食欲は犬の体調のバロメーター!体重と食欲の増減が比例しない時の危険【獣医師監修】

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記事の監修

  • 獣医師
  • 平松育子
  • (AEAJ認定アロマテラピーインストラクター・ペットライター )

獣医師・AEAJ認定アロマテラピーインストラクター・ペットライター
山口大学農学部獣医学科(現:共同獣医学部)卒業。2006年3月~2023年3月 有限会社ふくふく動物病院 取締役・院長。ジェネラリストですが、得意分野は皮膚疾患です。
獣医師歴26年(2023年4月現在)の経験を活かし、ペットの病気やペットと楽しむアロマに関する情報をお届けします。

愛犬がご飯を食べてくれない時、多くの飼い主さんは「何か病気ではないのか?」と心配になります。元気にご飯を食べているから大丈夫。食欲が落ちてきたから体調不良というように、愛犬の食欲は体調のバロメーターとして捉えられています。今回は、犬の体重の増減と食欲の増減が比例しない時の危険性について、詳しくご紹介したいと思います。

犬の食欲低下の原因と体調について

まずは犬の食欲が低下してきたときの原因と体調についてです。食欲の低下には、見て分かる他の症状が併発しているケースと、食欲の低下以外に特に他の症状はないケースがあります。

食欲低下の他に症状はないかのチェックポイント

食欲の低下と一緒に下記の症状がないかを確認しましょう。症状が分かりづらいため、注意深く観察してください。

うずくまって動かない、もしくは体が小刻みに震える

  • 【疑われる病気や原因】
  • 怪我をしている。体のどこかに痛みがある、熱が出ているなど。

急激に体温が下がる

  • 【疑われる病気や原因】
  • 低血糖、尿毒症、心不全、腎不全、多臓器不全など

意識がハッキリせず、呼びかけなどに反応がない

  • 【疑われる病気や原因】
  • 多臓器不全、感染症、尿毒症、肺水腫、脳の異常など

背中の皮膚を持ち上げてもすぐ元に戻らない

  • 【疑われる病気や原因】
  • 脱水、腎機能低下、尿毒症、熱中症など

吐き気、嘔吐、嗚咽がある

  • 【疑われる病気や原因】
  • 胃腸疾患、腸閉塞、感染症、胃捻転、腸捻転など

血便、血尿がみられる

  • 【疑われる病気や原因】
  • 感染症、炎症、胃腸疾患、癌など

食欲の低下だけでなく様々な症状が現れている場合、自宅で様子をみるという選択より、まず動物病院で診察をうけ、検査をして原因の特定をしましょう。食欲の低下に見られるのは以下の三段階があります。

1、あまり嬉しそうではなくご飯を残す。飼い主さんが声をかけてやっと完食する。好きな物だけは食べるが、一口、二口で残す。

2、食べ物の匂いを嗅ぐが、自分から食べようとしない。好きな物も食べない。鼻先に食べ物を持っていくと、舌で鼻を舐めるしぐさをするが食べない。

3、食べ物に全く反応しない。何をしても食べようともしない。また、食べ物の匂いを嗅ぐと口をパクパクさせることもあります。

上記1の場合、多くの飼い主さんは、愛犬の【わがまま】や【飽き】だと判断し、試行錯誤して何とか食べさせようとしたりします。消化の良いお粥や、缶詰やペーストなどの食事を与えて自宅で様子をみるという飼い主さんがほとんどです。

その他の症状も特になく病気なのか、ただ食欲がなく、遊び疲れや気分の問題だと捉えてしまいますが、様子をみているうちに、気が付いたら痩せていることや、明らかな症状が出始めてから、動物病院へ駆け込んできたりするケースがとても多くあります。

その他に症状がない場合でも、整腸剤や胃薬など人間用の常備薬を与えるのではなく、重症になる前に適切な検査を受けさせてあげましょう。

食べ物に全く反応を見せないときに犬が口をパクパクしたり、舌をペロペロしたりしているのは、気持ち悪さが影響していることがあります。目立った症状ではありませんが、気持ち悪さを訴えていますので、「ワガママなどで食事を食べないケース」ではないのです。

天候による食欲低下と身体異常による食欲低下の違い

酷暑や急な気温の変化、台風など犬も天候によって食欲や元気が左右されます。特に酷暑では、胃腸症状や食欲の低下で受診する患者さんがとても多くいました。病気やケガではなく、天候による一時的な食欲低下の場合は、ご飯を食べないだけでその他の症状が何もない、というのがほとんどです。

またお散歩や遊びはいつも通りで、ただご飯を食べないだけというケースが多いようです。このような場合には、人間に合わせた空調で体を冷やしすぎずに、半日~1日程度、ご飯を食べなくても様子をみてあげましょう。

