老犬の食事回数は一日何回が適切?
犬は、7歳くらいからシニア期に入ります。小型犬・中型犬であれば7歳〜9歳くらいから、大型犬では10歳くらいからハイシニアです。
現在では、ドッグフードや獣医療の質が向上しているおかげで、この年齢になってもまだまだ元気な犬も少なくありませんが、やはりハイシニアや老犬などと呼ばれる年齢になると代謝や消化機能など目に見えない部分も衰えはじめてきます。
成犬期には1日2回の食事を消化・代謝できていたものが、老犬の体内ではできなくなってしまうのです。成犬期と同じ量でも、効率的に栄養の吸収を行えるようにするために、老犬には1日分の食事を3〜4回に分けて与えるのが理想です。
小分けの食事は消化の負担も軽くします。例えば、これまで朝と夜の計2回であげていたのであれば、朝・昼・夜の3回に分けたり、朝・昼・夜のほかに「寝る前」を加えて計4回にしたりします。
ポイントとしては、食事回数を分割する際は、1回分の食事量を減らすようにすることです。
【老犬の食事回数の目安】100g/日与える場合 | 朝 | 昼 | 夜(夕方) | 寝る前 |
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成犬期(2回) | 50g | - | 50g | - |
老犬期(3回) | 30g | 35g | 35g | - |
老犬期(3回) | - | 35g | 35g | 30g |
老犬期(4回) | 25g | 25g | 25g | 25g |
また、老犬は健康状態が不安定になりやすくなります。しっかりと食べて元気を保つためにも、食事回数だけでなく、犬に合わせた与え方などの工夫も必要です。
老犬の食事回数に関わる体の変化
老化における体の変化は個体によって異なります。多くの犬が共通して経験するものは、運動量の低下、筋力の低下、病気のなりやすさなどです。これらは食事の量を減少させ、老犬期の栄養不良の原因にもなってしまいます。
老犬が自力でご飯を食べられるうちは、食事回数を増やしてしっかりと食べさせることで摂取量の問題は解決が可能です。
もし、以下のような変化があれば、回数の見直しを検討してもよいでしょう。
消化・吸収機能の衰え
年を取って消化器が衰えてくると、胃液や膵液など消化液の分泌が悪くなります。そのため、食べた物の消化や栄養の吸収に時間がかかるようになってきます。
若い頃と同じ分量の食事を与えていると、消化液が減少したところに大量の食べ物が押し込まれることになり、胃腸に大きな負荷がかかります。食べた量は多くなくても、胃腸にとっては「食べ過ぎ」の状態となってしまうのです。
老犬にとって継続的な食べ過ぎ状態は、吐き気などの不快感や消化不良、栄養の吸収不良につながる原因となります。食後にやたらとウロウロするようなら、もしかしたら胃腸の気持ち悪さを抱えているかもしれません。
また、食べているのに痩せてくるようなら、十分な栄養が吸収されていない可能性があります。老犬の場合は、消化器官に負担をかけないよう、消化の良い食事や1度で食べる量に気を配ることが重要です。
運動量・筋肉量・基礎代謝の低下
体力が低下してくると犬は動くことを避けるようになり、運動量が減少していきます。運動量の減少は全身の筋力を弱くさせ、基礎代謝の低下を招きます。
このように運動量・筋力・基礎代謝は互いに関連しているため、一方が進むと他の要素にも影響を及ぼしてしまうのです。
体に必要なエネルギーが減少した犬は、若いころと同じ食事量を摂取すると、脳は食事量が過剰だと判断して、与えた食事を残してしまったり、時間になっても食べなかったりすることが多くなります。
また、老犬は筋力が低下すると、ずっと頭を下げた状態でいることに疲れを感じるため、途中で食べるのを辞めてしまう原因になります。
食べる行為が負担になってしまうと食欲低下にも繋がりますので、1食を短い時間で終わらせるような工夫も必要になります。
口腔や内臓に関わる病気の増加
老犬期になると、口腔や内臓に関わる病気も増加するため、疾病が食事量減少の原因となることもあります。
