犬のクッシング症候群とは
犬のクッシング症候群の正式名は「副腎皮質機能亢進症(ふくじんひしつきのうこうしんしょう)」です。副腎は腎臓のすぐ近くにある小さな臓器で、左右に一対存在します。副腎の機能は副腎皮質ホルモン(コルチゾール)の産生と放出で、副腎の構造は皮質と髄質とに分かれておりそれぞれの場所で複数種のホルモンを産生しています。
この副腎皮質ホルモンは体の免疫系やストレスに対する作用、タンパク質代謝、糖代謝や脂質代謝などの働きを担っています。クッシング症候群は何らかの原因により副腎皮質ホルモンの分泌が過剰になり、さまざまな症状を引き起こします。
犬のクッシング症候群の症状
- 多飲多尿
- 腹部膨満
- 脱毛
- 食欲増進、食欲不振
- パンティング(息が荒い)
- 筋力低下により立てない
- 皮膚のかゆみ、皮膚病がなかなか治らない
犬のクッシング症候群の代表的な初期症状は多飲多尿です。たくさん水を飲み、おしっこの量が増えるのが特徴ですが、水を飲む量の目安として1日に体重1kgあたり100cc以上の水を飲むようであれば病気を疑います。その他には、お腹がぽっこりと膨れて太っているように見えたり、その逆に痩せ細ってきたりします。また、左右対称の脱毛などが現れるのも特徴のひとつです。
犬のクッシング症候群が進行すると、けいれんなどのてんかん発作や筋肉が減ることによって動きたがらなくなったり立てなくなったりすることがあります。また合併症として糖尿病を患うことがあり、他に膀胱炎を引き起こし血尿などがでることもあります。末期症状としては心臓病、肝臓病、呼吸困難による血栓、免疫力低下などの悪化をたどり、最悪の場合突然死を引き起こすこともあります。
犬のクッシング症候群の原因
下垂体の腫瘍
犬のクッシング症候群の原因は、下垂体の腫瘍が約8割と言われています。副腎皮質ホルモンは脳の下垂体からの指令で分泌量が調節されているため、下垂体に腫瘍ができると指令を誤り副腎皮質ホルモンを過剰に分泌してしまいます。その結果としてクッシング症候群を発症します。
副腎腫瘍
犬のクッシング症候群の原因の中で、副腎腫瘍が約1割と言われています。腫瘍が原因で副腎が肥大化し、副腎皮質ホルモンを過剰に分泌してしまいます。その結果としてクッシング症候群を発症します。
薬の副作用
まれではありますが、犬のクッシング症候群の原因に医原性副腎皮質機能亢進症があります。何らかの病気の治療で適量でないステロイド剤を長期間使用していると、ホルモン濃度を適正量に調節するからだの機能が衰えてしまいます。その結果として、体内に副腎皮質ホルモンが増え過ぎてしまいクッシング症候群を発症します。
犬のクッシング症候群の検査方法
犬のクッシング症候群は、ひとつの検査だけでなく複数の検査の組み合わせで確定診断をおこなうのが一般的です。
ACTH刺激試験
血液検査によりコルチゾール(副腎皮質ホルモン)の数値を測定します。コルチゾールは、下垂体からのACTH(副腎皮質刺激ホルモン)の刺激によって分泌されます。このACTHを用いて血液中のコルチゾール値により診断します。
犬が副腎腫瘍を罹患していると副腎皮質ホルモンが過剰に分泌するため、コルチゾールは異常高値を示します。また下垂体の腫瘍であった場合でも、副腎が過形成を引き起こしていることが多く副腎皮質ホルモンの異常高値を示します。
反対に副腎皮質ホルモンが異常低値を示した場合は、医原性クッシング症候群を疑います。これは、下垂体のACTH分泌能力が低下し副腎皮質ホルモン分泌能力も低下しているためです。
低用量デキサメタゾン抑制試験
低用量デキサメタゾン抑制試験は、下垂体の機能を利用した検査方法です。まずステロイド系の抗炎症薬であるデキサメタゾンを低用量投与し、約8時間後に血液検査でコルチゾールの数値を測定します。犬がクッシング症候群に罹患している場合、血液中に副腎皮質ホルモンが過剰に増加しても下垂体からのACTHの分泌量が低下せずコルチゾールの分泌量も低下しません。
