老犬がご飯を食べないのにおやつは食べる原因
「年を取ってきたらわがままになって、ご飯は食べないのにおやつは食べる」毎日愛犬のご飯を用意している飼い主だからこそ、そんな風に感じるのも仕方がないかもしれません。
たしかに老犬になると、食が細くなることは珍しいことではありません。しかし、食欲不振にも程度があります。食べるには食べるけど「なんとなく残す方が多い」あるいは、「まったく食べない」など。場合によっては治療が必要になるかもしれません。
老犬がご飯を食べないのにおやつなら食べるという場合、大きく3つの原因が考えられます。
食べ物の嗜好性の違い
第一は嗜好性の問題です。犬用おやつは、栄養バランスよりもおいしさを重視して作られていることが少なくありません。一般的には、ニオイが強く、塩味が強い傾向にあります。
それは、犬におやつを「おいしい、もっと食べたい」と思わせることで、飼い主からの愛情表現やトレーニングやしつけをする際のモチベーションとして利用できるようにするためです。
食事を食べないのにおやつは欲しがる場合、もしかしたら、毎日の食事に飽きていた、あるいは、たまたま与えたおやつがおいしくてハマってしまったかもしれません。おやつがペーストやセミモイストタイプだと、食べやすくてご飯よりも好きというケースもあります。
中には、ご飯の時間に食べなくても『お腹がすいたら、おやつがもらえる』なんて考えている子もいるかもしれません。
食べるために必要な筋力や体力の低下
老犬になると噛む力が弱くなり、丸のみに慣れていない子はドライフードが食べにくい、飲みにくくなります。
犬の食器は、立った高さよりも少し低い程度が食べやすいといわれています。食べるときに、中腰にかがんで真下を向くような体勢は疲れやすく老犬にとっては食べにくくなります。首や背中の筋力も弱るので、体勢の維持がむずかしくなるからです。
老犬は運動量が減り、空腹感を感じにくくなるので、お腹を満たす欲求よりも食べにくいことを避ける方を優先したがるようになります。
もし、若い時から食べている同じドライフードをそのまま与えている場合、愛犬にとってはすでに「食べにくいご飯」になってしまったかもしれません。フードの形や硬さも食を細くする原因となるのです。
おいしさを知る嗅覚の衰え
犬は食べるか食べないかを判断するときに、最初に嗅覚で判断をしてから口の中に入れて飲み込むかどうかを決めています。老化して嗅覚が衰えてしまうと、食事のニオイが感じられずに食欲がそそられず、食いつきが低下してしまうことがあります。
よほどお腹がすいているときには、『いつもの食べ物』という視覚による習慣で口に入れるかもしれません。しかし、ニオイを感じないということは、おいしさがないということですので、1~2口食べてあとは残してしまうこともあるでしょう。
私たち人間も体調を崩したときなどに、食べ物の味がしないと食欲が湧かないように、ニオイが犬の食欲に大きな影響を与えているのです。
精神的なストレス
老犬になる頃には、家族の生活も変化することがあるでしょう。引っ越しやリフォームで住環境に変化があったり、お子さんが生まれたり、同居動物が増えて家族構成が変化することもあるかもしれません。生活が忙しくなって、家にいるときに十分かまってあげられなくなることも考えられます。
老犬になると、視力や聴力も衰えてきますが、犬にとって五感の老化は不安が大きくなる要因のひとつです。若いときにはなんともなかった小さな刺激でも、思わぬストレスを感じやすくなってしまいます。
ここ最近で何か変化がなかったか考えてみると原因がわかるかもしれません。犬種によっては筋力低下による運動不足も精神的なストレスとなって現れることもあります。
老犬がおやつしか食べないときに受診すべき症状
犬がご飯を食べなくなる原因が、食べ物の好みや環境の変化などであれば自宅でも対応が可能です。しかし、食欲不振が健康上の問題だった場合は、治療の機会を見落としてしまう方が問題になってしまいます。
受診の目安となる症状は、食べないことの他にも何か症状があることです。
- 元気がない、寝てばかりいる
- 腹鳴や吐き気、便の異常がある
