犬の膵炎の初期~末期症状や治療法、予防する方法まで【獣医師監修】

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記事の監修

  • 獣医師
  • 平松育子
  • (AEAJ認定アロマテラピーインストラクター・ペットライター )

獣医師・AEAJ認定アロマテラピーインストラクター・ペットライター
山口大学農学部獣医学科(現:共同獣医学部)卒業。2006年3月~2023年3月 有限会社ふくふく動物病院 取締役・院長。ジェネラリストですが、得意分野は皮膚疾患です。
獣医師歴26年(2023年4月現在)の経験を活かし、ペットの病気やペットと楽しむアロマに関する情報をお届けします。

犬が膵炎と診断を受け、不安な飼い主の方もいるのではないでしょうか?人でも膵炎になる人はいますが、それが一体どんな症状なのか詳しく知っている人は多くはないでしょう。愛犬がこの先どうなってしまうのか、治るのか、いろいろ心配があると思います。膵臓は「沈黙の臓器」と呼ばれていて、気づかないうちに症状が進行していることもあります。今回は、犬の膵炎の症状や治療法、そして予防の方法を詳しく紹介します。

犬の膵炎には種類がある

膵臓とは、食べ物を消化する酵素(アミラーゼ、トリプシン、リパーゼなど)と、血糖値の調節を行いながらホルモン(インスリン、グルカゴン)を分泌させる臓器のことを言い、膵臓で分泌された消化液は膵液と呼びます。

犬の膵炎は、何らかの理由によって膵液の分泌が亢進してしまい、自身の膵臓自体を消化してしまい強い炎症を引き起こしている病気です。老犬は特に発症しやすくなっています。そして、この膵炎には「急性膵炎」と「慢性膵炎」の二つの種類があります。

急性膵炎

急性膵炎とは、膵臓の急性炎症でほかの臓器にまで様々な影響を及ぼします。ある日突然、犬が下痢や嘔吐を起こし、激しい腹痛の様子が現れることが多く、食事を全く食べなくなるのが特徴です。

慢性膵炎

慢性膵炎は持続性の炎症が起こる進行性のものです。具体的には、膵臓の細胞が徐々に線維が増えて硬くなっていき炎症を起こします。慢性膵炎も嘔吐や下痢などの症状がでて、長期間にわたって断続的に繰り返され、犬は痩せることが多いです。

犬の急性膵炎の症状

初期症状

急性膵炎症の初期症状は、まず犬の食欲がガタンと落ちます。また突然嘔吐と下痢が起き、よだれの量も増えます。黄色い脂ぎった便もみられることがあります。

痛みから呼吸が浅くなり、重症化した場合は呼吸困難やショック状態になるケースもあります。また、膵炎は激しい腹痛を起こしているはずなので、犬にそのような様子が見られることもあるでしょう。

犬の腹痛の見分け方に「お祈りのポーズ」と言われているものがあります。犬が前傾姿勢で前足を低く構え、お尻は高く上げている姿を言います。これは「プレイバウ」という犬が興奮しているときにするポーズとほぼ同じです。

腹痛でこのポージングをしている時は、飼い主が犬のお腹を触ろうとすると悲鳴のような声を上げる、怒るなどの拒否反応を示します。また、抱っこも嫌がるでしょう。下痢、嘔吐、よだれの症状がある犬がこのポージングをしているときは、腹痛を起こしていると判断してください。

末期症状

膵炎の末期の症状で、犬の眼の白目部分などが黄色っぽくなることがあります。これは「黄疸」と言われる症状です。また、腎不全や糖尿病などの合併症を引き起こすことがあります。

さらに、激しい炎症のため犬の体内の免疫機能が狂ってしまい、臓器内の細い血管に血液が詰まる状態の「血栓」ができてしまうこともあります。血栓によって様々な臓器が傷つけられることや、ショック状態になるなど重症な症状が出ることもあります。

犬の慢性膵炎の症状

初期症状

慢性膵炎の場合も、症状は急性とほぼ同じようなものが現れますが、急性は突然症状が現れるのに対し、慢性の場合は徐々に症状が現れる為、気づくのが遅くなる場合が多いようです。

犬の食欲はだんだん低下して元気がなくなっていき、断続的に下痢や嘔吐を繰り返します。消化機能が低下しているので、口臭がすることもあります。

ただし慢性膵炎になっている犬の場合にも、突然膵臓の炎症が激しくなることがあります。これを急性増悪(きゅうせいぞうあく)と言い、炎症の程度によりますが、下痢、嘔吐などの症状が急に多くなり激しくなります。

末期症状

慢性膵炎の末期の症状は、急性膵炎の末期とほぼ同じような症状がおこります。また、膵炎により「播種性(はしゅせい)血管内凝固症候群(DIC)」という炎症疾患が進行し、これが末期状態になってしまうと、残念ながら亡くなることもあります。

犬が膵炎になる原因

犬が膵炎を引き起こすはっきりした原因はまだわかっていません。ですが、肥満を招く偏った食生活、それにより引き起こされる高脂血症が強く関係しているのでは?と言われています。

また、飼い主の気づかないうちに、犬が油っぽい物を盗食していた場合など、体に良くない食べ物を口にしてしまうことにより起きる場合もあるようです。そのほかには、ホルモンが原因の病気(甲状腺機能低下症、糖尿病、クッシング症候群 など)や、ストレスが引き金となっている可能性も考えられています。

犬の膵炎の治療法

点滴・投薬

犬が膵炎になった場合の治療では、炎症や痛みを抑えるためにまず点滴を行います。これにより、膵臓や全身の循環機能は改善され安定します。腹痛を起こしている場合が多いので、その場合は痛み止めを、嘔吐がある場合は吐き気止めを投薬します。

