老犬の介護の基本
動物医療が進歩し、犬の適切な飼い方が世間に広まるにつれて、犬の寿命はどんどん伸びています。長く愛犬と一緒にいられるのは嬉しいことですが、犬の高齢化に伴って増えているのが「老犬の介護」です。
老化とともに体が衰え、時には認知症がでることもある愛犬をどのように介護すれば良いのか困ってしまう飼い主さんもいると思います。
老犬の介護は長期間にわたることもあるため、犬だけでなく飼い主さんにとっても負担がかからない方法を考えることが大切です。
どんな介護が必要になるのか、介護グッズにはどんなものがあるのかなどを知っておき、いざという時の心構えをしておきましょう。
今回は老犬の介護に関する情報をまとめましたので、愛犬を介護することになった人、将来飼っている犬が老犬になった時に備えたい人はぜひ参考にしてください。
老犬になったら様々な介護が必要になる
人間が高齢になると様々な介護が必要になるように、犬も成犬から老犬になると細やかな介護が必要となります。老犬の介護において必要となるケアは主に次のとおりです。
- 食事
- 寝床
- トイレ
- 歩行補助
- お風呂
老犬の介護は犬の症状や状態によって必要なケアは変わりますが、食事、トイレ、お風呂の介護はほとんどの犬に必要になるでしょう。
シニア向けの食事を作ったり、ご飯を直接食べさせたりする他、トイレの後始末、体力がなくなってきた愛犬をどうお風呂に入れるかなど、やることや考えることはたくさんあります。
また、犬が寝たきりの場合は、過ごしやすい寝床作りや床ずれ防止のケアが必要になるでしょう。犬が自分の力だけで歩けなくなれば、移動や散歩をする時に飼い主が手助けしなくてはいけません。
愛犬にはどんなケアが必要なのか、獣医に相談しつつ考えることが大切です。
老犬介護を始める時期は?
一般的に、犬は7歳くらいでシニア期に入るといわれています。大型犬のほうが老化のスピードは早く、小型犬・中型犬は10歳くらいからがシニア期だといわれることもあるでしょう。
このくらいの時期になると犬には次のような見た目の変化が現れます。
- 体毛が薄くなる
- 毛艶がなくなる
- 白髪ができる
- 足腰が曲がる
- 目が白っぽくなる
- 痩せる
また、寝てばかりいる、耳が遠くなる、散歩に行きたがらない、トイレを失敗するなど、行動にも変化が見られるようになります。
愛犬にこれらの兆候が見られたら、足腰に優しい部屋づくりや体に負担がかからない散歩、シニア向けの食事に切り替えるなど少しずつ介護を始めていくと良いでしょう。
年齢だけで老化の状態を判断するのではなく、愛犬の様子をよく観察して適切な対応をしていくことが必要となります。
老犬の介護の種類
老犬の介護には様々なケアが必要になるとお伝えしましたが、ここからは具体的にどんな介護をしなければならないのかご紹介しましょう。
どれも食事やトイレなど、老犬が生きていくために必要な内容ばかりです。愛犬がまだ若いという人も、いつか来るかもしれない老犬の介護がどういうものなのかチェックしておくことをおすすめします。
犬の状態によって必要な介護の内容は変わりますが、心づもりをしておくことはとても大切ですよ。
それぞれの介護について詳しく説明をしている記事のリンクを貼っていますので、細かい情報が知りたいという人はそちらもご参照ください。
食事の介護
老犬の介護の中で、犬の健康を大きく左右するのが「食事の介護」でしょう。寝たきりであっても、ご飯をしっかり食べて栄養が取れていれば長生きするワンちゃんは多くいます。
犬は老化が始まると、代謝が落ちて消化する力も弱くなっていきます。愛犬がシニア期に入ったら、見た目は元気であってもシニア食に切り替えるのが良いでしょう。タイミングに悩む場合は獣医に相談してみてください。
犬の老化が進んでくると噛む力も衰えてきますので、ご飯をふやかして食べやすくしたり、ウエットフードに切り替えるなどの対応が必要になります。
自力でご飯が食べられないワンちゃんにはスプーンで口にご飯を運んであげたり、フードをドロドロにして流動食を作り、シリンジを使って飼い主が直接食べさせる必要があります。
老化とともに食が細くなっていく犬も多いので、できるだけ栄養価が高く、愛犬が食べやすい食べ物やフードを与えることもとても大切です。
寝床(床ずれ)の介護
寝たきりになった老犬に必要なのが、寝床の介護です。
犬は加齢とともに足腰が弱ると寝床に横たわったまま動かなくなり、排泄や食事も自分ではできなくなります。そうすると、同じ姿勢のまま寝ていることが原因で「床ずれ」を起こします。
