犬のマズルとはどこの部分?マズルコントロールの正しいやり方からと注意点まで解説

犬のマズルとはどこの部分?マズルコントロールの正しいやり方からと注意点まで解説

犬の噛み癖のしつけでマズルコントロールは必要?実は信頼関係を壊す危険も。この記事では犬のマズルの基本から、罰ではないケアのための正しい触り方・やり方を解説。子犬のうちから慣れさせ、より良い関係を築きましょう。

犬のマズルとはどこの部分?

上を見上げる犬の口元のアップ

犬のマズルとは、専門的には「口吻(こうふん)」とも呼ばれ、犬の鼻先から口元、そして下顎にかけての突き出た部分全体を指します。単に鼻だけを指すのではなく、食べ物を食べたり、匂いを嗅いだり、感情を表現したりするための非常に重要なパーツです。

マズルの役割

マズルは犬が生きていく上で不可欠な、多くの役割を担っています。最も重要なのは、優れた嗅覚を支える鼻の機能です。

また、食べ物を咥えたり、噛んだりする口の役割もマズルに含まれます。さらに、犬は口を開けて舌を出す「パンティング」という呼吸をすることで体温を調節しますが、これもマズルの重要な機能の一つです。

その他、マズル周りの筋肉を使って唸ったり歯を見せたりと、他の犬や人間とのコミュニケーションにおいても大切な役割を果たしています。

犬種によるマズルの形状の違い

犬のマズルは、犬種によってその長さや形が大きく異なります。この形状の違いによって、大きく3つのタイプに分類されます。

長頭種(ちょうとうしゅ)

マズルが長く、スリムな形状をしているタイプです。代表的な犬種には、ミニチュア・ダックスフンドやコリー、ボルゾイなどがいます。長いマズルは、獲物を追いかけたり、地面の匂いを嗅いだりするのに適しているとされています。

中頭種(ちゅうとうしゅ)

頭蓋骨の長さとマズルの長さが標準的なバランスのタイプで、多くの犬種がこれに分類されます。日本で人気の柴犬やトイ・プードル、ウェルシュ・コーギー・ペンブロークなどが代表的です。

短頭種(たんとうしゅ)

マズルが短く、平坦な顔つきが特徴のタイプです。パグ、フレンチ・ブルドッグ、シーズーなどがこのタイプにあたります。その愛らしい表情で人気ですが、マズルが短いことから呼吸がしづらく、体温調節が苦手な傾向があるため、特に暑い季節の健康管理には注意が必要です。

マズルは健康状態を知るバロメーター

マズルは、愛犬の健康状態を知るためのバロメーターにもなります。例えば、鼻水が出ている場合、透明でサラサラしたものであれば一時的なものかもしれませんが、黄色や緑色をしていたり、粘り気があったりする場合は、感染症などの病気の可能性があります。

また、鼻が極度に乾燥してひび割れていたり、口周りの皮膚が赤くなったりただれたりしている場合も、皮膚病やアレルギーなどのサインかもしれません。日頃から愛犬のマズルをチェックする習慣をつけましょう。

犬のマズルコントロールとは?

マズルを触るトレーニングをしている飼い主と犬

犬のマズルコントロールとは、もともと母犬が子犬を教育する際に行う行動を模倣したしつけの一つとされてきました。母犬は、子犬の甘噛みが強すぎたり、やってはいけない行動をしたりした時に、そのマズル全体を口で優しく咥え込むことで、行動を制止し、社会のルールを教えると言われています。

この行動を人間が真似て、手で犬のマズルを掴むことで、「人間がリーダーである」という上下関係を教え、問題行動を止めさせる目的で行われてきたのが、一般的に知られるマズルコントロールです。

これは、犬の群れには厳格な順位があり、リーダー(アルファ)が群れを支配するという「支配性理論」に基づいた考え方から生まれた背景があります。

犬のマズルコントロールはしつけに必要?

