犬のための台風対策(室内・屋外)
台風「犬をしまえ」とは?
近年、台風シーズンになるとSNSなどで「犬をしまえ」という言葉が飛び交います。これは、単なる標語や冗談ではなく、「台風が接近する前に、屋外で飼っている犬を安全な室内へ避難させてください」という、犬の命を守るための非常に切実な呼びかけです。過去の災害で、繋がれたまま逃げられずに命を落としたり、飛ばされてきた物で怪我をしたりした犬がいた悲しい教訓から広まりました。
愛犬の安全を確保することは、飼い主の最も重要な責任です。この言葉を、愛犬への最大限の愛情表現と捉え、早めの行動に移しましょう。
犬を屋外で飼っている場合
屋外での飼育は、台風時には極めて危険な状況に晒されます。強風で犬小屋が壊れたり、飛ばされたりする可能性があります。また、看板や瓦礫などの飛来物が直撃する、増水によって水没する、切れた電線に触れて感電するなど、命に関わるリスクが数多く存在します。
危険な風速の目安
気象庁の基準では、平均風速が秒速15メートルを超えると、風に向かって歩けなくなり、看板などが落下し始めるとされています。体が小さく、四本足で踏ん張る犬にとっては、これより低い風速でも非常に危険です。台風情報でこのレベルの風速が予測された場合は、即座に室内へ避難させる必要があります。
具体的な対策方法
最も重要な対策は、台風の予報が出た段階で、なるべく早く犬を室内に入れることです。玄関の土間や、普段から慣れているクレート、サークルなどを室内に設置し、安全な避難場所を確保しましょう。急に環境が変わると犬がストレスを感じるため、事前に室内で過ごす練習をしておくことが理想的です。
また、庭に置いている犬小屋や、おもちゃ、食器などが風で飛ばされないよう、しっかりと固定するか、物置などにしまっておきましょう。
犬を室内で飼っている場合
室内で飼っているからといって、対策が不要なわけではありません。台風の暴風によって飛来物が窓ガラスに直撃し、割れてしまう危険性があります。
割れたガラスの破片は犬にとっても非常に危険です。また、停電や断水といったライフラインの寸断にも備える必要があります。
窓ガラスの対策
窓ガラスには、内側から養生テープなど粘着残りの少ないテープを米印のように貼ることで、万が一割れた際の飛散をある程度防ぐことができます。より効果的なのは、市販の窓ガラス用飛散防止フィルムを事前に貼っておくことです。
また、シャッターや雨戸がある場合は必ず閉め、ない場合でもカーテンやブラインドを閉めておくだけで、ガラス片の室内への飛散を軽減できます。
停電への備え
停電に備え、犬用の防災グッズを準備しておきましょう。数日分のフードや飲み水、常備薬、予備のペットシーツは必須です。懐中電灯や、スマートフォンの充電器などもまとめておくと安心です。
特に夏場の停電は熱中症のリスクを高めます。停電時でも使える冷却マットや、冬場であればペット用のカイロや湯たんぽなど、愛犬の体温を管理できるグッズを用意しておくことが重要です。
台風の日は犬の散歩をするべき?