床ずれとは、体の同じ場所に体重や摩擦がかかり続けると血流が悪くなり、皮膚の組織が壊死してしまう状態のことです。
床ずれは一度できてしまうと治るのに時間がかかり、再発もしやすくなります。犬自身も痒みや痛みを感じますし、飼い主も傷の処置や治療費が負担となってしまうでしょう。
床ずれを起こさないためには、犬に定期的に寝返りをさせることが大切です。こまめに体勢を変えてあげれば皮膚に圧力がかかりすぎずに済みます。特に腰やほっぺた、足首など骨ばっている部分は床ずれになりやすいので、気をつけてください。
また、犬の体に負担がかからない寝床を作ることも重要な予防ポイントです。できるだけ体重が分散されるマットを使用し、摩擦が起きないように柔らかくて通気性の良い素材を選んであげましょう。
トイレ(排尿・排泄)の介護
若いころはトイレのしつけが完璧にできていた犬でも、老犬になるとトイレの失敗をしてしまうことが多くなります。
トイレの失敗が多い場合は、トイレの場所を増やす、タイミングを見計らってトイレに連れていくなどして対処してください。
ここで重要なのが、犬がトイレを失敗しても絶対に叱らないことです。叱られてしまうと、犬は排泄すること自体がダメなことだと勘違いしてしまいます。犬自身も失敗してしまうことに戸惑っていることが多いので、優しく声をかけて見守りましょう。
犬は体の衰えや認知症が進むと、自分では全くトイレで排泄ができなくなるケースも少なくありません。寝たきりの犬であれば、寝床に横たわったまま排泄をしてしまうでしょう。
こういったワンちゃんはおむつが必須になりますし、筋力が落ちて排泄が自力でできないワンちゃんには飼い主がマッサージして排泄を促す必要もあります。排泄物はできるだけ早く処理し、犬の体や寝床を清潔に保つことも大切です。
老犬はトイレを何度も失敗する、トイレ以外の場所を汚すなどするため、飼い主さんはケアが大変かもしれませんが根気よく介護してあげましょう。
犬のお尻周りの毛を短くしておいたり、ペットシーツを犬の生活スペースに敷き詰めるなどしておけば処理も楽になりますよ。少しでも負担が少なくなるように工夫してくださいね。
歩行の補助足腰の補助
老犬の中には足腰の筋肉が衰えてしまい、自力で歩くことが難しくなる子もいます。特に大型犬は足腰が弱ると自分の体重を支えきれなくなることが多いです。
しっかり歩けなくても、「部屋の中を歩きたい、お散歩に行きたい」という気持ちがあるワンちゃんには歩行の補助や足腰の補助の介護が必要となります。
最近では、老犬の補助をするためのハーネスなど介護グッズが増えてきているので、上手く利用すると良いでしょう。グッズを使って飼い主さんが支えれば、足腰が弱った老犬でも散歩することが可能になります。
体が大きいワンちゃんだと飼い主さんにとってはかなりの重労働になってしまいますが、散歩や体を動かすことは犬にとってストレスの発散や脳への良い刺激となります。
お家の周りを歩くだけでも構いませんので、できるだけ補助をして一緒にお散歩してあげると良いでしょう。
お風呂の介護
老犬もお風呂に入れて体を清潔に保つ必要があります。
「体力が落ちている老犬をお風呂に入れても大丈夫なの?」と心配になるかもしれませんが、老犬をお風呂に入れることは血流の促進や毛のもつれの除去、皮膚の状態の確認ができるなどメリットも多いんですよ。
もちろん老犬をお風呂に入れる時には、体に負担をかけないように細心の注意を払う必要があります。
お湯の温度はぬるめに設定する、洗う時に無理に立たせようとしないなど、できるだけ手早く洗って乾かすことを意識しましょう。日頃から顔や口周り、お尻などの汚れやすい部分はこまめにお手入れしておくと時短ができます。
また、犬の体調が優れない時には無理をせずお風呂に入れないことも大切です。お風呂に入れるのは犬が元気になってからにしましょう。
どうしても汚れや臭いが気になる場合は、ドライシャンプーを使用したりホットタオルで体を拭いてあげたりする方法もあります。
老犬をお風呂に入れるかどうか悩む場合は、まず獣医に相談してみてください。特に心臓病がある犬は必ず相談してからお風呂に入れるようにしてくださいね。
老犬介護用のグッズを活用しよう
老犬の介護をすることは、飼い主にとってかなり大変なことです。どれだけ愛犬を可愛がっていても、毎日付きっきりでケアをしていれば辛さを感じることもあると思います。
できるだけ飼い主の負担を軽減するためには、老犬介護用のグッズをうまく活用するのがおすすめです。