口腔内の病気としては、歯周病や口内炎、腫瘍などがあります。歯周炎は、歯垢・歯石の蓄積が主な原因となるため、歯磨きをしていない老犬は発症しやすくなります。
口内炎は、感染症や全身疾患の結果、出てくることがあります。口の中の腫瘍は、初期の食べムラで異常に気づくかもしれません。悪化すると強い痛みが出てくるため、何も食べられなくなります。よだれや口からの出血がある場合は要注意です。
肝臓・腎臓・心臓など内臓に関する病気では、初期段階で食欲に変化が見られることがありますが、食欲が落ちていても、一時的にいつも通り食べるというケースも少なくありません。
病気によって吐き気や嘔吐、下痢、腹痛などの症状が生じると、そのまま食欲不振につながることがあります。必要な栄養は摂取しないといけませんから、少しでも食べられるような工夫をしてあげましょう。
嗅覚・味覚などの感覚器官の衰え
老犬になると、感覚器官が衰えて食べ物のニオイがわかりにくくなることがあります。
犬がご飯を食べるときには、見た目や味よりもニオイが優先されるほど、嗅覚は犬にとって非常に重要な感覚です。そのため、老犬になり嗅覚が衰えると食欲の低下につながる可能性があります。
また、「おいしいもの」を食べることは、老犬にとっても食欲を維持するために必要です。味覚の衰えは、嗅覚と同様に食欲に影響を与えます。もし口に入れた時においしさを感じないと、食べる気がなくなってしまうのは私たち人間と同じですね。
食への関心が薄れてくると、食べムラを起こしやすくなりますが、食事の回数を増やすとともに、食事を温めたりトッピングをしたりするなど工夫をすることで、老犬の食欲低下をサポートすることが可能です。
精神的な変化や認知症の発症
若いころは比較的おおらかな性格であっても、老犬になると物事に敏感になってしまうことがあります。
気温や気圧の変化、生活環境の音、散歩中の小さな出来事にまでストレスを感じるほど過敏な場合、食欲不振を起こしてしまうかもしれません。
一時的なものであれば改善することも少なくありません。しかし、老犬の食欲不振が長く続くと、心身に与える影響も大きくなるため、直せる部分は積極的な改善が望まれます。
また、犬でも認知症になることがあります。初期には、落ち着きなく動き回る多動が見られるか、逆に運動の低下など不活発な状態が見られます。老犬になれば健康な犬でも運動量が落ちることから、寝てばかりいるだけの場合は『年を取ったから』と見逃してしまうかもしれません。
また、認知症による異常として、食欲にも変化が現れることがあります。たとえば、空腹感を感じなくなり食べる気がしなくなる場合や、逆に食べた記憶が認知できずに、いつまでも食べたがるケースもあります。
食欲がある場合は、限度を超えるとやはり問題が生じるおそれがあるため、食事の回数と量を決めて与えることが望ましいでしょう。
老犬の食事回数を変えるタイミング
食事の回数を変更するタイミングは、ご飯の食べ方や便の状態に継続的な変化が続くとき、あるいは相談した獣医師からの指示があったときなどが目安となります。
具体的には、以下のような変化が出てきた場合です。
- 食事を毎回残すようになった
- 食欲にムラが出るようになった
- 食後に吐いてしまうことが増えた
- じわじわと体重が減ってきた
- 軽い軟便や便秘が続くようになった
- 異常なほど食事を求めるようになった
散歩の時間が減ったり、寝ている時間が増えたりした場合には、生活スタイルも変化している証拠です。おそらく少しずつ食事を残すことも出てくるでしょう。
年齢だけで決める必要はありませんが、シニア用フードに切り替えるあたりを、食事回数を変えるタイミングにしてもよいでしょう。
老犬の食事回数を変える時の注意点
老犬の食事回数の変更にあたっては、胃腸の負担、栄養不足、食事のストレスなどを避けなければいけません。注意すべきポイントは「食事量」と「時間的な間隔」と「食べさせる工夫」です。
老犬になると必要なエネルギーをキチンと摂取する必要があります。残しがちな食事を、負担なく完食させられることが理想になりますが、老犬の健康状態を考慮して無理をさせないようにしましょう。