マズルの先端を指でタッチされている犬

結論から言うと、犬の問題行動を罰するために、飼い主が力でマズルを掴むような伝統的なマズルコントロールは、現代のしつけにおいて推奨されていません。むしろ、愛犬との信頼関係を損なうリスクが高いため、慎重になる必要があります。

現代におけるマズルコントロールの評価

近年の動物行動学の研究では、犬と人間の関係は支配と服従の上下関係ではなく、相互の理解と信頼に基づいたパートナーシップであると考えるのが主流です。

力や恐怖によって犬をコントロールしようとする方法は、犬に不要なストレスや不安を与えるだけでなく、飼い主への不信感を募らせ、かえって攻撃的な行動を引き出す危険性も指摘されています。

マズルは犬にとって非常に敏感な部分であり、そこを突然強く掴まれることは、大きな恐怖体験となり得ます。

海外と日本における認識の違い

特に欧米では、科学的根拠に基づいた「ポジティブトレーニング(陽性強化)」がしつけのスタンダードとなっています。ポジティブトレーニングとは、犬が望ましい行動をした時に褒めたりおやつをあげたりすることで、その行動を増やすことを目的とする方法です。

そのため、支配性理論に基づくマズルコントロールのような強制的な手法は、時代遅れであり犬の福祉に反すると考える専門家がほとんどです。

一方、日本ではまだ「犬にはリーダーシップを示すべき」という主従関係を重視する考え方も根強く残っており、マズルコントロールを肯定的に紹介する情報も散見されます。しかし、安易に自己流で行うことは非常に危険であり、専門家の間でもその必要性については意見が分かれているのが現状です。

マズルコントロールは慎重に行うべき

もし、噛み癖などの問題行動を矯正する目的でマズルコントロールを検討しているなら、立ち止まってください。

特にしつけに慣れていない初心者が恐怖心から強く掴んでしまったり、タイミングを間違えたりすると、犬は防御のために本気で噛みつくことがあり、事態を悪化させるだけになりかねません。

問題行動には必ず原因があります。まずはその原因を探り、ポジティブな方法で解決していくことが、愛犬とのより良い関係構築に繋がります。

犬のマズルコントロールのやり方

犬のマズルを触ろうとする人の手

ここで解説するのは、問題行動を罰するための伝統的なマズルコントロールではありません。歯磨きや投薬、診察など、日々の健康管理(ケア)のために、愛犬が自分のマズルを触られることに抵抗なく慣れてもらうための「マズルタッチング」という練習方法です。

目的は「罰」ではなく「慣れ」であり、必ずポジティブな経験として行います。

ステップ1:マズルに触れることから始める

まずは愛犬がリラックスしている時に、優しく声をかけながら頬や顎のあたりを撫でてあげましょう。そして、その流れでマズルの側面や上部をそっと指で触れます。触れた瞬間に「いい子」と褒め、すぐにご褒美のおやつをあげてください。

これを何度も繰り返し、「マズルを触られる=嬉しいことが起こる」と犬に学習させます。

ステップ2:優しく包むように持つ

ステップ1に慣れてきたら、次の段階に進みます。同じように優しく触れることから始め、今度は手のひらでマズル全体をそっと下から包むように持ってみます。

この時、力は一切入れません。ただ手を添えるだけです。包み込めたらすぐに褒めておやつをあげます。犬が少しでも嫌がる素振りを見せたら、すぐに手を離し、前のステップに戻りましょう。

ステップ3:少しだけ動きを止める

マズルを優しく包むことに慣れたら、包んだ状態で1秒、2秒と少しだけ動きを止めてみます。もちろん、この間も犬がリラックスしているか常に様子を観察してください。静かにしていられたら、たくさん褒めて特別なおやつをあげましょう。