最近では、犬の高齢化に伴って老犬介護用のグッズが数多く販売されています。老犬を介護している飼い主の声を元に作られたグッズもあり、利用するかしないかで負担は大きく変わるはずです。
老犬もグッズを使ってもらうことで快適に過ごすことができるでしょう。老犬介護用のグッズにはどんなものがあるのかご紹介し、それぞれ詳細ページをリンクしていますので参考にしてくださいね。
食事の介助グッズ
まずは老犬の食事を介助するグッズをご紹介します。
老犬の口へ食事を運ぶ時には、犬の口を傷つけないシリコン製のソフトスプーンやシリンジ、はちみつの空き容器などが便利です。人間が使うお箸やスプーンは犬が怪我をする危険性があるため使用は控えてください。
「フードボウルからご飯は食べられるけど、首を下へ下げるのが辛い」というワンちゃんには、フードボウル用の台を使ったり、飼い主さんが持ってサポートできるように取っ手のついたフードボウルを使ってみましょう。
また、お薬やフードをすり潰すための「すり鉢」や「すりこ木」もあると便利ですよ。手作り食を与えたい時にはミキサーもあると良いでしょう。
ご飯は消化が良く栄養価が高いものを準備してください。缶詰のウエットフードや犬用ミルク。最初から流動食になっているフードも販売されています。
犬によって必要な栄養や控えたほうが良い成分がありますので、ご飯の内容に関しては獣医に相談してから与えるのが安心でしょう。
床ずれを防止するグッズ
寝たきりの老犬には、床ずれを防止するグッズを使いましょう。床ずれは一度できると再発しやすいので予防がとても大切です。
予防するためには床ずれをしにくい寝床作りが必要不可欠となります。犬の介護用として、低反発のマットやベッドが数多く商品化されていますので利用しましょう。
大型犬だと体がマットからはみ出てしまう可能性がありますので、愛犬に合ったサイズのものを選んでください。
多くの場合、老犬の介護用マットは防水加工がされているので、汚れてもサッと拭くだけでお手入れがしやすくなっていますよ。
犬の腰やほっぺたなど、床ずれしやすい骨ばった部分には「ドーナツ型クッション」を使うのがおすすめです。寝床と犬の体が直接触れなくなるので、かなり負担を軽減できます。
足と足の間に挟むケアパッドやクッションも使うのも良いでしょう。うまく組み合わせて、犬の体を守ってあげてください。
歩行の補助グッズ
足腰が弱くなり歩くのが難しくなった老犬には、歩行の補助グッズがおすすめです。中でも「介護用ハーネス」は犬を支えながらお散歩ができるため人気となっています。
小型犬用~大型犬用まで多くのサイズが用意されていますし、腰の部分だけを支えるタイプや体全体を支えるものなど、愛犬に合ったものを選ぶことができるでしょう。
また、後ろ足が麻痺するなどして動かしづらくなってしまったワンちゃんには車椅子という選択肢もあります。犬用の車椅子は利用するハードルが高いように感じますが、種類や価格もさまざまなので気になっている飼い主さんは一度調べてみてください。
車椅子はサイズに違和感があると犬が嫌がってしまうことが多く、既製品よりもオーダーメイドのほうが犬が慣れやすいようですよ。
歩行の補助グッズを使えば、足腰が弱くなった愛犬でも散歩に連れて行くことができます。散歩が好きなワンちゃんだけでなく、筋肉を維持するためにも老犬は積極的に外へ連れ出してあげると良いでしょう。
排尿・排泄の介助グッズ
老犬の介護の中で最も大変なのは、排尿や排泄のケアではないでしょうか。もちろん高齢になってからもトイレに自分で行って用を足す犬も多いです。
しかし、トイレ以外の場所で排尿・排泄してしまう犬や寝たきりで横になったままトイレをしてしまう犬もいるため、処理をする飼い主さんは大変な思いをすると思います。
そんな時は犬の排尿・排泄の介助グッズを使いましょう。代表的なグッズは犬用おむつです。寝たきりの犬はもちろん、トイレの失敗が増えた犬もおむつを付けていれば排泄物の処理がとても楽になります。
つけっぱなしにすると犬の陰部やお尻がかぶれて皮膚炎を起こしてしまうので、交換はマメに行うようにしてください。
「トイレまでは歩いていけるけど、シートからはみ出したり失敗が多くなった」という場合は、おしっこシートの周りに防水シートを敷くのも良いでしょう。失敗しても処理がしやすいですよ。
汚れた犬のお尻を拭くためにノンアルコールのウエットティッシュも準備しておきましょう。排泄物や汚れたおしっこシートを入れるための防臭袋やゴミ箱もあると臭いのストレスが軽減できますよ。
老犬の排尿・排泄の介助グッズは種類が豊富に販売されているので、お悩みに合ったものを探してみてくださいね。