高用量デキサメタゾン抑制試験
高用量デキサメタゾン抑制試験は、副腎の機能を利用した検査方法です。まずステロイド系の抗炎症薬であるデキサメタゾンを高用量投与し、約4時間後と8時間後に血液検査でコルチゾールの数値を測定します。下垂体の腫瘍の場合はコルチゾールの値が低下します。副腎腫瘍の場合はコルチゾールの値に変化が起きません。ただし例外があるため、犬のクッシング症候群の補助的な検査として行うことが多いです。
超音波検査
超音波を使って副腎の腫大の有無や変形、また左右の大きさなどを検査します。犬のクッシング症候群の原因別で所見が異なります。下垂体の腫瘍の場合、左右の副腎が腫大しますが変形は認めません。副腎腫瘍の場合、左右どちらかの副腎だけが変形し腫大します。また、腫瘍でない方の副腎は萎縮し描出困難となることがあります。
画像診断(レントゲン・CT・MRI)
超音波検査と同じくレントゲン・CT・MRIを使って副腎の腫大の有無や変形、また左右の大きさなどを検査します。犬に全身麻酔をかける必要があるので、クッシング症候群の検査の中では大掛かりなものとなります。
この他にも、尿比重(尿の濃縮度合い)を調べる尿検査などがあります。
検査費用
犬のクッシング症候群の確定診断には、検査のために複数回受診する場合や入院する場合などがあります。条件により異なりますが、検査の合計は、おおよそ5万円が相場です。犬種や犬の大きさによっても違いますので、問診の際には検査方法と検査費用について確認しましょう。
犬のクッシング症候群の治療法
外科的療法
副腎腫瘍によるクッシング症候群の場合、切除が可能であれば外科手術が第一選択療法となります。また下垂体腫瘍が原因の場合、手術は非常に困難で危険度が高いと言われています。手術のリスクや術後の犬のケア方法について専門医に相談することをおすすめします。
放射線療法
下垂体腫瘍によるクッシング症候群の中でも巨大腺腫と呼ばれる大きな腫瘍の場合には、放射線治療をおこなうことがあります。放射線で下垂体の腫瘍を破壊する方法ですが、残念ながら日本には施設の数が多くありません。
また放射線治療は複数回必要となり、治療のたびに麻酔処置を行います。犬に大きな負担がかかるため、犬の状態を見極めながら治療を進めていきます。
内科的治療法
外科的療法が選択できない場合は薬の投薬を行います。薬は副腎皮質ホルモンであるコルチゾールの量を抑える作用がありますが、クッシング症候群そのものを治すわけではありません。症状を緩和させることが目的なので、長期にわたり薬を飲み続ける必要があります。
副作用により嘔吐や震えなどの症状があらわれることがありますので、犬の様子を注意深くみてあげる必要があります。また医原性によるクッシング症候群の場合には、ステロイド剤の投薬を徐々に中止していきます。
この他にもサプリメントや手作りの食事療法などを試す方もいるようです。これは高脂血症や高血糖に気をつけながら、良質タンパク質などの栄養を与え免疫力維持を目指すものです。また治療しないという選択肢もあるようですが、犬の負担を少しでも減らせるようケアすることをおすすめします。
犬のクッシング症候群の治療費
薬
犬のクッシング症候群の一般的な治療薬として、トリロスタン錠(アドレスタンやデソパンなど)があります。1錠700円~1,500円程度で、犬の体重によって薬の量が増減します。1カ月にかかる薬代は小型犬で月1,5万円~2万円、大型犬で4万円~6万円が相場のようです。動物病院により値段設定が異なりますので、処方の前に確認しておきましょう。
手術費用