- 歯石がある、歯肉が赤くなっている
- 食べムラがある
- 食器の周りをウロウロする
食欲不振だけでなく、寝てばかりいる、元気がないなどの症状はあらゆる病気で見られる症状ですキュルキュルとお腹が鳴る、吐き気、下痢や便秘があれば胃腸障害の恐れがあります。食べると悪化することもありますので、おやつは中止してください。
歯周炎などのトラブルは自宅でも定期的にチェックをしましょう。歯周炎が痛いことで食べることを避けるようになります。食べたくはないのですが、お腹はすくのでおやつを少し食べて我慢していることもあります。
食べムラや食器の周りをウロつくのは認知症で起こる症状です。視覚や嗅覚の問題も疑われます。若い犬であれば食べるときがあるなら、多少食べムラがあっても大丈夫と思ってしまいそうですが、老犬になったら注意が必要です。
上記に加えて、もしおやつも食べない場合は、かなり体調不良やストレスが強く出ている可能性があります。いずれの場合も、早急に動物病院を受診して相談するようにしてください。
老犬がご飯を食べないがおやつは食べる場合の対処法
老犬がおやつは食べるのにご飯を食べてくれない場合、食べ物や食べる環境を修復して、食欲が湧くようにしてあげることがポイントです。
おやつばかりではお腹を満たして十分な栄養にはなりませんし、放っておいてそのまままったくご飯を食べなくなっては危険です。紹介する方法を試して、食欲を戻すように心がけてみてください。
おやつはやめて、時間通りに出した食事をキチンと完食するのが理想ですが、食欲不振のあとでは、もしかしたら少しずつの前進になるかもしれません。
おやつは一旦やめる
ご飯を食べない愛犬を心配して、少しでも食べてくれるおやつの方を与えてしまう気持ちはわかりますが、食欲を戻すためには、ある程度の空腹感が必要です。特におやつでの食べ過ぎで食事が減るのはいけません。まずはおやつを一旦やめましょう。
もしかしたら食べないかもしれませんが、いつもの時間通りにメインフードを与えてください。もし、30分~1時間ほどで食べなければ、もったいないと思いますが廃棄してしまいましょう。時間通りに食べないと食べられないと理解してもらいます。
その代わりご飯を食べ終わったら、好きなおやつをほんの少しだけご褒美にしてもいいでしょう。もし次の食事までに空腹で大騒ぎするようであれば、メインフードをおやつ代わりほんの少しだけ与えましょう。最初はしぶしぶでも、また食べるようになるはずです。
温めやトッピングなどで食感を変える
食事のニオイを強めるやり方は、嗅覚で美味しそうかどうかを判断する犬の食欲を刺激する方法です。食べ物を温めるとニオイが際立ちます。
ウェットフードなら湯せんで人肌まで温めましょう。ドライフードも電子レンジ600Wで20秒ほど温めるとフードの油分も溶けニオイが際立ちます。このときドライフードにお湯を少し入れてふやかしてあげると老犬にも食べやすくなりますよ。
あるいは、上からトッピングをして最初の一口を誘導する方法もあります。おいしい別のフードを乗せていいですし、茹でた鶏肉などを少量追加してみてもいいでしょう。特に冬は食事をほんのり温めるだけで、老犬の消化にも優しくなります。
ただし、加熱しすぎには注意しましょう。犬に与える前に実際に触って熱くなりすぎていないか、チェックするようにしてください。
食器や器の高さを調節して食べやすくする
ご飯の時に真下を向いて食べると胸が圧迫され、筋力の弱った老犬にはつらいものです。犬の食道は、地面と平行して横に伸びているため、頭を下げて増したと向いて食べると、食べた物は口から胃までの経路を下から上に向かって流れなくてはいけません。
若い犬はそれでも筋力があるため、食道を動かす括約筋も一生懸命食べたものを運びます。しかし、老犬になると筋力が弱ります。
食べたものが食道内で溜まった状態になって、吐き戻しや気管に入って誤嚥性肺炎になりやすくなってしまいます。食器は台を使って高さを調節しましょう。
高さの目安は、犬がまっすぐ前をむいて立った時の前足の付け根から肩のあたりです。この高さは、立ったままでもおしりをついて座っていても、頭を下げずに食べることができます。背中を極端に曲げないで食べられる高さがちょうどよいでしょう。