お風呂の介助グッズ
老犬をお風呂に入れる時は、足元が滑らないようにする滑り止めシートや低刺激のシャンプーが大活躍します。できるだけ早く乾かしてあげるために、吸水性の高いタオルも用意しておきましょう。
犬の体調が優れない時はお風呂に入れる必要はありませんが、臭いがどうしても気になる場合はドライシャンプーやシートタイプのシャンプーを使うのがおすすめです。これらも成分が優しいものを選ぶようにしてください。
排泄物がついてしまいお尻だけ洗いたいという場合には、ドレッシング用の容器などに水を入れ、ペットシーツにお尻を乗せて洗う方法もあります。
老犬はお風呂に入るだけでもかなり体力を消耗するので、便利な介助グッズを使って手早く済ませるようにしましょう。
老化による問題行動にも対処が必要
高齢になった犬に関して問題になるのは体の衰えだけではありません。犬も人間と同じように高齢になると認知機能が落ちてしまい、様々な問題行動を起こすようになることがあります。
動物医療はかなり進歩していますが、犬の老化による問題行動を改善する画期的な治療法は確立されていないのが現状です。対症療法を行ったり、環境を整えるなどの方法で対応するしかないのです。
ここからは老犬に問題行動が起こった時にどう対応すればいいのか、ご紹介しましょう。
「認知症・痴呆」の対応
犬も人間と同じく、高齢になると認知症(痴呆)の症状が見られることがあります。
脳が萎縮することや特定のタンパク質が原因だともいわれていますが、詳しい原因は不明です。日本犬に症状が見られることが多いため、遺伝的な要素があるのではないかともいわれています。
認知症になった犬には主に次のような行動が見られます。
- 無反応になる
- 攻撃的になる
- ボーっとする
- 人やご飯を認識できない
- 粗相をする
愛犬が認知症になってしまったら、少しでも快適に過ごせるように環境を整えることがとても大切です。トイレを広げてあげたり、転んで頭や目をぶつけないようにマットやクッションをひいたり、障害物を片づけるなどして対応しましょう。
そしてたくさん話しかけ、スキンシップを取るようにしてください。脳へ刺激を与えることは認知症の進行を遅らせる効果があります。
「夜鳴き・徘徊・昼夜逆転」の対応
犬が認知症になると、前述した行動以外に次のような症状も見られます。
- 夜鳴き
- 徘徊
- 昼夜逆転
中でも飼い主さんを悩ませるのが夜鳴きの症状です。若い時は無駄吠えをしない犬であっても、認知症がでると夜になると遠吠えのように鳴くことがあります。近所迷惑になることもあるため、飼い主は適切な対応をしなくてはいけません。
夜鳴きの原因は詳しくはわかっていませんが、体の痛みや不安感、寂しさが原因の場合もあるようです。
夜鳴きが始まったら、飼い主は犬に声をかけて優しく撫でてあげてください。マッサージをしてあげるのも良いでしょう。寝床の場所を窓から遠ざけたり、防音シートを使うのも一定の効果があります。
また、夜鳴きの対応で最も推奨されるのが、昼間に運動をさせて犬を疲れさせることです。寝てしまえば夜鳴きをする心配はありません。これは昼夜逆転の対応としても適しています。
それでも夜鳴きが治らない、近所から苦情がくる場合は獣医に相談してみましょう。投薬などで対応してもらえるかもしれません。吠えるからといって決して犬を叱ったりはしないでくださいね。
夜鳴きの他には徘徊も犬の認知症では問題になることが多い症状です。特に徘徊して狭い場所に入り込み抜け出せなくなる犬が多いようですよ。
徘徊の症状には、円形のサークルや子供用のプールを利用すると、犬が角にはまり込むことなく、気が済むまで歩くことができます。やってみてくださいね。
まとめ
老犬介護の基本について、ケア方法から介助に役立つ用品まで解説しました。犬の寿命が伸びていることは嬉しいことですが、それと同時に介護が必要な犬も増えてくるでしょう。
犬の介護は生易しいものではありません。毎日のように付きっきりで介護していれば精神的にも身体的にもストレスが溜まってしまうのは当然です。
飼い主さんも決して一人で悩みを抱え込まず、できるだけ負担が軽くなるように介護グッズなどを使って工夫しましょう。
最近は便利な介護グッズが増えてきているので、愛犬の状況に合ったものがないか探してみてくださいね。場合によっては老犬ホームを利用することを考えるのも一つの手段です。
どんなに老いても愛犬が可愛いという気持ちは変わらないですし、面倒を見てあげたいと思うのが親心。犬も飼い主も快適な介護生活が送れるように、ぜひこの記事を参考にしてくださいね。