椎間板ヘルニアはどうして起こるの?
人間も同じなのですが、犬の脊骨(脊柱といいます)は椎骨がいくつもつながっています。その椎骨の間にショックを和らげるために軟骨が挟まっています。この軟骨が椎間板で、椎間板の内側の髄核という部分が外へ飛び出してしまう、つまり「ヘルニアしてしまう」ことで起こるのが「椎間板ヘルニア」なのです。
飛び出してしまう原因は、もともとの犬の体質、つまり遺伝からくることもあり、とてもひどい衝撃があったとき、犬が年をとってきて水分や栄養分がだんだん減少し弾力性が失われる、いわゆる老化現象もあるのです。
ちょっと戻りますが、椎間板の中から飛び出してしまう髄核というのは、断面図ならちょうど真ん中にあるのではなく、中心から脊髓寄りになっているのです。椎間板ヘルニアが起こりがちな原因はそんなところにもあるのです。
とにかく、椎間板ヘルニアは犬がもっとも多い脊椎疾患の一つです。
症状がすすむと…….
犬の椎間板ヘルニアは段階的に進行します。
- まず、痛みだけの状態から
- 軽い運動障害が見えるようになる。そして、
- やや反射感覚が失われているような様子、中度の運動障害、
- 完全に動きがないが痛みはある様子、
- 完全に動かず痛みもない。
犬の様子とヘルニアの位置
段階によって犬の様子はこのようになります。それでどの辺りのヘルニアか、判断できます:
- どうも歩き方がおかしい
- 運動を嫌がる
- 前足に痛みと麻痺(頚椎付近のヘルニアの場合)
- 胸部の痛みと麻痺(胸椎付近のヘルニアの場合)
- 後足の痛みと麻痺(腰椎付近のヘルニアの場合)
- 首から下が痛いと麻痺(頚椎付近における脊髄圧迫)
椎間板ヘルニアの治療
犬の椎間板ヘルニアは症状によって、次のような三つの治療法があります。
① 対症療法
ヘルニアが軽い場合は、症状を軽くするための治療が施されます。通常は非ステロイド系の薬や抗炎症薬を与え、ヘルニアの悪化を防ぐために運動を制限したり、すこし症状が軽くなったら体重を減らすなどの処置をします。
② 手術療法
ヘルニアが重症の場合は、手術をします。飛び出した髄核を取り除くのですが、術前に手術のリスクとか再発の可能性などをお医者さんから十分な情報を受けるようしてください。
③ 排泄の補助
ヘルニアによる神経症状が膀胱や直腸にまで及んでいる時は、犬は自分ではおしっこやうんちができなくなります。そんな時は、カテーテルという細い管を尿道から通しておしっこをさせたり、お腹を押したり、浣腸したりしてうんちをさせるという補助が必要になります。
最近は犬用の車いすが出まわっていますから、運動機能が回復しない時はそれを使うことで、犬の生活の幅が広がります。
椎間板ヘルニアになりやすい犬種
ご存知かも知れませんが、ダックスフンドが椎間板ヘルニアを起こしやすい犬種だというのは有名な話です。体型からして、胴が長いから腰に負担がかかるからだろう、と考える人が多いと思いますが、実は「胴が長いから」だけではないのです。
犬種というと、洋犬とか日本犬とか、細かくブルドッグとかテリアとかいう分類を思い浮かべますが、体質的な分類で「軟骨異栄養犬種」という犬種があるのです。ダックスフンドがその一つで、ほかにもコーギー、シー・ズー、ペキニーズ、ビーグル、フレンチブルドッグなどが同じ犬種で、軟骨異栄養症(軟骨低形成症・軟骨形成不全症)を発症しやすい。
共通しているのは、手足が極端に短く生まれついていること。遺伝ですから仕方ありません。この犬種の犬は、椎間板が早く変形してしまい症状がでやすく、ほかの犬種なら老犬になってから起こりやすい椎間板ヘルニアを若いうちに発症しやすいのです。
ダックスフンド(ミニチュア・ダックスフンド)を飼っている人のために
それでは、椎間板ヘルニアになりやすいというダックスフンド(ミニチュア・ダックスフンド)を飼っておられる人たちのために、やや掘り下げてお話しましょう。
ダックスフンド(ミニチュア・ダックスフンド)は、椎間板ヘルニアになりやすいといわれる代表的な犬種です。加齢で特になりやすいといわれていますが、ミニチュア・ダックスフンドなどでは2歳で症状を発症したケースもありますから、一概にはいえません。もともとの体質や、激しい運動や肥満などが原因で若くても発症することがある、ということを覚えておいてください。
あるデータによると、ダックスフンドの約25%が一生のうちに椎間板にかかわる障害を発症するといいます。上でも触れましたが、このダックスフンドなどに代表される「軟骨異栄養性犬種」と呼ばれている犬種は、軟骨形成に異常をきたしやすい身体の構造をしています。
胴が長い上に足が短いということで脊椎への負担が大きく、若いころから椎間板がもろくなりがちなのです。そのくせ、室内でも元気よくジャンプしたり、全力疾走したり、吠えたりする傾向がありますが、そんな行動も椎間板にはよくないかもしれないのです。
ほかの犬種でも、加齢や肥満などで椎間板ヘルニアを発症することがありますから、なりやすい犬種は特に老犬になったり、肥満ぎみになったりしたら十分な注意が必要です。もともと発症しやすい身体には、年齢と肥満のストレスは椎間板ヘルニアの危険を招くことになるからです。なりやすい犬種を愛犬にお持ちの方は、なるべく気をつけてあげてくださいね。
椎間板ヘルニアの治療費
椎間板ヘルニアの症状の治療は、前述したように内科と外科があります。神経系の検査やレントゲン検査などをしますが、ヘルニア部分の特定にはCT・MRI検査が必要になります。軽度なら内科療法で対応できますが、完全な麻痺を起こしてしまうと、根治するには外科手術になります。
以下に上げる治療費は某動物病院のデータを基礎にまとめたもので、あくまで参考資料としてご利用ください。
診療項目(内容) | 数量 | 金額(円) | |
---|---|---|---|
MRI検査 | 70,000 | 1 | 70,000 |
レントゲン | 4,000 | 2 | 8,000 |
血液検査 | 9,000 | 1 | 9,000 |
皮下注射 | 1,000 | 3 | 3,000 |
手術料 | 150,000 | 1 | 150,000 |
静脈点滴 | 3,000 | 3 | 9,000 |
内用薬 | 1,000 | 6 | 6,000 |
入院料 | 4,000 | 6 | 24,000 |
合 計 | 279,000 |
まとめに代えて:椎間板ヘルニアと日頃の心がけ
犬の椎間板ヘルニアは症状で見分ける、と書きました。それはつまり、日頃から犬の動作を観察して初めてできることです。体重に注意する、動きを制限する、床材の見直し、犬の足裏のケアなど、注意点はさまざまです。そればかりではありません。胴長短足の犬たちは抱きやすい。
それでも、つい「脊骨にどうかな?」などと考えてまでは抱かないですよね。その辺りが盲点なのです。仰向けに抱いたり、脇に手を入れて持ち上げたりするのは、もろに脊骨に負担を掛けます。椎間板ヘルニアになりやすい犬種を飼っておられる人は、とくに、意識的にこのようなことに細かく神経を使わないといけません。
いつもお話ししている通りです。症状からヘルニアに気づくにはやはり普段のスキンシップが鍵です。どのヘルニアか早期発見することで、犬の苦しみを軽くして上げることができる。スキンシップは何よりのヘルニア予防法の決めてだということをお忘れなく。