犬の歯石取りに使うスケーラーとは
犬の口腔内は弱アルカリ性で、口腔内が酸性である人と違って虫歯は出来にくいと言われています。ですが、歯石が蓄積した場合はどのような影響があるのでしょう?
自分で歯磨きをするという習慣がない犬では、飼い主さんが歯磨きをしてあげないと歯石は必ず溜まります。歯石が蓄積することは、単なる虫歯よりも恐ろしい歯周病になってしまうリスクを高めることであり、注意が必要なのです。
になってしまう口を無理やり押さえて歯磨きをしようとすれば、噛まれてしまったり、口を触られることすら嫌にさせてしまう危険性もあります。犬の歯磨きの必要性は分かっていてもうまく歯磨きをさせてもらえなかったり、忙しくてたまにしか歯磨きができなかったりして、愛犬の歯には歯石がたくさんついてしまっている飼い主さんもいらっしゃるでしょう。そして、歯磨きができなかった代わりに歯石取りをしようと思う方もたくさんいらっしゃると思います。また、ペット用の歯石取りグッズが市販されていますので、自宅で歯石取りをやってみようと思われる方もいらっしゃるでしょう。
そこで今回は、犬の歯石取りに使われるスケーラーという道具について、使い方や使用する場合の注意点、もしも歯石が付いてしまった場合の対処法などをご紹介したいと思います。
ハンドスケーラー
刃の部分がステンレス鋼製で出来ており、刃の先端が鎌のようにカーブしていて、歯石を削って除去するために使います。人の歯科医院や動物病でも一般的に使われています。
「ハンド」という文字通り『手動』で歯石を削っていきます。歯の見えている部分(歯肉縁上)にも歯茎で隠れていて見えていない部分(歯肉縁下)にも使います。
超音波スケーラー
こちらは『超音波』によってスケーラーの先端を細かく振動させて歯石を除去する道具で、こちらも人の歯科医院でも動物病院でも一般的に使われています。パワーがあり、大量についた歯石も除去することが可能です。ハンドスケーラーと違い、超音波スケーラーは主に歯肉縁上に使われます。
ただしこちらは、一般家庭で購入して使用することは一般的ではないと思われます。
エアースケーラー
「エアースケーラー」はエアー(空気圧)によって歯石除去を行う道具です。
超音波スケーラーの振動が毎秒25,000〜40,000回に対し、エアースケーラーは毎秒2,000〜6,500回振動します。振動数の違いから歯石除去能力は超音波スケーラーより劣りますが、スケーラーのチップ(先端)での発熱が少ないことなどによるメリットもあります。しかし、人と違い麻酔をかけてスケーリングすることが一般的な動物病院ではあまり一般的ではないようです。
犬用歯石取りスケーラーの使い方
ハンドスケーラーには様々な形状のものがありますが、主にシックルタイプとキュレットタイプに分けられます。どちらも様々な長さや角度のものがあります。
シックル(鎌状)タイプスケーラー
シックルスケーラーは、歯肉縁上についている歯石の除去に用います。鉛筆を持つ要領で持ち、指や手首を動かして使います。
使用する部位や歯石のつき方によって適切なスケーラーを選び、歯に付着した歯石を除去していきます。
キュレット(鋭匙型)スケーラー
キュレットスケーラーは、主に歯肉縁下の歯石除去やルートプレーニングに用いられるスケーラーです。
ちなみに、ルートプレーニングとは、スケーリング終了後に歯周ポケット内の歯垢や歯石を除去したり歯根表面の汚染軟化したセメント質を除去し、歯根の表面を硬く滑らかに仕上げることを言います。
人のセルフケア用品としても様々なハンドスケーラーが販売されていますし、ペット用品として平型や先細タイプのハンドスケーラーも販売されています。
超音波スケーラー
超音波スケーラーとは、超音波によって先端(チップ)に毎秒25,000~40,000回の微振動を起こし、その振動によって歯石除去を行うスケーラーです。周波数が高いために使用時には発熱し、それを冷やすための水を噴射しながら使います。動物の場合、その冷却水が誤って喉に入ってしまわないように細心の注意を払って使われます。
