犬の病気「てんかん」とは
てんかんは、痙攣などの発作が突発的に起きる病気です。100頭に1頭の割合の犬がてんかんを発症していると言われています。
てんかんを発症すると、脳の大脳と呼ばれる部分に異常な興奮が起こります。神経をコントロールしている大脳から、強い電気信号が出ることによって発作が出ます。発作は繰り返し起きますが、間隔や体のどこに症状が出るかには個体差があるようです。発作の状態によって必要な治療や薬も変わるので、症状を注意深く観察することが大切です。
犬のてんかんの原因
犬のてんかんには「症候性てんかん」と「特発性てんかん」の2つがあり、それぞれ原因が異なります。症候性てんかんは、交通事故などの外傷による後遺症や、感染症や脳腫瘍などによる障害から引き起こされます。
検査によって障害が見つからない場合は、特発性てんかんと診断されます。特発性てんかんの原因は分かっていませんが、遺伝的要因が強いと考えられています。犬のてんかんのほとんどが特発性てんかんで、中でもダックスやビーグル、シェパード、コーギーなど特定の犬種に多く見られるとの報告もあります。
犬のてんかんの症状
体の硬直
体の硬直は、犬のてんかんの発作で多く見られる症状です。突然バタンと倒れて、体をのけぞらせるような姿勢になります。倒れた際に意識を失い、失禁や脱糞をする犬もいます。通常は数十秒から数分で普段の状態まで戻ります。重度になると、しばらくもうろう状態が続いたり、短い間隔で繰り返したりする場合もあります。
痙攣
痙攣には全身痙攣と部分痙攣があります。全身を震わせる、手足をバタバタさせて犬かきのような動きをするという様子も見られます。
口元をパクパクさせるハエ噛み行動と呼ばれる仕草や、瞳孔が開いて視点が定まらないといった場合もてんかんの症状です。軽い発作では、あくびのような仕草を繰り返す場合もあります。
大量のよだれ
てんかんの犬には、口から大量のよだれを垂らすといった症状も見られます。口周りの知覚異常により、頬が収縮するために起こる症状です。咀嚼するような動きをして、泡のようなよだれが口の中に溜まっている場合もあります。
失神
てんかんの発作によって、犬が突然意識を失うことがあります。動作が止まる、呼びかけに反応しないといった様子が見られます。失神した状態は数十秒間続きます。
犬のてんかんの治療法
現在、治療法は抗てんかん薬によるものが中心です。てんかんは慢性的な脳の病気であるため、発作は完全には無くなりません。薬を定期的に飲み、発作の回数を少なくすることが治療の目的です。犬の体格、症状に合わせて薬が処方されるため、治療費にも違いが生じます。
脳腫瘍や脳炎などが原因の「症候性てんかん」の場合、それらの障害を治療することによって発作が収まる可能性もあります。
犬のてんかんに効く薬
ゾニサミド(コンセーブ錠)
日本国内で開発された唯一のてんかん薬です。1日に2回の経口投与で十分に作用します。副作用がほとんど認められない点がメリットですが、大型犬に対しては高価になる場合があります。代謝酵素誘導を起こさないことから、ゾニサミド(コンセーブ錠)を抗てんかん薬の第一選択薬として用いる国内の獣医師も多いと言われています。
フェノバルビタール
過去数十年にわたり、犬のてんかんに使用されてきた薬で現在も多くの使用頻度を占めています。発作の約70%に対して効果が認められおり、安価なことも魅力です。
一方で有効血中濃度を大きく上回った場合、肝障害のリスクが高くなると言われています。これは血中濃度の定期的な測定で回避できます。
レベチラセタム
安全性が高く即効性がありますが、国内では比較的値段が高いと言われる薬です。1日3回の投与で、犬のてんかんに効果を発揮します。最初に投与する(ファーストライン)薬の作用が不十分なときに、併用薬として使用される場合もあります。
クロナゼパム
速効性がある短時間作用型の薬です。てんかんの犬に対して長期的な連続使用をすると、徐々に効果が減少していくことが分かっています。てんかん薬を切り替える際、一時的な発作を抑えるための使用に適しています。
犬のてんかんの薬の注意点
投与する量や頻度
処方された薬は、獣医師の指導のもと投与する量や期間を守りましょう。急に投薬をやめると大きな発作が再発する可能性もあります。効かないと感じても、安易な自己判断は避けましょう。
犬がてんかんの薬以外にも薬を飲んでいる場合、体内への吸収や代謝に影響がでる可能性もあります。日常的に飲んでいる薬があるときや、てんかん以外の病気になったときは必ず獣医師に相談しましょう。
副作用
てんかんの薬には、種類によって強い副作用が出るものがあります。飲み始めに見られる副作用には眠気やふらつき、下痢などが認められています。長期投与による副作用には、食欲亢進(食欲が異常に高まること)や運動機能低下による肥満の可能性があります。
妊娠中の犬に薬を投与するときも、胎児への影響に注意が必要です。気になる場合には、動物病院で薬の副作用について相談しておきましょう。
犬のてんかんの対処法
犬に触れない
てんかんの発作が起こった際、犬の体に触れず様子を見守りましょう。体に触れて刺激を与えると、次の発作を誘発する可能性があります。脳全体が興奮状態になるため、普段は大人しい犬でも突然噛みつくことも考えられます。通常は数分以内に収まるので、基本的には様子を観察するだけで問題ありません。
周囲のものを片付ける
重度のてんかんの発作が起きると、意識がなくなって倒れてしまう犬もいます。固いものにぶつかってケガをしないよう、周囲のものを片付けておきましょう。大きな家具など動かしにくいものは、クッションやタオルなど置いて保護しておくと安心です。
発作が起きた時間をメモする
てんかんの発作が起きた時に、継続時間やいつ発作が起きたかを記録しておきましょう。余裕があれば動画を撮っておくのもおすすめです。
獣医師に相談する際、具体的な症状が伝えやすくなります。愛犬の苦しむ様子には胸が痛むと思いますが、通常のてんかんが原因で死に至ることは可能性として低いです。しかし、痙攣から呼吸ができなくなってしまうことや癲癇発作が止まらなくなってしまう重積状態になると命にかかわります。効果的な薬の種類や投与のタイミングなどを考える上でも、飼い主が冷静に発作の状況を把握することが重要です。
犬のてんかんの予防法
てんかんを予防するために、普段の犬の様子を注意深く観察しましょう。その犬特有の発作が始まるタイミングが見つかるかもしれません。
梅雨や台風などの気象条件によって発作が多くなる犬もいます。季節の変わり目の前には、いつも以上に様子をよく見ることが必要です。他にも、ドアのチャイムやテレビの音がきっかけで発作を起こす犬もいるので、音量を調整するなどの工夫をするとよいでしょう。
日光の刺激によって発作が起きる場合は、お散歩の時間を変える・明るすぎる照明を避ける・犬の写真を撮るときにはフラッシュをたかないなど注意しましょう。
まとめ
飼っている犬がてんかんと診断されたら、定期的な薬の投与を欠かさず行いましょう。
発作が起こっても冷静に状況を観察し、できるだけ刺激を与えない工夫が大切になります。日常生活の質の向上を心がけ、総合的な健康維持に務められるとよいですね。