この場合、水分補給は十分にできるようにこまめに水を取り替え、高栄養のチュールや栄養補給ドリンク(犬用)を飲ませたり、脱水には十分注意して自ら食べるのを待ちます。体重が3kg以上で1歳以上7歳未満の犬であれば、半日~1日程度の絶食をしても、その後、食欲が回復すれば体への影響はほとんどありません。(※治療中の疾患がなく健康な状態の犬に限ります)

固形物を食べずに水分が多いと軟便、または下痢をしますが、この場合、胃腸症状からの軟便や下痢ではないので、食欲が戻れば通常のご飯をたべさせてあげて大丈夫です。

※上記は様々な原因から食事拒否や下痢をすることがありますが、1日以上の絶食は体への負担がありますので、元気にしていたとしても受診が必要です。

食べても太らない・痩せるのは危険信号!

犬が元気にご飯を食べていると健康だと感じます。犬の体質にも個体差があり、たくさん食べているのに、やせ型の犬もいます。また安価な低品質フードを与えていると、食べている量は多く糞量も多いのに、なかなか太らないというケースもあります。

犬の体型や栄養状態は、BCS(ボディコンディションスコア)では大きく5つに分けて判断します。

1.痩せすぎ、飢餓状態

肋骨、背骨が浮き上がり目で見て明らかに被毛越しに骨の形が見える。ウエストが極端にくびれて腰骨、お尻の骨が出っ張っている。眼球の周りがくぼんで見える。

2.痩せ気味

肋骨の位置がうっすら目で見て確認できる。背中を撫でるとすぐに背骨が触れる。ウエストは肋骨から極端にくびれている。毛量が多い犬種では気が付きにくい。

3.適正体格

横から見たときに体のラインが、前脚のつけ根から後ろ足のつけ根に向かって緩やかに上がっている。全身を手で撫でると、皮膚、脂肪の下に骨が触れる。立っている状態で真上から見ると、肩から肋骨ウエストまでが丸みを帯びてくびれていく。

4.ややぽっちゃり

横から見たときに、体のラインが前脚のつけ根から後ろ足のつけ根に向かって上がっていない。腹部がまるく膨らんでいるのが分かり、全体的に体のラインが丸い。立っている状態で真上からみるとくびれはなく、方からお尻まで一直線かほんの少しだけくびれて見える。

5.太っている

全身を撫でると肋骨や背骨が触れない。明らかに皮下に脂肪がありたるんでいるか、固い脂肪におおわれて骨が触れない。真横、真上から見ても全体的に四角く見える。前脚、後ろ脚が、体に比べて短く感じる。

さらに肥満度が進んでいくと本来の体型が大きく変形していきます。愛犬の体にあった給与量のご飯を与えているのに、適正体格を外れてしまうのは、食事の内容と量が愛犬に合っていないためです。

判断をするためには、まずは愛犬の骨格や体質、便の量、運動量、性格などから、愛犬に合う食事量を把握しましょう。

正しい食事を与えているのに太ってしまう

愛犬が毎日、適量の食事を食べていて、適度な運動もしているのになぜか太ってしまうとき、【食べているから大丈夫】と安心してしまうのは危険です。正しい食生活と運動で体型を維持できないときには、まず内臓の状態を把握する必要があります。

フードの栄養バランスが悪かったり、体内で何らかの影響で代謝が落ちていたりするケースや、ホルモンバランスが崩れている、病気の影響による浮腫みのケースもあります。加齢による代謝の低下であれば、食事内容の見直しで改善できることも多くあります。

正しい食事を与えているのに痩せてしまう

犬を太らせてはいけない、と思っている飼い主さんがとても多く、少しくらい痩せている【犬はちょうどよい】と「ご飯を食べていて痩せているのだから、これがこの子の適正体重なんだろう」と捉えています。

しかし正しい給与量と適切な運動量があるにもかかわらず、痩せていくのは危険信号です。体重が落ちて、見た目にも明らかに痩せていくのが分かる、というのは正常な状態ではありません。

元気にしている、しっかり食べているから安心、というのはとても危険で、病気の兆候を見逃しています。太っていくより食べているのに痩せてしまう方が。発見できていない慢性疾患による影響が強く疑われます。その時はすぐにでも検査をうけ、全身状態の把握が必要です。

犬が健康なら体重や体格は大きく変動しない!