自宅でスケーラーを使った歯石取りがおすすめできない理由
さて、ここまでスケーラーについて種類や使い方をご紹介してきましたし、ハンドスケーラーはネット通販やホームセンターでも販売されています。しかし、飼い主さんがハンドスケーラーを購入してご自宅で歯石取りを行うことは、一般的にはあまりおすすめできません。その理由をここでご紹介します。
愛犬の協力が必要
ご自身でハンドスケーラーを使用しての犬の歯石取りをすすめしない理由の1つ目に、わんちゃんの協力が必要不可欠という点が挙げられます。やはり、口腔ケアには犬がじっとしている事が大前提になってきますので、人と違って歯石を取る間犬が顔を動かさないでいることには無理があります。犬が嫌がったり飽きたりして動いてしまった場合、先端が鋭利な金属であるスケーラーが顔や口の中に刺さって思わぬけがをさせてしまう危険性があります。また、飼い主さんによるスケーリングで痛い思いをしたことがある犬は、次からスケーリングをやらせようとしなくなる可能性がありますし、口元や顔周りを触らせることすら拒否するようになることもあり、そうなると日常生活にも悪影響を及ぼすでしょう。
また、もし自宅でのスケーリングを行わせてくれる犬だとしても、人では2週間かけて歯石になるところ、わんちゃんでは3〜5日で歯石になってしまうので、歯石をためないためにはかなり頻繁にスケーリングを行うことになるでしょう。でしたら、歯石ができてからのスケーリングではなくて毎日の歯磨きで歯垢や食べかすを除去してあげた方が良いでしょう。
ハンドスケーラーの扱い方が難しい
ご自身での犬の歯石除去をおすすめしない理由の2つ目には、スケーラーの扱い方の難しさが挙げられます。前述でもお伝えしましたが、スケーラーには歯肉縁上に使うものと歯肉縁下に使うもので種類(形)が異なります。しかし一般的に売られているスケーラーの種類は少なく、自宅でのスケーリングだけで歯石を除去しきることは難しいでしょう。
またスケーラーは、先端が尖っていり刃物でもあるため、誤って口内を切ったり歯茎や舌に刺してしまわないようにするのはかなり難しいものです。きちんと歯石を取り切るのが難しく、さらに安全に使うのも難しいので、自宅でのスケーリングはおすすめできません。
歯へのダメージが大きい
ご自身の犬の歯石除去をおすすめしない理由の3つ目は、歯に対するダメージになります。専門知識を持たずスケーリングのトレーニングを受けていない飼い主さんがハンドスケーラーでスケーリングをすると、歯を傷つけてしまうでしょう。歯の表面に肉眼では確認できない傷がつきますが、スケーリング後に研磨剤を用いて歯を磨くこと(ポリッシング)によってその傷をなくします。家庭ではそれができません。
歯に傷がつくと、垢(プラーク)がより付着しやすくなり、歯や歯茎、口腔内のコンディションをより悪化させることになります。基本的にスケーリング後にポリッシングを行えないご自宅でのスケーリングには、デメリットが伴うものになるのでおすすめ出来ません。
中にはハンドスケーラーなどは使わずにご自身の爪でわんちゃんの歯石を取る人もおられると思います。確かに爪は適度に力が加わり、歯面を削るのに優しい材質で歯を傷つけないという意味では良いかもしれません。また、爪で削ると取れてしまうような歯石があるのでしたら、取らないより取った方が良いかもしれません。しかし次に説明するように、どんな方法であれ目に見える歯石だけを取り除いていても、歯周病の予防や治療にはなりません
自宅では歯肉縁下の歯石除去は不可能
愛犬の歯についている歯石を自宅で取って、歯の見える部分がきれいになると飼い主さんとしてはほっとするかもしれません。しかし、歯の見えない部分(歯肉縁下)に溜まっている歯石や歯垢を除去しなければ、歯周病になるのです。これは、自宅で歯石取りをしている場合だけではなく無麻酔でのスケーリングだけを行っている場合にも当てはまります。