症状が重症な場合や、合併症が起きている場合は死に至る可能性もありますので、集中治療のために入院をさせます。入院期間は症状の程度にもよりますが、1週間くらいかかることが多いようです。嘔吐や下痢が治まり食欲が戻ってきたら退院し、自宅での投薬治療に切り替えます。

絶食・絶水

犬におよそ3日前後の絶食絶水をさせます。これにより膵臓が休まり、炎症も抑えることができます。犬がご飯を食べたり水を飲んだりすると、膵臓は活発に働き、膵炎の炎症を悪化させてしまうので、それを防ぐために必要な期間となっています。

療法食への切り替え

膵炎の犬に良い低脂肪の療法食に切り替えることがあります。膵炎の犬に適した低脂肪の療法食のドッグフードもあるそうなので、医師からそれを指定されることもあります。

市販品のフードやおやつは高脂肪のものが多いので、膵炎と診断されたら、これまで与えていたフードやおやつをそのまま与えても良いのか、ひとつひとつ獣医師に確認した方が良いでしょう。

また、手作りのごはんを与えているご家庭も、食事の見直しをすることになるでしょう。油の多い物を控え、野菜や脂肪分の少ない食べ物を中心としたメニューに切り替える必要があります。

犬の膵炎を検査で判断する方法

犬に膵炎の疑いがある場合は、下記のような検査を行います。どれかひとつではなくこれらを組み合わせて行い、ほかに考えられる膵臓癌などの可能性なども踏まえながら総合的な判定をします。

血液検査の数値に異常がないか

犬に膵炎の疑いがあるときは、まずは血液検査を行います。血液を遠心分離機にかける測定法です。採取量は0.5~1㏄程度です。膵炎の場合は、CRPという検査の数値が上昇します。この数値の大きさで、炎症の大きさが判断されます。

また、膵臓の細胞に異常があると、血液中のリパーゼ(脂肪消化酵素のひとつ)の量が、通常の数百倍にも膨れ上がるので、診断の目安となっています。そのほか、様々な検査の数値の結果を総合して、膵炎かどうかが判断されます。

犬膵特異的リパーゼ検査用キットを用いる

膵炎を判定するための、専用検査キットを用いる場合もあります。これは、犬の血液をキットに垂らし10分ほどで判定がでます。検査の結果が正常ならば、膵炎の可能性は低くなり、異常値であれば膵炎の可能性が極めて高くなります。

レントゲン検査、超音波検査

重症な膵炎の場合、犬の膵臓だけでなく周辺臓器にも異変が見られることがあります。肝臓や十二指腸が白っぽく見えていたり、胃の周辺が白っぽく映っていたりするときは重度の膵炎の可能性が出てきます。また、胃の周囲の脂肪組織がギラギラして見える場合は膵炎の疑いが出ます。

犬の膵炎を予防する方法

膵炎は、発症の決定的な理由は明らかになっていません。しかし、健康的な食事を心がけることで、予防も可能な病気とも言われています。犬におやつを与えすぎることや、嗜好に偏った食生活をさせてしまうと膵炎になる可能性は高くなります。健康なうちから、食生活に気をつかってあげることが予防へとつながるでしょう。

また、それぞれの犬種に合った適度な運動は大切です。肥満気味の犬に発症例が多いとも言われているので、日頃からの体重管理も大切です。

膵炎の犬に食事をさせるポイント

犬の食事は、低脂肪の物に切り替える必要があります。手作り食を与えている家庭の場合は、ささみ、さつまいも、じゃがいもなどが良いと言われている食材です。普段の食事だけでなく、おやつにも取り入れると良いでしょう。

しかし、膵炎を治そうと低脂肪にこだわり過ぎて、ほかの栄養分が足りなくなってしまうこともあるので、そのバランスが難しいところです。時には食事メニューを書き出し、診察の際に獣医師さんに栄養バランスの相談をするのも良いかもしれません。

ドッグフードにも、膵炎の犬用に考えられた物があります。一般的に市販されているドライタイプのドッグフードの脂肪含有率はおよそ13%と言われていますが、これは、膵炎を起こしている犬には多すぎる含有量です。膵炎の犬の場合、脂肪分は5%くらいのフードが理想です。

また、膵炎を起こしている犬は、消化機能が弱っています。消化吸収を助ける働きが考慮されたフードが適していますので、切り替えることをおすすめします。

犬の膵炎は再発する?繰り返し起こる場合は

膵炎は再発の可能性がある病です。再発と診断された場合は、再び絶食絶水になることもあるそうです。

犬によっては、慢性膵炎から急性膵炎に変わることもあります。膵炎が繰り返し起こることを防ぐことは難しいのですが、食事の管理と定期診を怠らないことが大事でしょう。

また、ほんの少しの異変にも躊躇せず、即病院へ行くことも大切です。特に、膵炎の症状の嘔吐や下痢のほか、ちょっと口臭がする場合は、消化器官がまた弱ってきているサインです。日頃から気を付けてみてください。

まとめ

犬の膵炎は完治は難しいですが、症状が軽いうちならば適切な治療をしながら元気に過ごすことができます。一方で重症化してしまうと亡くなることもある病です。早期発見・早期治療が非常に大切です。

どの病気にも言えることですが、膵炎は特に日頃の食生活が大事です。「可愛いから」「欲しがるから」と言ってつい人間の食事を分け与えたり、好物ばかりを与え続けていたりすると、それが犬の健康をむしばむ結果になってしまいます。

人間と同じく健康的な食生活と健康管理を怠らないことが大切です。いつまでも犬に元気でいてもらえるよう努めていきましょう。

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執筆ライター
白柴と生活中。ペットショップ巡り大好きです。(可愛い!でもうちの子が一番可愛い!)と毎回思っています