ペットフード協会 連載コラム

広島生まれの野犬の子が「困った…」から「楽しい!」に。保護犬の歓びの雄叫びに家族全員ほっこり

2023年10月頃、広島で野犬の子として生まれ、保護されるまでの約2ヶ月間、野山で暮らしていたパピー。小さな小さな女の子。彼女は保護されるまでの間、どんな暮らしをしていたんだろう。昼間はお母さんと一緒に食べ物を探して彷徨い、夜はお母さんの温もりに包まれて眠っていたんだろうか。どんなものを食べ、何をして遊び、どんなところで眠っていたんだろう…。小動物や昆虫などを食べて飢えを凌いでいたかもしれないし、パピーらしくお母さんに甘え、無邪気に遊んだりしていたのかもしれない。

彼女の名前は「葉音(はのん)」。

生後約2ヶ月のときに、「広島県動物愛護センター」に保護犬として、同じ場所で保護されたもう1頭のパピーとともに収容されました。

動物愛護センターに収容された犬や猫には、自治体や状況によっては「命の期限(収容期限)」が付けられてしまうことがあります。しかし、葉音にそのような残酷な期限が付けられることはありませんでした。

広島県は、2011年に犬猫殺処分数の全国ワーストを記録した歴史を持っていますが、2016年度から保護犬猫の全頭引き取りを実施。2016年4月からドリームボックス(炭酸ガス処分機)の稼働を停止し、2023年8月のリニューアル時にはドリームボックス自体を設置しませんでした。つまり、葉音が収容されたときは、ドリームボックスは存在せず、よほどのことでもない限り、「譲渡(里親探し)」を目指した収容になっていたのです。

広島県においては、かつてのような「一定期間が過ぎれば機械的に殺処分される」という一律の「命の期限」の構図は大きく影を潜め、現在は、民間の強力なバックアップと行政の譲渡努力によって、多くの命をつなぐ仕組みが定着しています。

昔かわいがっていた犬の生まれ変わりかも?

広島県動物愛護センターに収容された葉音は、その後、東京の保護団体に引き取られ、やがて彼女はそこで新しい家族と巡り会うことになります。

葉音を家族として迎え入れることになる飼い主さんは、かつて祖父母宅にいた犬のことが忘れられず、「あの子が生まれ変わったら、また一緒に暮らしたい」という思いをずっと胸に秘めていました。そしてある日、保護団体のSNSで葉音に関する投稿を見たとき、すぐに「あっ、あの子だ!」と感じたそうです。生まれ変わりを科学的に証明することはできませんが、「会いたい!」と強く願うことが、ときに運命的な出会いをもたらすのかもしれませんね。

ほどなく、葉音は生まれて初めて人間と一緒に「家族」として暮らすことになります。その家族とは、以前このコラムでご紹介した保護犬「彩葉(いろは)」のご家族です。

野犬の子として保護された葉音は、人間の家族の一員として暮らしたことなどありません。そのため、まだ十分に警戒心から解放されてはおらず、常に不安そうで、音や光、人の動きなどに過剰に反応してしまい、顔にも表情がなかったといいます。

また、パピーのために消化能力が未発達だったり緊張によるストレスのためか、彼女は食糞をしがちだったそうです。

「ちょっとちょっと、ダメダメーーーッ! あ~食べちゃった…」

大慌てだけれどどこか和やかな、当時の大騒ぎぶりが想像できます。しかし、飼い主さんの苦労の甲斐あって、今では葉音が食糞をすることはありません。彼女の名誉のために。

不安な日々を乗り越えて、幸せの「音」を奏でる

「葉音」という名前には、「幸せな音を奏でてほしい」という願いが込められています。

葉音が新しい環境に慣れ、家でのルールを理解するまでには思った以上の時間がかかりました。しかし、彼女の「教育係」としての存在感を存分に発揮したのが兄貴分の「彩葉」でした。彩葉との遊びのなかで、葉音は多くのことを学び、家族の一員としての意識を高めていったのです。

