犬の腎不全とは 血液検査の数値と腎臓病の症状や治療について

犬の腎不全とは 血液検査の数値と腎臓病の症状や治療について

犬の腎不全とは、腎臓や全身にどのような影響がある病気なのでしょうか。また、検査の数値ではどのようなことがわかるのでしょうか。腎臓病はがん、心臓病に次いで多い死亡原因とされているため、愛犬の命を守るためにも早めの予防と治療を行いたいですよね。今回の記事では、腎不全についてや血液検査の内容、腎臓病のさまざまな治療法についてまとめてみました。

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記事の監修

  • 獣医師
  • 平松育子
  • (AEAJ認定アロマテラピーインストラクター・ペットライター )

獣医師・AEAJ認定アロマテラピーインストラクター・ペットライター
山口大学農学部獣医学科(現:共同獣医学部)卒業。2006年3月~2023年3月 有限会社ふくふく動物病院 取締役・院長。ジェネラリストですが、得意分野は皮膚疾患です。
獣医師歴26年(2023年4月現在)の経験を活かし、ペットの病気やペットと楽しむアロマに関する情報をお届けします。

犬の腎不全について

診察を受ける犬

犬の腎不全

腎不全とは腎臓の機能が低下して、正常に働かなくなった状態を表す用語です。犬の腎臓は約80万個の「ネフロン」という組織で構成され、尿をつくって老廃物を排出する、体内環境を一定に保つ、血圧を調整する、赤血球をつくる、骨を強くするなど体にとって重要な役割を担っています。

ネフロンが傷ついたり壊れたりすることによって、残存している腎機能の数値が25パーセント以下になると腎臓病の症状があらわれるようになり、数値が低下し続けることで「腎不全」という状態に陥ります。

  • 水をたくさん飲む
  • 尿の量が多く、においが薄い
  • 食事を食べない
  • 体重が減少する
  • 嘔吐
  • 貧血
  • 運動量や元気が低下する

犬にこれらの症状が見られるときには注意が必要です。腎不全が進行すると、本来尿として排出されるべき老廃物が体内に蓄積されて「尿毒症」にかかることがあります。高齢の犬によく見られ、重度の場合は震え(けいれん)や昏睡を引き起こし死に至ることもあるため、早期発見と治療が大切です。

慢性腎不全とは

腎不全は症状があらわれるまでの時間の経過によって「慢性腎不全」と「急性腎不全」とに分けられます。「慢性腎不全」は数カ月~数年かけて徐々に腎臓の機能が低下していく病態のことを指し、さまざまな病気などが原因とされています。

  • 急性腎不全
  • 糸球体腎炎
  • 腎盂腎炎
  • 犬フィラリア感染症
  • 水腎症
  • 高血圧症
  • レプトスピラ症
  • 腎異形成
  • 胃臓腫瘍
  • 先天性の腎臓病

慢性腎不全は長期にわたって症状が進行するため、原因を特定することが難しいと言われています。急性腎不全から慢性腎不全になることもあれば、遺伝性の腎臓病が原因となることもあります。

初期症状がわかりにくく飼い主が異常に気付く頃には病状が進行していることも多いようです。犬が元気そうにしていても定期的な血液検査や尿検査を行い、それぞれの数値を調べておくとよいでしょう。

急性腎不全とは

数時間~数日で腎臓の機能が急激に低下してしまう「急性腎障害」が進行し、重度になった状態を「急性腎不全」といいます。慢性腎不全に比べて発生率は低いものの、一気に病状が進むこともあるため注意が必要です。急性腎不全の原因には以下のようなものがあります。

  • 嘔吐や下痢による重度の脱水
  • ぶどうやレーズンの摂取
  • ユリ科の植物、重金属(鉛など)、ヒ素、毒キノコの摂取
  • 人間用の薬の誤飲
  • 尿路結石症

急性腎不全は犬にとって毒物性のあるものを摂取してしまうことが原因として多く、診断は問診や血液と尿の検査で数値を調べる他、腹部X線検査や超音波検査などによって行われます。腎臓の機能が一時的に低下した場合は早期発見により回復の見込みがあるものもあるため、犬の様子に異常を感じたら早急に動物病院を受診しましょう。

犬の腎臓病の血液検査

血液検査

慢性腎不全の場合は、血液検査によって腎臓の機能を反映する血中尿素窒素(BUN)や対称性ジメチルアルギニン(SDMA)、血清クレアチニンなどの数値を調べます。血清クレアチニンの数値によってステージを1~4に分類し、数値が高いほどステージが進行していると判断します。

