類哺乳類と同様、体が大きければ脳も大きく、ニューロン数が多い傾向にあるが、大型の食肉類は体重から予測される数の10分の1にも満たないことがわかりました。その理由は、大きな体重を維持するための代謝コスト(狩りに必要なコストも含む)が高くて、ただでさえ代謝コストの高い脳にまわすことができないからとしています。

研究の意味

メガネを掛けた犬

この研究では、ニューロン数が認知能力の高さを表すとしていますが、一方で「知的であるかどうか」はまた別の話とも述べています。知性はニューロン数だけで論じられるものではなく、さまざまな認知能力について行動学的、心理学的にも調査され、合わせて論じられるべきでしょう。
そもそも、知性とはいったいなんなのでしょうか。私たち人は地球上で最も知的な生物といいますが、全てが他の生物より勝っているわけではありません。例えば、チンパンジーは人物像を上下逆さに見せても、すぐさま誰なのかわかり(人は画像が逆さまになると、知っている人でもわかるまで時間がかかる)、また、画像に写るものを瞬時に把握する能力も人よりはるかに優れています。これらは、彼らが長い樹上生活の中で培ってきた能力です。進化の道筋の中で、たとえそれが知性に関わる能力であったとしても、ある動物では必要なく、ある動物では発達するといったことが起こり得るわけで、単純に比較することはできないのです。

ちまたではよく犬と猫、どっちが賢いのかという議論になりますが、人を基準とした賢さでいえば猫は分が悪いです。なぜなら社会性動物の犬や人と違い、単独生活者で他者の指示に従おう、という意識そのものがなく、調査も難しいからです。しかし、トレーニングしにくいからと言って猫が犬より知的でないとは断定できません。猫には猫ならではの知性、犬には犬ならではの知性があり、詳しい分析はまだまだこれからでしょう。

今回ご紹介した研究では、8種類の動物を調査したとはいえ、それぞれ1個体か2個体であり、圧倒的に数が少なく、個体差がどの程度あるのかよくわかりません。今後はもっと数を増やし、さらに種数も広げて調査されることが期待されます。

《参考》
Jardim-Messeder D, Lambert K, Noctor S, Pestana FM, de Castro Leal ME, Bertelsen MF, Alagaili AN, Mohammad OB, Manger PR and Herculano-Houzel S (2017) Dogs Have the Most Neurons, Though Not the Largest Brain: Trade-Off between Body Mass and Number of Neurons in the Cerebral Cortex of Large Carnivoran Species. Front. Neuroanat.11:118. doi: 10.3389/fnana.2017.00118
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fnana.2017.00118/full#B8

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