犬のPRA(進行性網膜萎縮症)とは
PRA(進行性網膜萎縮症)と診断された時、それは一体どんな病気なのか戸惑う飼い主さんも多いでしょう。眼の病気だということはイメージできても、今後愛犬がどのような経過をたどっていくのかとても気になるはずです。
PRAと診断された愛犬の今後を考えてあげるために、まずはどんな病気なのかを知っておきましょう!
PRAってどんな病気?
網膜は、眼の中で外からの光を吸収して集約し、電気信号として脳に伝える役割を持つ眼の奥にあるカメラのフィルムのようなものです。この情報がきちんと脳に伝わることで、犬たちは「映像」として物を見ています。
PRAはこの網膜に障害が起き、視力低下を引き起こす疾患です。多くは遺伝性のものとして知られ、症状が進むほどに視力が落ち、早ければ半年ほど、ゆっくりであれば数年ほどかけて最終的には失明に至ります。
発症時期は、遺伝性の場合、PRAの原因となる変異遺伝子を持っている犬が「早発型」か「遅発型」かによって大きく分かれます。
早発型であれば生後数か月から2歳までに発症し、遅発型であれば4~6歳程度の中年齢以降で徐々に視覚障害を現します。
また、PRAを発症した犬は白内障や、それに引き続いてぶどう膜炎や緑内障を併発することがあります。その場合は愛犬が眼の痛みや炎症に悩まされるため、失明後でも動物病院での定期的な検診が大切です。
PRAの原因
PRAは常染色体劣性遺伝で親から子へと引き継がれることがわかっている遺伝性疾患の1つです。
「体の中の設計図」と言ってもいい遺伝子が変異し、その変異遺伝子を持っている親犬同士をブリーダーが交配させることで、さらにPRAの変異遺伝子を引き継いだ子犬が誕生するという悪循環が起きてきました。
PRAの原因遺伝子はこれまでにいくつか発見されていて、現在では特定の犬種で遺伝子検査による発見が可能になっています。
PRAの中には遺伝性ではないものもあります。
- 代謝に関わる病気
- 腫瘍
- 栄養不足(ビタミンEなど)
- 炎症
こういった原因が関連していることもあるため、広く獣医さんに探ってもらってくださいね!
PRAの症状
人の網膜は明るい所で働いて「ものを見る」ことに役立ってくれますが、犬の場合は薄暗い夜間でも働けるよう網膜に輝板(タペタム)という構造が備わっています。
暗い夜に犬の眼に光が当たると、「ピカッ」と光って見えるのはこの構造があるからなのです。PRAはこのタペタム周辺の変化から始まるため、「日が沈む夕方から夜間にかけて、暗くなってくると見えにくい」という「夜盲症」の症状が最初に出現します。
光の当たり具合で「ビー玉みたいな目」に見えると表現する飼い主さんもいます。
他にも、
- 暗くなると段差でつまずく、物にぶつかる
- 夜の散歩を嫌がる、怖がる
- 暗い場所に行こうとしない
といった症状が始まりますが、この段階でPRAに気づくことは多くはありません。
人にとっては「暗い=見えない」というのは当たり前の感覚であり、夜間室内の電気を落とした後の愛犬の様子を確認することも少ないため、初期の症状は見逃されがちです。
進行すると、明るい光を感じとるための視細胞も障害を受け始めるため、
- おもちゃを目で追えなくなる
- 明るい時でも段差でつまずく、物にぶつかる
- 急に触られると過剰にびっくりする
- 食事や飲水の時に器を探す仕草をする
といった症状が見られ、飼い主さんも違和感を覚えやすくなりますが、この頃になるとかなりの視力が失われていることがあります。
子犬の頃にPRAを発症し、1~2歳までに視力を失った子の中には、「見えない」ことで外の物音に恐怖を覚え、「昔からお散歩が嫌いなの」と言われるわんちゃんになることも。
しかしながら、PRAを発症した犬は光を感じ取る能力がゆっくりと落ち、痛みを感じることはありません。
そのため、嗅覚や聴覚、これまでの生活習慣から「いつも通りの行動」ができてしまい、発症したタイミングが飼い主さんにもわかりにくいことがほとんどです。
PRA(進行性網膜萎縮症)にかかりやすい犬種
PRAを発症しやすく遺伝が多いとして知られている好発犬種はいくつか判明しています。
- ミニチュアダックスフンド
- カニンヘンダックスフンド
- トイプードル
これらの犬種は最も多く報告があり、繁殖時に注意を必要とされています。
他にも、
- シェットランドシープドッグ
- ラブラドールレトリーバー
- アイリッシュセッター
- アメリカンコッカースパニエル
- ミニチュアシュナウザー
など複数の犬種で報告されています。
日本はテレビ番組やCMなどから特定の犬種がはやりやすい国でもあります。海外では多少の人気犬種はあれど、ここまで「ブーム」が起きる国はさほど多くはありません。