歯肉縁下のスケーリングには痛みを伴いますので、犬で行うためには麻酔が不可欠となります。
このように、歯磨きが充分にできない代わりに、ついてしまった見える部分の歯石を自宅でハンドスケーラーで除去することにはいくつものデメリットがあり、おすすめできません。
犬に歯石がついた時の対処法と予防法
動物病院での歯石除去
歯石がひどい場合にはやはり動物病院に行って一度診てもらうことをおすすめします。
最近では、多くの動物病院で超音波スケーラーを備え、麻酔下でのスケーリングを行うことができます。とはいえ、歯科が得意な動物病院もありますし、あまり専門的に歯科治療を行っていない動物病院もありますので、歯周病の進み具合によっては歯科治療を専門的に行っている動物病院にかかった方が良い場合もあるでしょう。また、自宅で歯磨きをしなければ定期的に麻酔下でのスケーリングが必要になりますし、歯周病となりそこから様々な健康への悪影響が生じる可能性もあります。可能であるならできるだけ普段から歯磨きを行うようにしましょう。
様々な事情で麻酔下でのスケーリングをお願いできない場合や、自宅で歯磨きが充分にできない場合、また歯磨きをしているけれどもさらに歯周病予防を行いたい場合は、以下のようなグッズを利用することができます。歯周病や歯石がつくことを完全に予防することはできませんが、何もしないよりは歯周病の進行を遅らせたり、歯磨きに加えてこのようなグッズを利用すればさらに歯周病予防効果が高まるでしょう。
歯石ケアスプレー
歯石除去や歯周病予防に効果があるとしているスプレー製品が販売されています。例えば、プロアントシアニジンというポリフェノールの一種はポリフェノールの王様と言われるほどの抗酸化力を持っていて、歯周病菌による炎症や歯垢の生成を抑制する働きがあるそうで、プロアントシアニジンが含まれているペット用のスプレーも販売されています。
歯磨きペースト(歯磨き粉)
ペット用の歯磨きペーストを使用して歯磨きができれば理想的ですが、歯磨きが出来ない場合には、嗜好性の高い歯磨きペーストを舐めさせるだけでも、歯垢と歯石の蓄積、歯周病の進行を遅らせる効果がある程度期待できるでしょう。また、水のみで歯磨きをしている場合には愛犬が喜ぶ味のする歯磨きペーストを使っての歯磨きに変えることもおすすめです。
液体歯磨き
飲み水に混ぜるタイプのペット用液体歯磨きもあります。歯磨きができない場合には、使わないよりは歯周病が悪化するのを少しでも遅らせることができるかもしれません。歯磨きがしっかりできている場合でも補助的に利用すると、より歯磨きの効果が高まるでしょう。
デンタルケア用品としてのおやつやおもちゃ
デンタルケア効果があるとうたっているおやつやおもちゃもあります。様々な製品があり、どの程度効果があるのかも様々だと思われますが、補助的に利用してみるのも良いでしょう。
まとめ
犬の歯石を放置すると、歯周病になってしまう非常に高い確率で歯周病になってしまいます。歯周病は、口腔内のトラブルだけではなく、鼻や顎全体、また全身に様々な合併症を引き起こす可能性がある放っておけない病気です。
歯磨きを嫌がる子や口元を触られるのが苦手な子などには歯磨きは難しいことかもしれませんが、できるだけ歯垢(プラーク)が歯石になる前に、歯石除去に効果的な歯磨き以外にも、スプレーやジェル、歯みがきガムや歯磨きシートなどを使って、日頃から自宅でのケアをできるだけ行うようにしてあげてください。
歯磨きができないからと、できてしまった歯石、目に見える歯石だけを飼い主さんがハンドスケーラーで除去することは、歯周病の予防にはなりませんし、様々な危険が伴いますので、おすすめできません。
ご自身でのケアが難しい時や、万が一歯石の影響で口臭や歯肉の腫れ、歯のグラつきなどが生じてしまっている場合には、獣医さんを受診してくださいね。