愛犬に待ち受けていた試練
今年の九月で9歳になるお母さん犬がいます。我が家に来てから6匹の子犬を産み、一番小さいながらも我が家の犬たちの中でいまだにボスの座をキープする凄腕お母さん犬です。
しかしながら、我が家にやってきた約8年前、まだまだ子犬だった彼女は「いくつかの病気」と闘いました。
最初の病気
我が家に来る数日前のことです。ペットショップから「チェリーアイ」にかかった、という連絡がありました。メールで送ってもらった写真を見ると目に赤い腫れものができていました。
まだ3か月になっていない月齢でしたので、手術という方法はまだ先になります。点眼でどうにか治ってくれることを祈りつつ、しばらくはこのままで過ごすこととしました。
少し目は気になるようでしたが、見た目の痛々しさほどに当人はつらさを感じていないようだったのが救いでした。
そんな病気をかかえつつ我が家にやってきて1週間後、「血便交じりのウンチ」を出すようになりました。お尻が切れてつく血の色と違って、黒っぽい鉄のようなにおいのする一種独特の血便です。
食欲もなく、ぐったりとうずくまってしまっています。
小さな小さな体で一生懸命つらさを耐えているようです。
コクシジウム症の特定
彼女の状況からしてこれは尋常ではないと判断、急ぎ動物病院に連絡し、ウンチとともに診察を受けることにしました。顕微鏡でウンチを検査すると見事に「コクシジウムのオーシスト」がたくさん見られました。
コクシジウムは検便で診断をしますが、この検便で見つかるのはオーシストと呼ばれるコクシジウムの卵です。
体外にウンチとともに出た後ほかの宿主に感染するのですが、より確実に感染させるため、このオーシストという形状で過酷な外界から自分自身を守りつつしばらく過ごし、目指す新しい宿主の消化器官内に入ってスポロゾイド→メロゾイドと繁殖できる形状に変化し本格的に寄生を開始します。
オーシストの状態では何の症状もでませんが、その分、塩素系などの一般消毒薬にはかなりの耐性があり、通常の消毒薬では駆除できない厄介者となります。
一方、成長してメロゾイドになると、消化器官に寄生し、宿主の栄養分を奪い、たくさんのオーシストを量産していきます。
成犬であれば感染したとしてもちょっと下痢気味?と思える程度の体調の乱れになる程度のようで、メロゾイドになると自身の免疫でが十分に有効なため、駆虫できるようです。
ただ、これが子犬や闘病中、病後など体力が著しく落ちている犬の場合には、免疫が低下していることもあり、激しい下痢と嘔吐、食欲低下が現れます。
さらに進むと体重減少、成長不良などが起きてしまいます。まさに体力のない子犬にとっては命に係わる一大事です。
早速、駆除が始まりました。
闘病の記録
コクシジウムの駆除の特徴
コクシジウムの大変なところは、成虫とオーシスト、双方を駆逐しなければいつまで完治しないという点でした。いったん体内の成虫を駆除しても、オーシストを口から接種すると、また感染してしまいます。
また、オーシストは先述しましたが、植物の種のようなもので、通常の消毒薬が効かないばかりか、外界が寒い冬や暑い夏という気候変動を迎えてもそのままでしばらく生き続けることができます。
まずは成虫の駆除です。これは、動物病院より処方された駆虫薬を飲ませることで対処します。駆虫薬という名前ではありますが、成虫そのものを攻撃するのではなく、成虫の繁殖能力を止めることで増殖を抑え、その間に宿主の免疫で成虫を駆除します。
同時にオーシストも駆除します。これは、体外にウンチに混ざって出てくるため、跡形もなくウンチを片付ける必要があります。
つまり、ウンチをきちんと捨てるだけでなく、お尻を擦り付けるような場所もしっかりと消毒して殲滅させるということとなるのです。
熱には弱いため、煮沸などの処理でしっかりと消毒し、ウンチがついてしまったものは可能な限りどんどん処分していきます。
そのため、彼女用のベッドは1日持たないことも多く、人用の毛布を切断して縫い、ベッド替わりに使っていました。人用の毛布は暖かく、子犬の彼女にとってもよかったようです。
回復へ
掃除と駆虫薬投与をはじめ数日経過しました。
3か月ごろの1週間、というのは成長がたいへん著しい時期です。
このころになると、彼女の体も発症したころに比べるとぐんと成長し、コクシジウムに対する免疫ができたのか、下痢も随分と固形になってきました。
血液も随分と混ざらなくなり、発症の際にみられた鉄のにおいのするウンチ臭から普通のウンチ臭になってきました。これほどにウンチの臭いをうれしいと感じることになるとは思いませんでした。
みるみる体力が戻り元気になってきます。食欲も戻ってくるとその速度はさらに増しました。
そして約二週間後、便中にあのにっくきオーシストが見当たらなくなり、やっと完治とのうれしい言葉を病院の先生からいただくことができたのです。
犬のコクシジウム闘病後の注意点
無事、回復したとはいえ、コクシジウムはほかの子犬にとっても生死にかかわるばかりでなく、その繁殖形態から、注意が必要です。
