犬の胸水ってどんな病気?
胸水とは、犬の胸部にたまった水のことで、そのたまった水が胸の中の臓器、つまり肺や心臓を圧迫します。通常であればないはずの量の液体が、心臓や肺の機能を邪魔してしまいます。
胸水は、肺の内部に水がたまる肺水腫とは異なります。体内には様々な臓器が収まっていますが、臓器と臓器の間には隙間があります。胸部でそのような隙間に液体がたまると胸水、腹部でそのような隙間に液体がたまると腹水となるわけです。胸部と腹部は横隔膜で隔てられています。
動物病院で愛犬の胸部レントゲンを撮った時に、白い部分と黒い部分があるのを見たことがあるのではないでしょうか。白い部分が心臓と血管で、肺は全体としては黒く、ところどころ灰色や白が混ざって見えます。
正常な胸部にも、肺がスムーズに機能するための潤滑油として、ごくわずかな胸水がありますが、レントゲンで液体が貯留していると確認できるほどの量ではありません。臓器の隙間である胸腔に異常な量の液体がたまると、病的な胸水としてレントゲンやエコーでその存在を診断することが出来ます。
肺を包む胸膜と肋骨や筋肉の下にあり胸郭を内張りしている胸膜との間である胸腔に、肺や血管、リンパ管などから体液が漏れ出たり滲み出したりすることで液体がたまり、レントゲンでは通常では黒い部分が白くなったり、心臓の輪郭が見えなくなったり、通常は見えない肺と肺の隙間が見えたりするようになります。
たまった液体の種類によって、腸から吸収された脂肪を含んだリンパ液(乳び)であれば「乳び胸(にゅうびきょう)」、血液であれば「血胸(けっきょう)」、膿であれば「膿胸(のうきょう)」と、「胸水」とは言わずにどんな液体がたまっているのかが分かる言葉が用いられます。
犬の胸水の原因と症状
では、犬の胸水は一体何が原因なのでしょうか。胸水があると、本来液体がない場所に液体がたまることで、体に極端な負荷がかかり、さまざまな機能障害を起こしてしまいます。「胸水」とは一つの病気の名前ではなく、様々な病気によって胸部にたまった液体のことですので、胸水がたまる原因は様々あります。ここでは、犬の胸水の原因と症状を見ていきましょう。
犬の胸水の原因
犬の胸水の原因は、多くあります。心臓病や感染症、腫瘍など、多くの病気が胸水貯留を引き起こす可能性があります。
たまっている液体が血液や乳び、膿ではない場合、胸水は「滲出液(しんしゅつえき)」なのか「漏出液(ろうしゅつえき)」なのか、という分類が行われます。そのどちらなのかが分かると、原因となっている病気をある程度絞り込むことが出来るからです。
滲出液とは、基本的には炎症があってたんぱく質とともに血管外に出てくる液体で、胸水が滲出性である場合、肺葉捻転、腫瘍、肺炎、胸膜炎、胸部の外傷(落下、交通事故などによる強打、ケンカなど)、感染などが考えられます。
漏出液とは血管から液体が漏れやすくなった結果血管外に出てくる液体で、胸水が漏出性である場合右心不全(心臓病やフィラリア症などによって)や心膜疾患、腫瘍、腎不全、肝不全、膵炎、ネフローゼ症候群、横隔膜ヘルニアが考えられます。
犬の胸水の原因がはこのように多くあります。リンパ液がたまる乳び胸は原因が特定できない場合も多くあり、そのような場合には「特発性乳び胸」と診断されます。「特発性」とは原因が分からない、という意味です。
犬の胸水の症状
- 呼吸困難
- 咳
- 舌や粘膜が青紫色になる(チアノーゼ)
- 食欲の低下
- 元気がなくなる
- 動きたがらない
- 下痢や嘔吐
胸水がたまり始めた初期では無症状であることも多く、見た目にもわかりません。胸水が緩やかにたまっていくと徐々に心臓や肺を圧迫し、胸水の量がある程度多くなって初めて呼吸が苦しそうなどの症状が出てきます。胸水の原因によっては急に液体が増えることもあり、その場合には症状も急に現れます。
口を開けて呼吸をしたり、呼吸の回数が増えたり、体全体で大きく呼吸をするといったことが見られれば、呼吸が苦しいサインであり呼吸困難の状態です。
呼吸困難になると血液中に十分な酸素を取り込めないため、舌や粘膜が青紫色になります(チアノーゼ)。チアノーゼが見られる場合は、すぐに呼吸を改善したり酸素をかがせてあげないと命が危険な状態となります。
呼吸の苦しさや胸水の原因となっている病気によっては、食欲がなくなったり、下痢や嘔吐、お散歩に行かない、遊びたがらないなどの症状をみせることもあります。
- 初期では無症状のことが多い
- 呼吸器の症状を見逃さない
- チアノーゼは緊急事態!すぐ動物病院へ
犬の胸水の治療法