老犬がご飯を食べないがおやつは食べる場合の注意点
ご飯は食べないけれど、おやつなら食べるということは、まったく食欲が廃絶されている訳ではありません。なにか理由があって食べないと考えられるため、焦って無理に食べさせようとするよりは、食べない問題を解消できるように努めたほうがうまくいくでしょう。
食事管理をする上での注意点を紹介します。
ご飯の内容は急激に変更しない
愛犬が食事を食べないことが続くと、食事の方を変更しようといろいろな種類を試したくなります。食べてくれるものはないかとインターネットで検索して、身体によいフードや手作り食などの情報を目にすることもあるでしょう。
しかし、犬がこれまで経験したことのない形や素材のご飯に急激に変更するのはよくありません。例えば、ドライフードメインの食事から生肉などを使用した完全手作り食に変更などです。
食べ物の変更は老犬にとって少なからず抵抗感が生まれますが、それ以上に嘔吐や下痢の原因となりかねません。
水分たっぷりの手作り食は、水を飲まなくなる老犬にとっては悪いものではありませんが、完全に手作り食などにするには、段階を経て少しずつ慣れさせる必要があります。
また、人間用に調理したご飯は栄養成分的にも老犬の負担になります。与えないようにしましょう。
強制給餌は獣医師の指導を受けてから行う
健康な若い犬であれば、何も食べなくても2日程度は問題ありませんが、老犬になると丸々24時間何も食べないのは体に支障をきたします。
もしおやつを食べるのであれば、食欲はあるはずですので食欲廃絶してしまう心配はありません。しかし、食べたそうにしているもの食べないのであれば、直接口に入れて食べさせる強制給餌というやり方もあります。
しかし、シリンジ(針のなし注射器)を使った強制給餌は、容易にお勧めできる方法ではありません。嫌がっているところに誤ったやり方をしてしまうと誤嚥するリスクがあるためです。
どうしても食べない場合は、自己判断で強制給餌を始める前に、まず病院で診察を受け、そのうえで必要であれば強制給餌のやり方を教えてもらってからにしましょう。
過度に心配しすぎない
飼い主のメンタルは、犬の心にも大きく影響を及ぼします。犬は歴史的に長く人間と共に生きることで、飼い主の心や行動を読みながら生活するようになりました。特に経験豊富な老犬は、飼い主のメンタルにとても繊細です。
老犬が食べない場合、必ず何か理由がありますが、理由が明確にならないことを心配しすぎるのはよくありません。飼い主の過度な心配は犬の心を傷つけ、犬は『自分は何か悪いことをしているのではないか』と考えて体調を崩すかもしれないからです。
元気よく食べている姿を知っているだけに、食べないということは何かと心配でしょう。しかし、心配であれば、病院を受診したり、食べ物を温めたり、食器の高さを変えたり、工夫して食べられるように頑張ってみてください。
食欲不振が気分的なものであれば、飼い主が楽しく過ごすことが一番の解決策になることもありますから。
まとめ
もし、飼っている老犬がご飯を食べなくなったというときには、身体的な問題と精神的な問題の両方を検討するようにしましょう。
身体的な問題は、老化による筋力低下や感覚器の機能低下です。精神面では、溜まったストレスやご飯よりもおやつがおいしいという誘惑です。基本的にはまず病院で診察を受けて、病気であれば必要な治療をして、通院の必要がなければ自宅で対策します。
老犬になると食べる行為だけでも、若いころのようにはいかなくなりますから、食器の高さを高くしたり、フードの食感を食べやすくしたりするなどなどの工夫も必要です。食べないからと言って、自己判断で強制給餌をするのはよくありません。
老犬にとっても必要な栄養を摂ることは大切です。食べないことで悪影響が出ないよう、食べられるうちはできるだけ自力で食べられるように促しましょう。
飼い主が過度に心配しすぎるのも、犬のストレスになるので注意します。犬の老化現象に寄り添い、できるだけたくさんの楽しい時間を過ごせるように心がけましょうね。