犬のオシッコが土壌の微生物叢に影響?
散歩中の犬のオシッコ、アスファルトの上などでは水で流すようにしている方も、植え込みなど土のある場所では水は使わないという方もいるかもしれません。アメリカのコロンビア大学の在校生と大学院生、そして生態学者の研究チームがニューヨーク市の都市土壌に対して、犬のオシッコがどのような影響を及ぼすのか調査を行い、その結果を発表しました。
もともとこの研究チームは、ニューヨーク市のグリーンインフラストラクチャー(緑の社会基盤)の調査研究を行っていました。その過程で柵のない街路樹など、一定の場所の土壌がカチカチに固まって雨水が浸透していないように見えることが発見されました。「これは犬の排尿場所と関係があるのでは?」という疑問から、今回の調査が行われました。
犬のオシッコと土壌の関係を調査する実験
研究チームはニューヨーク市が植樹しているのと同じ植物を1種類採用し、都市環境から採取した土壌で複数の鉢植えを作りました。犬の尿を手に入れることは予想以上に難しかったため、購入したコヨーテの尿が実験に使われました。
コヨーテの尿は犬のものに近く、農作物に被害を与える草食動物を寄せ付けないよう、周辺に撒くために市販されています。実験は1か月に渡って行われました。水のみ又は様々な濃度の水と尿の混合物を鉢植えの植物に与え、毎週それぞれの土壌の微生物が調べられました。
実験の結果は目に見えてはっきりしたものでした。水と尿の混合物を与えた鉢では土壌中の微生物の多様性は最大で3分の1にまで減少し、微生物叢の細菌の種類が変化していました。これら微生物の多様性が減少した鉢では、尿中の窒素とpHの低さが土壌を硬くし、結果として水の流出量が大幅に増加しており土壌の吸水性が低下していることを示していました。これはなかなかショッキングな結果ではないでしょうか?
土壌の微生物叢が変化するとどんな影響がある?
では、土壌中の細菌の多様性が減少すると、どのような影響があるのでしょうか?都市の街路樹や道路の中央分離帯の植木などは、景観を美しく見せるためだけに植えられているのではありません。都市部の表面のほとんどはコンクリートやアスファルトなど、水を吸収しないもので覆われています。雨が降れば水は下水道システムに流れ込み、処理施設で汚染除去されるのが本来のルートです。
しかし、雨の量があまりにも多く下水道システムの閾値を超えてしまった場合には、汚水が地元の水路に流れ込んでしまうおそれがあります。街路樹などの都市の土壌部分は、このようなことが起こるのを防ぐために設計された社会基盤の一つ=グリーンインフラストラクチャーです。
都市の土壌が豊かな微生物叢の多様性を持ち、十分な吸収性を保つことは衛生や安全の面で非常に重要なことなのです。犬のオシッコが社会基盤や環境に悪影響を与えると知ると、これはちょっと真剣に考えなくてはという気持ちになります。
まとめ
コロンビア大学の研究チームが発表した、犬のオシッコが都市の土壌の微生物叢の多様性を減少させ、水の吸収性を低下させるという調査結果をご紹介しました。私たちは犬の排泄物は自然の一部だと考えがちです。しかし、人間によって作られ増やされて生きている犬という生き物は自然の一部ではありません。
今回ご紹介したのは都市部の土壌での調査結果ですが、山や海など自然の中にあっても犬という生き物は自然の一部ではなく、その行動も排泄物も人間が責任を持たなくてはいけないものだということを改めて知らしめる調査結果だと感じました。
《参考》
https://link.springer.com/article/10.1007%2Fs11252-019-00842-0
https://www.popsci.com/dog-pee-soil-microbiome
ユーザーのコメント
女性 匿名
うちの犬は室内トイレでしか排泄しませんが、柴犬等の原始系に近い犬は外以外で排泄しない傾向があるみたいですし、マーキングや臭い嗅ぎは犬にとってのSNSみたいなものですから、全ての犬の排泄をさせないようにするというのは難しい気がします。
水を流すだけでなく、ペットシーツで吸い取る等すれば多少はマシになるのでしょうか?