すでに病気をもっていることが分かっていて、その病気によって胸水や腹水がたまる可能性があれば、それを防ぐ手だてもできます。しかし呼吸が苦しくなったり元気がなくなったりして病院に行き、初めて胸水がたまっていることが分かる場合も多くあります。レントゲンやエコー(超音波)検査で胸水がみつかった場合、まずはどんな胸水であるか分類し、さらなる検査を行って原因となっている疾患を特定し、呼吸状態の改善とともにその疾患の治療が始められます。
ここでは、犬で胸水がたまっている場合に行われる治療法についてご紹介します。
投薬治療
犬で胸水がたまっている場合、軽度であると判断された場合、胸部にたまった液体を減らすために投薬治療が行われることがあります。例えば利尿薬を用いて、体内の余分な水分を排出させます。
他にも、原因となっている疾患によっては血管拡張剤やステロイド、ルチン(サプリメント)などが処方されます。膿がたまる膿胸の場合には、どんな細菌が感染しているのかを調べ、抗生物質による治療も行います。
外科治療
胸水の量が多く呼吸が苦しくて緊急性がある場合には、外科的に胸水を抜く治療が行われます。胸に針を刺してたまっている液体を抜き、肺が膨らむスペースをつくり呼吸がちゃんと出来るようにします。事故やけがで血胸になっている場合には、どこから出血しているのかを突き止め止血をしなければなりません。乳び胸の場合、長期にわたって何回も乳びを抜くことは、その乳びに含まれる栄養の喪失(脂質やビタミンなど)につながり、犬の栄養状態を悪化させてしまうため、投薬による治療で治らない場合には全身麻酔による手術を行うことも検討されます。
乳び胸の手術では、最も太いリンパ管である胸管を結紮(けっさつ)して乳びの流出量を止めたり、乳びのたまり場である「乳び槽」を切開したり心膜を切除して、リンパ管内の圧力を減らす、といった方法がとられます。
乳び胸は自然に乳びの流出が止まる場合もあったり、手術でも完治できない場合もあるとのこと、愛犬にとってなにが最善な方法であるか、獣医師とよく相談して決めるようにしましょう。
漢方治療
胸水の治療は、根本的な原因となっている疾患の治療が最も重要なことですが、なかなか治療が難しい疾患も多々あります。
胸水が何度もたまって、そのたびに愛犬に痛い思いをさせて針を刺して抜いたり、肺が圧迫されて呼吸が苦しくなると、生活の質も下がってしまいますね。
動物病院によっては、胸水の治療の一環として漢方を処方してくれるところもあります。体質改善を促し、胸部に液体がたまることを遅らせるという目的で使用します。
もちろん、原因となる疾患の治療も併せて行いますが、胸水によって愛犬の生活の質を落ちるのを出来る限り防ぎたい、治療の効果をもっとあげたい、胸水を抜く頻度を減らしたい、といった場合は、漢方薬も使えないか獣医師に相談してみましょう。
食事療法
また、乳び胸の栄養管理として、「乳び」内の脂肪量を減らし、作られる乳び量を減らしたり乳びが再吸収されやすくするために、低脂肪食や中鎖脂肪酸を多く含んだ食事を指示されることもあります。投薬治療と併せて行われます。
胸水は治療で完治する?寿命は?
犬の胸水は外科的に胸水を抜いたり投薬で一旦は胸水がたまらなくなっても再発することも多くあります。それは、胸水の原因となる疾患には、心不全や腫瘍などの治療が難しい疾患が多いことが挙げられます。
外傷や感染が原因の胸水で、治療が適切な時期に行われれば、一度きりの治療で済むことも見込めますが、多くの疾患は一生付き合っていくものであったり、治療に長い期間がかかったりするものです。
そして、その疾患が進行した場合に胸水がたまることが多いため、余命については胸水の有無だけではなくその疾患の進行状態や、治療をいかに的確に行うかで変わってきます。必ずしも「胸水になった=余命わずか」というわけではありませんが、胸水がたまっているのを放置してしまうと、さらなる悪影響が出てきます。獣医師と相談しながら、適切な治療を受けましょう。
胸部にたまった水を何回も抜きながら、もともとの疾患の治療を続けていくことで寿命を全うすることができる犬もいますよ!
まとめ:日頃から愛犬の健康チェックをしよう!
今回は、犬の胸水についてご紹介しました。犬の胸水は何らかの疾患が原因でたまるもので、原因疾患の特定と治療、苦しい呼吸を改善する早期治療がとても重要です。
犬は飼い主さんの前では元気なフリをすることがあり、不調のサインになかなか気づけないこともありますね。
胸水がたまっていると呼吸器の症状が表れやすいため、日頃から愛犬の正常時の呼吸の回数や呼吸する時の胸の動き方など確認しておくと一つの判断材料になります。
また、愛犬の行動にちょっとした違和感や変化を感じたときは、動物病院を受診するようにしましょう。