目標は、飼い主がマズルに触れても、犬が落ち着いていられる状態を作ることです。決して無理強いはせず、愛犬のペースに合わせて少しずつ時間を延ばしていきましょう。

犬のマズルコントロールを始める時期とタイミング

人の両手で顔を覆われている子犬

マズルに触れる練習は、始める時期やタイミングが非常に重要です。

子犬期から始める場合

マズルに触れる練習を始めるのに最も理想的なのは、新しい環境や刺激に順応しやすい「社会化期」と呼ばれる生後3ヶ月頃までの子犬期です。

この時期に、遊びの一環として体中のどこを触られても大丈夫なように練習しておくことで、成犬になってからの歯磨きや動物病院での診察などをスムーズに受け入れられるようになります。

マズルだけでなく、耳や足先、しっぽなども優しく触る練習を日々のコミュニケーションに取り入れましょう。

成犬から始める場合

成犬からでもマズルに触れる練習を始めることは可能です。しかし、すでに顔周りを触られることに苦手意識を持っている場合も多いため、子犬期から始めるよりも多くの時間と根気が必要になります。

絶対に無理強いはせず、愛犬が一番好きなおやつを使うなどして、「マズルを触られることは怖くない、むしろ良いことがある」と、辛抱強く教えていくことが大切です。まずは一瞬触ることから始め、犬が嫌がる前に必ずやめる「スモールステップ」を心がけてください。

犬のマズルに触れる際の注意点

マズルを前足で隠す犬

愛犬との信頼関係を壊さないために、マズルに触れる練習をする際はいくつかの重要な注意点があります。

犬がリラックスしている時に行う

練習は、愛犬が遊んで興奮している時や、何かに怯えている時、疲れて眠そうな時は避けましょう。飼い主の側で落ち着いてリラックスしている時に行うのが最も効果的です。穏やかな気持ちで練習に臨める環境を整えてあげましょう。

正面からいきなり掴まない

人間にとっては愛情表現のつもりでも、犬の真正面から覆いかぶさるように手を伸ばすと、犬は威圧感や恐怖を感じてしまいます。必ず犬の横や斜め前から、視界に入るようにゆっくりと手を近づけ、まずは顎の下や首筋など、犬が受け入れやすい場所から触り始めるようにしましょう。

嫌がる素振りを見せたらすぐにやめる

練習中に犬が顔をそむけたり、体をこわばらせたり、後ずさりしたり、唸ったりするなど、少しでも嫌がるサイン(カーミングシグナル)を見せたら、それは「やめてほしい」という意思表示です。

そのサインを無視して無理強いすると、信頼関係が大きく損なわれる原因になります。すぐに手を離し、一旦休憩するか、もっと簡単なステップに戻ってやり直しましょう。

ポジティブな経験と結びつける

この練習で最も大切なことは、マズルを触られることを「ポジティブな経験」として学習させることです。練習の前後に必ず優しく褒め、大好きなおやつを与えるなど、犬にとって嬉しいご褒美を用意してください。

「マズルに触れられると、良いことが起きる」という経験を積み重ねることで、苦手意識を克服していくことができます。

まとめ

ハートマークにした人の手の隙間にマズルを突っ込む犬

犬のマズルは、嗅覚や食事、コミュニケーションを司る非常にデリケートで重要な部分です。かつてしつけの一つとされていた、罰としてマズルを掴む「マズルコントロール」は、現代の動物行動学では犬に恐怖を与え、飼い主との信頼関係を損なうリスクが高いことから推奨されていません。

本当に目指すべきは、罰や強制ではなく、日々の健康チェックや歯磨きといったケアをスムーズに行うために、愛犬が安心してマズルを触らせてくれる関係を築くことです。

そのためには、子犬の頃から遊びの一環として、あるいは成犬になってからでも根気強く、ポジティブな方法でマズルに触れる練習(マズルタッチング)を積み重ねていくことが重要です。

もし、愛犬の噛み癖や攻撃的な行動に深刻に悩んでいる場合は、自己判断で対処しようとせず、必ず陽性強化を主体とするドッグトレーナーや行動診療科のある動物病院など、専門家に相談してください。愛犬の行動の背景にある原因を正しく理解し、適切な方法で向き合っていくことが、問題解決への一番の近道です。

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