加齢による体力低下や認知症
高齢犬になると体力が低下してくるため、自然と眠る時間が増えてきます。体力低下だけでなく外部刺激に対しての反応も鈍くなるため、寝ている間の物音や飼い主さんの気配で起きることなどが減って、長時間眠り続ける傾向にもあります。寝ている時間は犬によって異なりますが、成犬期(1~7歳)に比べて4~5時間程度長くなるのが平均的だとされています。
また、日中寝ている時間が長くなり、夜に起きて徘徊したり夜鳴きをしたりしてしまうのも高齢犬に見られる行動で、認知症の症状とされています。これらは日中にできるだけ起こしておくようにするなど、昼夜のバランスを保つことで防ぐことができると考えられています。
甲状腺機能低下症などのホルモン疾患
高齢犬の眠る時間が長くなることは自然なことですが、病気など年齢以外の理由で長時間眠るようになってしまうこともあります。
その理由としてまず考えられるのが、甲状腺機能低下症などのホルモン疾患です。甲状腺機能低下症は比較的大型犬に見られる疾患で、甲状腺ホルモンの分泌が少なくなるもの。甲状腺は体を活発にするホルモンのため、その働きが弱まることで体の代謝が下がって眠気を感じやすくなってしまうのです。
症状としては、元気がなくなり食欲も低下してあまり食べないながらも、徐々に太ってくるというのが特徴。皮膚病を併発することも多く皮膚にシワができたり、むくんだりすることがあり、中には脱毛してしまう犬もいます。なかなか改善しない原因不明の皮膚トラブルの基礎疾患として甲状腺機能低下症が隠れていることも珍しくありません。
眠る時間が長くなり、少しずつ太るということ自体は高齢犬でよく見られることなので発見されるのが遅れがちですが、ホルモン疾患に関しては血液検査などで見つかる可能性も高いので、特に高齢犬は定期的な健康診断が欠かせません。血液検査で脂質や肝機能の数値が高い場合などはホルモン検査など、さらに詳しい検査を行い、適切な治療を行う必要があります。
脳腫瘍などの中枢神経疾患
高齢犬が長時間眠る理由として、脳の病気が原因である可能性も。犬が突然眠り込んでしまう『ナルコレプシー』という病気がありますが、この病気が高齢になって後天的に発症する理由に脳炎や脳腫瘍など、脳疾患や中枢神経疾患が考えられるのです。
ただし、ナルコレプシーは先天的なものが多く、遺伝性が高いとされています。ドーベルマンなど好発犬種が数種類存在し、先天的なナルコレプシーの場合は1歳未満のパピーで発症することが多く見られます。ナルコレプシーは突然強い眠気に襲われる、脱力して力が入らなくなるという症状で基本的には命に関わる疾患ではありませんが、有効な治療法がなく生涯発作と付き合っていく必要があります。
ナルコレプシーは血液検査を始めMRIや神経学的検査、脳脊髄液検査などによって診断することができるので、睡眠時間があまりにも長いと感じたときや急に倒れ込むように眠ってしまうような症状が見られる場合などは、動物病院で相談してみるといいでしょう。
まとめ
高齢犬になると、体力低下や感覚が鈍ることによって長時間眠ったり日中寝ていたりすることが多くなります。食事や排せつ、散歩以外の時間はほとんど寝ているということも珍しくありません。それ自体は自然なことなので、起きているときに元気で食欲もあるようであれば見守ってあげて問題ないと思いますが、少しでも様子がおかしいと感じた場合は動物病院で相談することをおすすめします。
高齢犬で眠る時間が長くなる理由として、年齢だけでなくホルモン疾患や脳疾患など重大な病気が隠れていることがあります。症状からは判断しにくい病気も多いので、年に一度の血液検査など定期的に健康診断を受けるようにして、早期発見できるようにしましょう。
ナルコレプシーはドーベルマンやレトリバー、ダックスフント、プードルなどが好発犬種として挙げられます。ナルコレプシーの原因は、脳内のオレキシンを作り出す神経細胞が働かなくなって起こります。この神経細胞が働かなくなる遺伝子異常が犬のナルコレプシーの血統で見つかっています。ナルコレプシーの患者では脳脊髄液の中のオレキシンがほとんど消失しています。
■https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-043.html
■https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/129/6/129_6_413/_pdf