ステージ1

ステージ1では、腎機能の100~33パーセントが残存していると言われています。尿の比重は低いものの、血液検査では異常が見られません。症状としては水を飲む量が多くなる、薄い尿をしているなどが挙げられますが、犬が元気にしているため腎不全の症状に気付かないことも多いとされています。

ステージ2

ステージ2では残りの腎機能が33~25パーセントにまで落ち込みます。多飲多尿の症状があらわれてきますが、食欲や元気があるために飼い主が「元気な証拠」と勘違いしてしまうこともあるようです。

ステージ3

ステージ3になって残りの腎機能が25~10パーセントにまでなると、体内に老廃物が溜まることから下痢や嘔吐、食欲減退などの症状が出てきます。これらの症状で初めて異常に気付き、病院を受診したらかなり病状が進んでいたということも多いようです。

ステージ4

ステージ4では腎機能が10パーセント以下しか残っておらず、尿毒症を発症してる危険な状態です。食欲が落ちて嘔吐を続けるため、著しく痩せてしまいます。

血液検査では腎臓の機能が33~25パーセントにまで低下しないと異常を発見できません。重篤な症状になる前に、定期的な検査を行うことで予防や早期発見、腎臓の負荷を下げる治療をすることが大切です。

犬の腎臓病の治療

餌を前に見上げる犬

食事療法

腎臓に負担をかけないために、初期ステージから食事療法を行うことが効果的であるとされています。老廃物の原因となる「たんぱく質」や、腎臓病の進行を早める作用のある「リン」、「ナトリウム」を抑えた食事に切り替えることが大切です。これらが多く含まれる肉や魚、食肉加工品や魚肉加工品の摂取量を抑え、チーズなどの使用を最低限にしましょう。

ステージが進行すると低血圧や不整脈の原因となるカリウムの数値が高くなるため、ステージの高い犬はカリウムを多く含む野菜や果物を避ける必要があります。特にさつまいもはカリウムが多いので、与えすぎないように注意してください。

脱水症状を防ぐために、ドッグフードはウェットフードを使用したり、ドライフードをふやかしたりすると水分を多く摂ることができます。サプリメントを使用する場合は副作用などの心配もあるので、獣医の指示に従うようにしましょう。

投薬治療

ステージが進行し食事療法以外の治療が必要になった場合は、腎不全の原因や犬の症状に応じた薬を用いて治療します。

脱水症状によってたんぱく質が処理されずたんぱく尿が多く出たり、尿が出ず体に老廃物がたまったりしている状態は大変危険です。このような場合は皮下または静脈に点滴をすることで症状を改善させ、尿が出るように促します。点滴をしても尿が出ない場合は利尿剤を、嘔吐が見られる場合には制吐剤や胃薬などを投与することもあります。

腎臓への負担を大きくする高血圧に対しては、リンやカリウムの数値を下げる薬や降圧剤を使用します。血液量や血流量が少ないとネフロンがダメージを受けてしまうため、皮下点滴や静脈留置が必要になることがしばしばです。また、貧血が起こった場合は造血ホルモンなどの注射を打ち血液を作るように骨髄に働きかけます。

その他、尿毒症の原因となる物質が血液中に溜まるのを緩和する経口吸着剤の使用も有効とされています。

透析治療、手術

血液検査の数値が改善されず末期になってしまった場合は、人間と同じように人工透析によって血液をろ過させることもできます。しかし、犬の場合は感染症のリスクや麻酔、鎮静剤のコストがかかるためメジャーな治療法ではありません。治療費が高額になっても軽減制度がないため、持続的に行うには経済面でかなり厳しいと言えるでしょう。

健全な犬から腎臓を移植する「腎移植」についても同様です。治療を行える施設も限られているので、治療を受けさせたい場合は一度かかりつけの動物病院に相談してみましょう。

ホームケア

犬がなるべく快適に過ごせるようにホームケアを行うのも有効です。新鮮な水をいつでも自由に飲むことができる環境にすると脱水症状を防ぐことができます。血行を促進して腎臓の働きを助けるために、湯たんぽや温めたタオルで背中を温めるのもよいでしょう。動物病院では、腎臓の機能を整えるためのツボをマッサージする方法を教えてくれるところもあります。

まとめ

治療を受ける犬

犬の腎臓を守るためには、定期的な検査を行って尿や血液の数値を調べ、腎不全になるのを防ぐことが大切です。腎臓は一度その機能を失うと元に戻ることができず、完治させることはできません。

腎臓病を早期に発見することで進行をゆるやかにしたり回復が見込まれたりする場合もあるので、異常がみられたらすぐに動物病院を受診し、飼い犬が元気そうにしていても年に数回は健診を受けるようにしましょう。

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