犬は1歳を過ぎると、平均寿命の半分までが維持期といわれる成犬期です。平均寿命が14歳~15歳という最新のデータからみると、平均寿命の半分を越えるとシニア期に入りますで、成犬期と呼ばれる維持は7歳くらいまでとなります。健康であればこの期間は体重や体格の大きな変動はありません。

夏場はお散歩の時間が短くなり、暑さで食欲の低下、給水量の増量など体重が少し落ちてしまうことがあります。これらは病気の影響というより、犬にとっての規則正しい生活が乱れる、気温や湿度による影響です。1年を通して多少の体重の変化があったとしても、体重測定をして初めて増減に気が付く程度で、見た目には気が付かない範囲内で体重変動はおさまります。

また小型中型犬であれば1歳、大型犬で2歳~3歳、超大型犬は3歳くらいで体格、骨格の成長が終わり、体型が固定されます。健康診断などで異常がなく、成長期に十分な栄養を与えて育ち、自然と固定されるのが、その個体にとっての適正体重・適正体格です。

ほっそり体型や筋肉質、犬種による特徴的な体型などがありますが、健康診断で異常がなければ個体差はあっても良いのです。問題なのは、一度固定された体格や体重が大きく変動することです。

人間でも細身の体型の人が肉体改造などで筋肉をつけますが、健康な状態であれば、犬の体質改善や肉体改造で、さらに良い体の状態へ保つこともできます。犬にとって筋肉や強い骨は、体を支えるためにとても重要で、より強く育てることは健康管理として、とても良いと思います。

ですが犬にとって、脂肪もとても重要な役割があることを忘れずに、健康管理をしてあげてほしいと思います。太り過ぎは良くありません。体への負担が大きくなります。

しかし適正体重~少しぽっちゃりの間。つまり健康な状態で少し太っているくらいの方が、犬は健康で、万が一、病気になったときにも、減量を必要とする病気でなければ脂肪はエネルギーとなり、病気と闘うときや日常に起こりうる体調不良のときに絶対に必要となります。

犬を健康に育てるには体格を一定に保つ!

犬の生涯、健康を守るためには体重、体格の変動をさせずに育てることが大切です。子犬の頃から犬を育てるのであれば、子犬の頃に十分に栄養を与えて育て、成犬期に向けて適度な運動で筋肉を育て、維持期からはあまり大きな変動を繰り返させないことが、健康で長生きさせる秘訣でもあります。

犬は規則正しい生活リズムを自ら崩すことがありません。決まった食事量(エネルギー量)が一定で、運動量も一定であれば、大きな体重の変動や体格の変形はなく、安定して体を維持していけるのです。

食べているから大丈夫という判断基準ではなく、愛犬の体型を日頃から気にかけて体型維持をしてあげましょう。

急激な体重の変動は要注意!

健康時の体重が3kg未満の犬(成犬)であれば、3日~1週間でご飯をいつも通り食べているのに、通常体重の20%以上体重が減っているときには、検査をおすすめします。

元気もあるし食欲もあるから、少し様子を見てみようという場合でも、長くても1か月の間に通常体重に戻らない、食欲は変わらずしっかり食べているという様子でも、一度、検査をすることをお勧めします。

検査をした方がよい体重減少 【健康体重別】

犬の体重減少3日~1週間での体重変動
5kg~10kg未満1kg~1.5kg
10kg~20kg未満1.5kg~4kg
20kg~30kg未満3kg~5kg
30kg~40kg未満5kg~8kg
40kg~50kg未満7kg~10kg

通常体重が少ないほど、体は体重の増減による影響をうけやすいです。ダイエットが必要なときには3か月をかけて、全体重の15%~20%を減量するスケジュールを組むと負担が少なく成功率もあがります。

まとめ

明らかな体調の変化や異変がなくても、日常生活の中で、最も飼い主さんに愛犬からのサインが届くのが【食欲】・【体重】・【体型】です。犬は本能的に、自分の弱い部分を隠そうとします。体調不良や痛みなど、人間では考えられない状態であっても平然を装うときがあります。

食べているのに痩せる、食べないのに太る、短期間での体重の変動、これらは病院で精密検査をして、悪い所を探しあてるよりも、より正確に、愛犬の状態を表してくれる健康バロメーターです。

愛犬の病気が分かったとき、多くの飼い主さんが【そういえば・・・】と振り返ってみると、変化があったことを思い出します。その多くが、食欲や体型の変化です。

早期発見、早期治療ができるかどうかは飼い主さん次第です。少しでも【おや?】ということに気が付いたら、後悔しないためにも愛犬のサインを【大丈夫】とやり過ごさないようにしてあげましょう。

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執筆ライター
犬好きが高じてJKC公認愛犬飼育管理士を取得しました。今は愛犬(バーニーズ2頭【元保護犬】雑種【元野良犬・里親募集中】)と愛猫(保護猫2頭)たちと毎日楽しく暮らし…