結論から言うと、台風が接近・通過している最中の散歩は絶対にやめるべきです。飼い主自身が危険なだけでなく、犬を命の危険に晒す行為となります。
普段散歩でしか排泄しない習慣の犬もいますが、安全が最優先です。台風が来る前に、室内での排泄トレーニングを進めておきましょう。
散歩の具体的なリスク
強風の中では、何が飛んでくるか予測できません。看板や枝、瓦礫などが犬や飼い主を直撃する恐れがあります。
また、道路が冠水すると側溝やマンホールの蓋が外れていても見えず、転落する危険があります。強い雨風に長時間さらされると、特に小型犬やシニア犬は低体温症に陥る可能性も。
さらに、切れた電線による感電や、雷などの大きな音にパニックを起こしてリードを手放してしまい、犬が脱走・迷子になるリスクも極めて高くなります。
室内での運動やストレス解消法
散歩に行けない間の運動不足やストレスを解消するため、室内での過ごし方を工夫しましょう。おやつを隠して探させるノーズワークマットや、フードを詰めて遊べる知育トイは、犬の狩猟本能を満たし、良い気分転換になります。
飼い主との引っ張りっこや、柔らかいボールを使った「持ってきて」遊びなども有効です。また、優しくマッサージをしたり、丁寧にブラッシングをしたりするスキンシップの時間は、犬をリラックスさせ、飼い主との絆を深める良い機会にもなります。
犬が台風を怖がる場合の対処法
犬は人間よりも聴覚が鋭く、気圧の変化にも敏感なため、台風の気配をいち早く察知し、強い不安や恐怖を感じることがあります。風の唸る音や、家に物が当たる音、雷鳴などは、犬にとって大きなストレス源となります。
不安を感じている時の仕草や兆候
犬が不安を感じているサインを見逃さないようにしましょう。小刻みに震える、ハァハァと浅く速い呼吸(パンティング)をする、飼い主の後をしつこくついて回る、家具の隙間や部屋の隅に隠れようとする、などが代表的な行動です。
その他にも、尻尾が足の間に巻き込まれる、耳が後ろに倒れる、落ち着きなくウロウロする、普段より過剰に吠えたり鳴き続けたりする場合も、不安の表れと考えられます。
不安を解消する方法
最も大切なのは、飼い主自身が落ち着いて、毅然とした態度で普段通りに接することです。飼い主がオロオロしていると、その不安が犬に伝わり、余計に怖がらせてしまいます。
犬が隠れられるよう、クレートやケージに布をかけて薄暗くするなど、安心できる「巣穴」のような場所を用意してあげましょう。外の音を遮断するために、カーテンやシャッターを閉め、テレビや音楽を少し大きめの音で流すのも効果的です。
また、雷が鳴った瞬間に特別なおやつを与えるなど、怖い出来事と嬉しい出来事を結びつけることで、恐怖を和らげるトレーニング(拮抗条件付け)も有効です。
台風で犬が体調不良になる理由
台風が近づくと決まって下痢をしたり、元気がなくなったりする犬がいます。これは「気象病」とも呼ばれ、主に気圧の急激な低下が、体のバランスを調整する自律神経に影響を与えることが原因と考えられています。
気圧の変化と自律神経
私たちの体は、活動時に優位になる「交感神経」と、リラックス時に優位になる「副交感神経」という2つの自律神経がバランスを取り合うことで健康を維持しています。急激に気圧が低下すると、このバランスが乱れやすくなります。
特に交感神経が過剰に刺激され、血管の収縮や心拍数の増加などを引き起こし、犬の体に知らず知らずのうちにストレスを与えているのです。
主に現れる症状
自律神経の乱れから、下痢や嘔吐といった消化器系の症状が現れることがよくあります。なんとなく元気がない、食欲が落ちる、ずっと寝ているといった変化が見られることも。
また、関節炎や心臓病、てんかんといった持病がある犬の場合、気圧の変化が痛みを悪化させたり、発作の引き金になったりすることもあるため、特に注意が必要です。
飼い主ができる対処法
愛犬に体調不良のサインが見られたら、まずは暖かく静かな場所でゆっくりと休ませてあげることが基本です。食事は、消化しやすいように普段のフードをお湯でふやかしてあげたり、少量ずつ何回かに分けて与えたりする工夫も良いでしょう。症状が軽度であれば、台風が過ぎ去り、気圧が安定すれば自然に回復することがほとんどです。
しかし、嘔吐や下痢が続く場合や、持病が悪化している様子が見られる場合は、ためらわずに動物病院に連絡し、指示を仰ぎましょう。特にシニア犬や持病のある犬は、台風シーズンに入る前に一度かかりつけの獣医師に相談しておくと、より安心して備えることができます。
まとめ
台風から愛犬の命と健康を守るためには、事前の備えと正しい知識が不可欠です。SNSで広まる「犬をしまえ」という言葉は、愛犬家たちの切実な願いが込められたメッセージです。
外飼いの犬は早めに室内へ避難させ、室内飼いの犬も窓ガラスの対策や停電への備えを万全にしましょう。散歩ができない日のストレスケアや、台風を怖がる犬への寄り添い方、気圧の変化による体調不良への対処法を知っておくことで、飼い主自身の不安も大きく軽減されます。
大切な家族の一員である愛犬のために、万全の準備で台風シーズンを乗り越えましょう。