そして、環境に慣れ、家でのルールも覚えていく過程のなかで、「ここにいると楽しい!」と思うようになったようです。良くも悪くも、身近にお手本となるような犬がいることは大切なのかもしれませんね。

いま、葉音は毎日のように、一緒に暮らす保護犬・保護猫、そして4人の大人とともに澄み切った幸せの和音を奏でています。

コレってパピーの声? 突然放たれた野太い雄叫び

葉音を家族として迎え入れてから数ヶ月後、尻尾を振って、ぎこちないながらも笑顔を見せるようにもなったあるとき、突然、彼女が「ブオーーーーーッ!」という低く大きな声を出したといいます。はじめは、家族全員、パピーらしからぬ野太い声の意味がわからず、ただただ驚いていたのですが、少し困ったような甘えたような表情をしながら出す声が、実は「歓びの雄叫び」だったのだと、ほどなく気づき、家族全員大爆笑したそうです。

まだまだ不器用で、自分の感情をうまく表に出せない葉音。小さな体で大きな犬にも果敢に挑んでいく女の子。小さいわりに力持ちで、冬のそり遊びではそりをグイグイと引っ張り、春のかけっこでは、兄貴分の彩葉を凌ぐ速さで疾走する元野犬の子。

彼女は、自由にのびのびと、けれど、守るべきルールはきちんと守る家庭犬として幸せな毎日を送っています。

筆者が葉音と接していてよく感じることは、彼女には不思議なチカラが宿っているということ。彼女は、比較的そっけない、どちらかというと「塩対応」なタイプなのですが、彼女に触れたり話しかけたりすると、なぜか気持ちが安らかになっていくのです。ザラザラした心の表面が柔らかくコーティングされてスベスベになっていくように。

それが彼女の母性のなせるワザなのか、辛い経験を乗り越えてきたことで得た共感力なのかはわかりませんが、葉音には人の心を癒すチカラがあるように思えてならないのです。

今は元気だけど…。元保護犬が抱える健康の不安

元野犬で、保護されるまでの間、何を食べどのような暮らしをしていたのか不明だったこともあって、葉音の健康管理にはとても気を遣っている飼い主さん。現在は元気いっぱいといった感じの葉音ですが、それでも健康面で気になることがあるというので、当コラムの監修を担当している獣医師の徳本一義先生に聞いてみました。 

「ドライフードにトッピングをしたいのですが、どのように与えたらよいですか? また、野菜や果物もあげたほうがいいですか?」

<徳本獣医師の回答>

犬の食事は、基本的には必要な栄養素が適切なバランスで配合された「総合栄養食」を与えていて、体重が安定しているようなら、それだけで大丈夫ですが、愛犬に美味しいものを食べてもらいたいというのは飼い主さんの親心ともいえます。そこで、毎日の食事に変化を持たせるため、ドライフードに愛犬が好む食材をトッピングする際には、以下の点に注意してください。

◎トッピングした分、ドライフードの量を減らす※
◎調味料は使わず、初めての食材は少量から始める
◎トッピングとドライフードは、よく混ぜて与える

※世界小動物獣医師会(WSAVA)は、総合栄養食以外のおやつなどについて、1日の摂取エネルギーの「10%」を超えないよう推奨しています。

トッピングは、同じものを毎日続けるよりも、2~3種類の食材をローテーションしてもよいでしょう。

ドライフードへのトッピングは、量ではなくエネルギーで考えることが大切となりますが、それには計算が必要になりますので、一度かかりつけの動物病院で、獣医師や愛玩動物看護師に相談してみるのもよいかと思います。

次に野菜や果物についてですが、犬は「肉食に近い雑食」のため、総合栄養食を与えていれば、野菜や果物を積極的に与える必要はありません。もし、野菜や果物を与える場合は、「NG食材」をちゃんと知っておきましょう。

