人間は犬のうなり声を読み解けるか?という実験
過去に発表されたいくつかの研究から、私たちの脳は他の哺乳動物が発する音声に込められた感情を、ある程度は判断できることが知られています。また他の哺乳動物の脳も人間と同じく他の生き物の声から感情を判断できると言われています。
哺乳類の中でも特に犬は人間と深く長い関わりを保っていることから、生物として異なる種ながら犬とヒトの相互理解は特に興味深いものと捉えられています。
この記事では、先ごろハンガリーのエトヴェシュ・ロラーンド大学の動物行動学及び生物学者のチームによって発表された『犬のうなり声に込められた情報や感情を人間が読み取る力』の実験結果をご紹介します。
なぜ『うなり声』なのか
犬の発する音声と言えば、まず最初に頭に浮かぶのは吠える声ですが、この研究がうなり声に特化したのはなぜでしょうか。
犬の吠える声に関しては既に多くの研究が行われ多くのことが明らかになっています。それに比べてうなり声に関する研究は少なく未知の部分も多いそうです。
また「吠え」に対して「うなり」は近距離で行われるコミュニケーションであること、同じように聞こえるうなり声で「戦闘」と「遊び」の両方を表現するというユニークさが、人間の判断にどのように影響するかが注目されたそうです。
実験の概要
実験に参加したのは40人の20〜30代を中心とした男女。実験参加者には録音された犬のうなり声を聞いてもらいます。どの音声がどういう種類のうなり声なのかは、全く知らせていません。
うなり声は、
- 他の犬から食べ物を防御しようとする時(食べ物防御)
- 人間と綱引き遊びをしている時(綱引き遊び)
- 知らない人間が近づいて来た時
の3種類です。
実験その1
まず、実験参加者にはそれぞれの音声に
- 「恐怖」
- 「攻撃」
- 「失望」
- 「喜び」
- 「陽気さ」
のスケールで評価をつけてもらいます。
実験その2
次にそれぞれの音声が「食べ物防御」「綱引き遊び」「知らない人間」のどれに該当するかを当ててもらいました。
果たして結果は?
実験その1の結果
40人の人々が3種類のうなり声につけた評価を集計すると、「攻撃」の評価を最も集めたのが「食べ物防御」で、次が「知らない人間」でした。
「恐怖」「失望」の評価数については「食べ物防御」と「知らない人間」の間に大きな差はありませんでした。
「綱引き遊び」のうなり声は「喜び」「陽気さ」の評価において他の二つの音声よりも数値が高く「恐怖」「攻撃」「失望」の項目では低い数値でした。
実験その2の結果
どの音声がどの場面に該当するかのテストでも、実験参加者は高い正答率を見せました。
3種類の音声全体を通しての正答率は63%。「綱引き遊び」の声に関しては81%の正答率でした。
「食べ物防御」の正答率は60%、「知らない人間」の正答率は50%で、この2つを混同してしまう人が多かったようです。
これらの結果から、研究チームは「人間は異なる種類の犬のうなり声を聞き分け、そこに込められた感情を読み取ることができる」と結論づけました。
実験参加者のうち、犬を飼ったことのある人はより正答率が高くなり、傾向として男性よりも女性の方が高い正答率が見られました。
まとめ
「人間は犬のうなり声に込められた情報や感情を読み取ることができるか?」という実験の結果、個人差はあれど、人間は概ね犬のうなり声を聞き分け、読み解くことができるという結論が出ました。
また読み解く能力はそれぞれの経験によって、より精度が高くなることもわかりました。
犬と暮らしている人にとっては感覚的に当たり前のことでも、実験や研究を通して科学的に証明されるということに意味があります。
人間には犬の声を読み解く力が備わっていて、さらによりたくさん犬と接して考えたり観察することで、その力がアップしていくなんて素敵なことですね。
愛犬の声を表情をしっかり観察して、その意味するところを知り、犬と人の両方にとって快適で幸せな関係を作っていきたいものです。
《参考》
http://rsos.royalsocietypublishing.org
http://thebark.com