検便の継続
オーシストが検便で見えなかったとはいえ、いないと断言することはできません。顕微鏡で確認したとしても、すべての便を顕微鏡でみるわけではありません。
また、調べた便には偶然混ざっていないけれども、次の便には入っていたかもしれないからです。
コクシジウム症と診断されるときの便には、ほぼ全面にオーシストが見られるので、顕微鏡のエリアで見えない時点でほぼ完治といってよいですし、体調が完璧に回復しきっていることがあれば、診断的には「完治している」ということになります。
しかし、感染を防ぐ意味も含めて、確認しそこなているものはないか、何度もランダムに問題ないことを確認する必要があるわけです。
清潔に保つ
検便の継続でも記述しましたが、まったく身の回りから消え去ったかどうかはゆっくりじっくりと確認しなければわからないことです。
当人は抗体ができていることもあり、こののちにコクシジウム症で体調が大きく崩れることはありませんが、ほかに感染する可能性があります。その間は通常の消毒薬での消毒以外に、オーシスト対策として熱処理が必要となるでしょう。
散歩を控える
ウンチには特別な能力があるのか?犬は状況確認も含めてウンチを見るとついつい臭いをかぎに行きたくなります。我が家のお父さん犬はホットなウンチを体にこすりつけてしまうことさえあります。食糞をする子もよくいるのは知られています。
コクシジウムは消毒薬では駆除できません。保菌犬といっても、成犬で体力があれば、症状がほとんどでないため、飼い主さんも気が付かないことが多くあります。
しかし、この状態ですと、散歩に行くたびにオーシストをばらまいていることになります。そして、ウンチを放置している間、ウンチの中でいつか誰かの体の中に入れるまで、オーシストとして長く生きて待ち続けています。
道端のウンチを踏んでしまうことがただの不衛生で不愉快な出来事だけではなく病原体の運び屋になっていることになるわけです。
保菌犬に、自分の家の犬がならないよう、感染が確認されたらしばらくは散歩を控える必要があります。問題なかったとしても、マナーというだけでなく感染防止のためにもウンチを持ち帰ることはもちろん大切だということはいうまでもありません。
コクシジウム症と闘った愛犬の今
その後の彼女ですが、コクシジウムとの戦いからすっかり体力が回復し、ずいぶんとお姉さんになってからチェリーアイの手術を行いました。
このチェリーアイもかなり頑固な病状で、いったんは成功した手術ですが、その糸が切れてしまったのか再発してしまい、2度も手術を行いました。
獣医師はより確実に対処できるよう糸の細さをさらに細いものを選んだりと、様々な対処をして2度目を挑んでくださったおかげで、今では目もパッチリです。
そして、その後にお父さん犬となる子犬がやってきて、2回の出産、育児をし、今日も元気に散歩にでています。
まとめ
小さな命がお家にやってきたときって、本当にうれしいですよね。かわいさがさく裂しています!
こんな状況にもかかわらず、ペットショップやいろいろなWebサイトでは「そっとしておいてください」というコメントが見られます。
ですが、これには大きな理由があります。今回記述したコクシジウムについて、同じように感染したとしても大した病状になるわけでもなく治ってしまう子もたくさんいます。
なるかならないか、個体差によることが多いのですが、発症の要因の一つに「ストレス」があります。人間も、同じ言葉がけをしてもストレスに感じない人もいる一方で激しく落ち込んでしまう人もいます。
犬も同じで、ストレスと感じない子もいれば、思いがけない行動でストレスになっている子もいます。ストレスだと認識している子もいれば、ストレスだと感じていないのに、自分の意識の外でストレスだと認識していることも多々あります。
この差はちょっと観察しただけではわかりません。
ですから、ちょっと寂しいかもしれませんが、来てから2週間はゆっくりとした時間を過ごさせてあげてください。
犬以外にもいろいろな小動物を育てたことがありますし、知り合いの方々の体験談も含めた私個人的な感想として、自宅に迎えての1~2週間に命にかかわるような病気になる子が多いように思えます。
この2週間ほどはちょうど新しい環境に四苦八苦しつつ対応し、慣れ始める時期と合致するように思えます。
ウンチをひろってかなければならない、ということについても、ちょっと不衛生、マナーとしてどう?という精神的な問題で片づけられてる方もいますが、それだけではありません。
このコクシジウム症は拾わないウンチから感染することもままあるのです。
マナーと呼ばれるいろいろな事例はマナーだけではなく実際に問題を引き起こすからこその結果であることも多いです。
たくさんの子犬が厳しい闘病生活を送ることなく、元気に過ごしてくれることを、切に願っています。
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