<代表的な犬に与えてはいけない野菜・果物>
ネギ類(タマネギ、長ネギ、ニラ、ニンニクなど、加熱したものや煮汁もNGです)、ブドウ、レーズン、マカダミアナッツなど。アボカド、サクランボ、桃、スモモなどは、茎・葉は果肉は区別してください。また、トウモロコシを与える際には、絶対に芯は与えないでください。

果物を与えるときは、少量から始めてください。なお、糖分やカロリーの高いものは肥満の原因となる場合があるので注意してくださいね。

気になることがあったり、ペットが普段と違う様子を見せたら、かかりつけの動物病院で診察してもらいましょう。「なんでもなかったら申し訳ない…」なんて思わないでくださいね。動物が病気でなかったら、獣医師は「あ~、よかった!」って安心するだけなんですから。

まとめ

筆者が「葉音(はのん)」に初めて会ったのは、2024年3月のこと。

このとき、彼女はとても困った顔をしていました。吠えて威嚇したりというようなことはなかったのだけれど、「この人とどう接したらいいんだろう…」といった困惑の表情でした。

しかし、あれから2年の時を経た今年3月。飼い主さん不在という状況にもかかわらず、彼女は筆者の呼びかけに応じて楽しそうに駆け寄ってきてくれたのです。あの葉音がようやく心を許してくれたんだと感じた瞬間でした。そのことが本当にうれしかった。涙が出るほどに。

保護犬に対して「懐かない」「怖い」「気難しい」といったネガティブな印象を持ってしまう人がいるかもしれないけれど、必ずしもそんなことはないんです。時間をかけてゆっくりと丁寧に接していけば、特殊な場合を除いてほとんどの子は心を許してくれるのではないでしょうか。

だから、もっとフラットな気持ちで保護犬に接してほしい。そう願っています。

ペットフード協会が行った「2025年 全国犬猫飼育実態調査」によると、犬の入手先として「保護犬」に該当するもの(シェルター、マッチングサイト、譲渡会)の割合は約11%に過ぎず、まだまだ広く認知されていないのが現状です。

ペットフード協会は、今後も「幸せになった保護犬たち」を紹介することで、犬を迎える際の選択肢のひとつとして「保護犬」が広く認知されることに貢献したいと考えています。 

◎写真・文:ほりまさゆき(風の犬たち)

★第16回 インターペット東京

来年開催される「第16回 インターペット東京」の日程が決まりました!

ペットフード協会では、来年もご長寿ペットの表彰を行う予定です。たくさんのご長寿さんのエントリーをお待ちしております。

◎会期:2027年4月1日(木)~4日(日) 10:00~17:00(最終日は16:30まで)

◎会場:東京ビッグサイト 東1・2・3・4・7・8ホール

★第5回 インターペット大阪

来年6月には「第5回 インターペット大阪」が開催されます。来年も充実のコンテンツで皆さまをお迎えします。

ペットフード協会では、来年の大阪でもご長寿ペットの表彰を行う予定です。ぜひエントリーしてくださいね!

◎会期:2027年6月11日(金)~13日(日) 10:00~17:00(最終日は16:30まで)

◎会場:インテックス大阪 4・5・6A・6B館

連載では、ペットの健康のことや人とペットの暮らしについての「正しい」情報を発信していきますので、”ウチの子” との幸せな暮らしのヒントにしてくださいね。

ペットフード協会のウェブサイトではペットに関する多くの情報を見ることができますので、ぜひのぞいてみてくださいね!

■一般社団法人ペットフード協会

https://petfood.or.jp/

記事の監修
獣医師
徳本一義
  • 一般社団法人ペットフード協会 新資格検定制度実行委員会委員長
  • 一般社団法人ペット栄養学会 理事
  • 有限会社ハーモニー 代表取締役
  • 日本獣医生命科学大学、帝京科学大学、ヤマザキ動物看護専門職短期大学非常勤講師