また、食欲アップの工夫として、温かい食事や香りの良い食事も効果的です。食欲不振が続く場合には、獣医師に相談することも大切です。
老犬に必要な1日の食事量はキープする
食が細くなる老犬は、栄養失調が心配です。1日分の食事量を維持するためにも、食事は少量ずつ小分けにして与えましょう。胃腸の負担を軽減しつつ、1食ごとしっかりと食べさせることがポイントです。
健康を保つのに必要なエネルギー量は、運動量や体重によっても異なります。犬の状態に合わせて摂取カロリーや栄養バランスを調整することが大切です。
時間帯によっては、あまり食べない時間が出てくるかもしれません。そのときには適宜与える分量を調整するとよいでしょう。なかなか食べないからといって、食事の代わりにおやつを与えるようなことは避けましょう。
老犬の筋力は衰えやすいため高品質なタンパク質が必要です。ただし、腎不全などではタンパク制限を行うことがあります。疾患がある場合の食事は、獣医師に相談するようにしましょう。
食べない時は毎回下げてリセットする
もし、小分けにして食べない時間帯があれば、一旦その分は下げてしまいましょう。置いておけばそのうち食べるだろうと置き餌にしてしまうと、ダラダラ食べの原因となります。
ダラダラ食べは、「食」への関心を薄れさせ、空腹感の低下にも繋がりますので、1日分を食べきれないという悪循環になりやすくなります。
季節によっては食器に残った食べ残しが傷んでしまうこともありますので、食事を与えて一定時間おいても食べないときには、その都度食器を下げる方がよいでしょう。
また、老犬になると食欲は時間帯によって異なることがあります。犬の食べたい気持ちが強まるタイミングを把握して、よく食べる時間帯の食事量を調整していきましょう。
例えば、朝よりも夕方や夜によく食べる場合、朝の食事を少なめにして、お昼や夜に少し多めの食事を与えるようにすると完食できる場合があります。
食べないときは、一旦食器を下げてしまい、時間をおいて再度与えるようにします。犬の食欲や行動パターンを観察し、老犬にとって最適な食事環境を整えてあげましょう。
食事回数の変更以外の工夫も同時に行う
消化管への負荷を減らしつつ、食べる量を増やすために食事の回数を調整しようとするときには、食事内容や食べ方の工夫を併せて行う方が効果的です。
例えば以下のような工夫は、比較的行いやすい例です。
- 食器を高くする
- 口元まで近づける
- 食べ物はやわらかく
- 人肌くらいまで温める
老犬になると筋力の低下から、真下を向いて食べるのは負担になります。食べやすいように食器は少し高くしてあげましょう。
嚥下機能が落ちてくる老犬は、固形物が飲み込みにくくなります。ドライフードなら「お湯でふやかす」「ウェットフードにする」「スープかけごはんにする」など、飲み込みに負担がないようにします。やわらかい食品は消化にもよいので、少しずつ切り替えるとよいでしょう。
ただし、やわらかくても冷たい食べ物は胃腸によくありません。人肌くらいまで温めてあげるといいですね。あたためるとニオイも強まるので嗅覚の落ちた老犬の食欲をそそります。
電子レンジを使用するときは、与える前に必ず熱くなりすぎていないか、触ってチェックしてから与えてください。
まとめ
老犬は年齢とともに運動量や筋力、消化力が低下し、健康上の問題が生じることがあります。そのため、食事管理は重要な課題となります。老犬は食欲が低下する場合が多く、1食分を食べきれないまま1日2食を継続するとエネルギー不足に陥ってしまいます。
1日分を小分けにして食事の回数を増やし、等間隔で決まった時間で与えるようにしましょう。もちろん食事の量は適切に調整することが必要で、摂取カロリー量を定期的に確認することが大切です。
また、与え方にも注意が必要で、飲み込む力が弱ってきた老犬にはやわらかい食材を用意するなど、食事に合わせた工夫が必要です。さらに、消化しやすくするためにも、やわらかくして与えるのもよいでしょう。
老犬の食事は健康維持のために重要な要素です。正しい食事は長生きにもつながります。きちんと管理をしてあげましょう。