副腎摘出術や腹腔鏡下副腎摘出手術など手術方法にもよりますが、総額25万円が相場です。クッシング症候群の治療費には麻酔や5日~14日程度の入院も含まれます。また手術により腫瘍を摘出後、コルチゾールや副腎ホルモンのコントロールが不能になってしまうことがあります。犬の症状やホルモンの値を測定しながら、ステロイド剤の内服治療をおこなうこともあります。
放射線療法費用
犬のクッシング症候群の放射線治療は総額60万円が相場です。治療費には麻酔や2~3日程度の入院も含まれます。痛みが少なく副作用も少ない治療法のひとつですが、治療効果が認められるまでに1年~5年かかると言われています。
犬のクッシング症候群の予防法
犬のクッシング症候群は、残念ながらワクチンなどの予防法がないと言われています。また完治も難しいため、少しでも予後を良好にするためには早期発見早期治療が最も重要となります。「犬のクッシング症候群の症状」で紹介したような症状や犬に異変が認めらた場合にはすぐに受診しましょう。
クッシング症候群になりやすい犬種
- プードル
- ダックスフンド
- ビーグル
- ボストンテリア
- ボクサー
- ポメラニアン など
犬のクッシング症候群の発症率は、人や猫よりも比較的多くみられます。主に5歳~8歳で発症しやすく、またオスよりもメスがかかりやすいと言われています。
好発品種としてはプードル、ダックスフンド、ビーグル、ボストンテリア、ボクサーなどで、遺伝的要素があるとされています。また薬の副作用によるクッシング症候群の場合には、特にかかりやすい犬種はありません。
クッシング症候群になると犬の寿命は短くなる?
クッシング症候群になった場合の犬の寿命は原因によって違います。また治療を行ったとしても合併症を併発することが多く治療がとても難しい病気です。しかし適切な治療と食事管理を行えば、寿命を全うすることも可能だと言われています。
一概には言えませんが下垂体腫瘍の場合、1年生存率80%、2年生存率70%、3年生存率60%というデータがあります。良性副腎腫瘍で手術が成功した場合は寿命を全うする可能性が高く、悪性副腎腫瘍かつ転移している場合は亡くなるケースが多いです。また薬の副作用によるクッシング症候群の場合は完治することが多いと言われています。
まとめ
クッシング症候群は犬に比較的多く見られる疾患のひとつですが、完治がとても難しい病気です。症状を少しでも軽くするために早期発見が重要となりますので、日頃から犬の様子を注意深く観察し、異変に気づいたら受診することをおすすめします。病院によって検査方法や治療方法、また治療費などが異なりますので専門医によく相談してください。
病気にかからず犬が長生きするためには、食事管理と適度な運動が必要です。スキンシップをしっかりとり、犬のストレスを発散させてあげることで免疫力を高めましょう。
ユーザーのコメント
30代 女性 コロン
40代 女性 くまよう
30代 女性 すみれ
10代 女性 チロル
女性 micklove
下垂体ではなく副腎に問題がある為、紹介状を書いてもらい来週大学病院に行く予定です。 手術出来るのか? 費用はどれくらいかかるのか? 不安でいっぱいです。
40代 女性 モミジ
40代 女性 夢子
50代以上 女性 匿名
40代 女性 匿名
毎日の飲み薬とインスリンの投与も欠かせません
最近やけにお水を飲むなーそれにオシッコの量も多いなと思い掛かりつけの動物病院で検査をした所判明しました
来週にはMRの検査も控えていますが、痙攣も起こす様になり今は入院中です
いつか来るであろうお別れの日が近いのかと思うと苦しくて辛いです
今自分に出来る事は何かを考え、早く退院できると良いなと思っています
40代 女性 匿名
40代 女性 海斗ママ
クッシング症候群ってなに??って思った気がするので…。
その子はすごく元気な子なのに寝ている時間が増えて、抜け毛もかなり多くなっておかしいなと思って病院に言ったら分かったそうです。やっぱり日々の変化を観察するのが病気の早期発見のためにも大切ですよね!