多くのブリーダーは愛情をこめて、その純粋な血統を残そうときちんとした繁殖計画の元で子犬を残しています。
しかし、犬種ブームが起きた時にはしばしば心ないブリーダーによる乱繁殖が起き、遺伝性疾患が増える・引き継がれ続けている事実を、私たちは心に留め置かなければいけないのではと思います。
犬のPRA(進行性網膜萎縮症)の検査方法
PRAを診断するためには、動物病院で獣医さんにきちんと眼の検査をしてもらい、病名を確定させることが大切です。
検査内容
PRAを診断するためには、
- 眼底検査
- 網膜電図検査
- 遺伝子検査
などを中心にして行われます。
「眼が見えていないみたい」という訴えで来院され、PRAが疑われる場合、まずは眼の全体の状態を把握し、視覚が機能しているかどうかを調べていきます。
来院した犬の行動の変化を聞いて、眼の前の物を追えるかどうかを確認します。その上で網膜の血管やタペタムの変化を眼底検査で調べていくことになります。
初期のPRAの確定診断には、網膜電図検査で目が見えているかどうか網膜の電気的機能を調べることで、症状が進行する前に発見することもできます。
しかし、網膜電図検査は眼科専門医がいる所でしか行えないことがほとんどなので、かかりつけの病院に紹介してもらいましょう。
遺伝子検査は、血液もしくは口腔粘膜の素材を元に外部の検査機関で調べてもらう検査です。
- ノーマルクリア
- キャリア(保因型)
- アフェクティッド(発症型)
の3種を調べ、発症の可能性は低いが変異遺伝子を両親のどちらかから受け継いでいる(キャリア)、両親両方から変異遺伝子を受け継いでいて発症の可能性が高い(アフェクティッド)を確認することができます。
これらの遺伝子の受け継ぎ方は、常染色体劣性遺伝のため片親がノーマルクリアであればアフェクティッドが生まれることはありません。しかし、
- ノーマルクリア×キャリア=子犬のキャリアの確率50%
- キャリア×キャリア=子犬のキャリアの確率50%、アフェクティッドの確率25%
- キャリア×アフェクティッド=子犬のキャリアの確率50%、アフェクティッドの確率50%
- アフェクティッド×アフェクティッド=子犬のアフェクティッドの確率100%
といった確率で受け継がれることになります。
また、現在わかっている変異遺伝子以外のPRAへの関与があった場合には、たとえノーマルクリアでも発症の可能性がないとは言えません。
そのため、遺伝子検査が問題なかったからと言って発症しないとは限らないこと、遺伝子検査の対象が一部の犬種に限られていることから、あくまで補助的な診断の手助けとして提案することがあります。
検査費用
通常の動物病院で行われる、眼底検査やスリットランプ検査などの眼科スクリーニング検査の項目は、一般的にはそれぞれが2,000円前後で済むことがほとんどです。
複数の検査を組み合わせて行っても1万円以下で済むでしょう。しかし、網膜電図検査では通常鎮静下・もしくは全身麻酔下で行われるため、麻酔料も含めて費用が数万円程度になることがあります。
遺伝子検査は、各病院が提携する外注検査機関によって料金は異なります。血液検査で行う場合の方が口腔粘膜で行うより高額になります。
しかし、飼い主さんが独自で行う場合の口腔粘膜を使った遺伝子検査では、PRAのみ5,000円ほど、それ以外の複数項目も一緒に調べる場合15,000円ほどで受けている検査会社もあります。
犬のPRA(進行性網膜萎縮症)の治療方法
犬のPRAは、基本的に現時点では確立された治療法はありません。現在唯一可能性を指摘されているのはサプリメントの投与のみになります。
ビタミンEやアスタキサンチンといった抗酸化成分が、網膜の変性を遅らせるのでは?と言われていますが、その研究報告はまだまだ乏しく、確実視はされていません。
そのため、現在では視力が落ちた愛犬の生活を支えてあげることが何よりも大事とされています。
まとめ
犬のPRAの多くは遺伝性です。急な視力低下・失明という悲しい事態になる犬を減らすためには、変異遺伝子を持った血統の繁殖を抑えていくことが何よりの予防になります。
また、もしも発症してしまったとしても、愛犬が毎日ストレスなく生活できるよう、お家の中の環境を整えたり、音の出るおもちゃの利用や、お気に入りの感触で作られた居心地のいい休息場所を用意してあげましょう。
発症して1日や2日で失明に至るものではないため、愛犬もゆっくりとその視力の感覚の違いに慣れていってくれることが多いと言われています。
PRAの子と一緒に暮らす時、視力低下の度合いに合わせてお家での過ごし方に悩むことがあれば、ぜひかかりつけの獣医さんに相談してみてくださいね!