50代以上 女性 男爵のママ
40代 女性 ケリィ
私が参考にしたサイトです。(英語)
http://cushingsindogs.com/holistic-treatment-options/
あげる時はかかりつけの獣医さんに相談して決めていただければ安心と思います。
私は副作用が少ないと言うことと、サプリなので金銭面の負担も軽いので試してみてます。
50代以上 女性 ヨーキー
50代以上 女性 るるママ
尿量も多いですし、発作が原因で脚も脱臼したり骨折したり。
発作が続いて辛いのを思うと、クッシングで辛そうでしたが、見ていて仕方がないと思えました。
ご飯も亡くなる2日前までなんとか食べていましたし、最後までそばで見守ることができました。
40代 女性 匿名
心臓病のため、毎月通院したり、定期的に通常の検査はしています。
ここ最近、尿量が多い気がして、1週間ほど飲水量を測ってみましたが、飲水量は特に問題ありませんでした。
しかし、念のためにこちらからクッシングの検査をお願いしたところ、クッシング症候群と結果が出ました。
脳下垂体性が疑われていますが、他に症状がないことや、コルチゾールの上昇がそこまで高くないことから、投薬で様子を見ていくことになりました。
どんな症状が出るかは、個体差もあるんだと思います。
何かがおかしいと感じたときに、クッシング症候群のことを知っているのといないのでは、全然違うと思います。
現に家族はクッシング症候群を知らず、検査をしてもらうと伝えたら、どこも悪くないのになんで?と言っていたほどです。
愛犬にはいつまでも元気で快適な毎日を過ごしてもらいたい。
そのためにも、ちょっとした変化に気付いてあげることが大切なんだと、改めて思いました。
50代以上 女性 ひろ
病院を転々とし4院めで今は落ち着きました。
経緯は
2018年秋頃からお腹が出て、お尻の毛が左右対照に脱毛があり後ろ足の震えがあり受診。
①外科手術で有名な病院、以前ヘルニア既往あり、その時の痛みが出たと診断、ステロイド注射治療。有名病院だけに信じていたが2019年5月頃不信に思い病院を変えました。思えば検査結果ももらった事なし。原因追及しないまま治療とは。
②内分泌に詳しい病院で問診時クッシングを疑い検査でクッシング症候群の診断。
用法通り体重に対しての量のアドレスタン処方され内服、2日目に血尿、食欲低下、3日目には薬を拒否し手を噛まれながらも内服実行。4日目診察、点滴、膀胱にも膿があるが今は去勢出来ない状態。
✳︎この時は、この子の体調よりアドレスタンを飲めば良くなる事を信じていました。
④①の病院にかかる前にかかっていた病院に戻って受診、アドレスタンの量は最初の3分の2に減りましたが月2回検査、内服、副作用が出たら中止して、また同じ量の薬を繰り返していました。毎回4万円用意して1か月に2回通院、足らない事もありました。良くなるならいくらでも何とかする気持ちでした。同じ事を繰り返し終わりが見えない。このままでは、、、と
⑤友人から教えてもらった病院で受診。去勢手術を直ぐにしてもらえました。
今迄の経緯を説明、アドレスタンの調整が始まりました。やっとこの子に合った量がわかりました、それは普通ではないくらい少量でした。今までは、小さな事もメモして通院していましたが、こちらの院長先生は、この子を診て状況を把握されているので、口頭で説明すれば、直ぐに解ってくださいます。検査をしないと不安でしたが、先生は不必要な検査はされません。この子の命を大切にして下さいます。
結局、今は症状が悪くならないか観察しながら過ごせています、体重9.5キロでアドレスタン1日10mg30日分処方で4000円弱で診察量無しです。検査を行っても1万円でお釣りがきます。神様の様な先生です。
決して治る訳ではありません。毎日、ごめんね、まだまだ死なないでねって撫でたり、一緒に生きています。
アドレスタンは量が大事です。まだ症例も少なくほとんどの先生は扱い慣れておられないかと思います。ネットで調べた事と同じ事を言われる先生もおられました。
初めは少量から始めるべきと書いてある文献もあります。犬種や体質も違うのに、なぜ体重で量が計算されるのでしょうか、この子の副作用は吐き気、嘔吐、食欲減退、活気消失し、ぐったり寝たまま、血尿、震え、ととても耐え難いものです。
割り切って、体調が悪化してきたり、不信に思ったら病院を変えるなど、早めに対応をしてあげて下さい。
私のこの経験が参考になれば良いなと思います。
いつか、動物医療が急発展して、クッシング症候群が治る病気になる日がくることを願っています。
写真は、お腹がぽっこりして皮膚も色素沈着し、カサカサしているものです。