犬猫に負担を強いるペット業界の“すし詰め商法”に環境省が数値規制

犬猫に負担を強いるペット業界の“すし詰め商法”に環境省が数値規制

繁殖施設やペットショップで身動きも取れないような狭いケージに詰め込まれた犬や猫。この劣悪な環境を改善すべく環境省が具体的な数値規制を設けるよう動いているという報道がありました。規制の内容とペット業界の問題点を考えてみたいと思います。

ペット業界の劣悪な飼育状態に環境省が数値規制を

ケージの向こうの白いテリアのアップ

犬猫の繁殖業者やペットショップでは、繁殖に使われる動物や展示販売される子犬や子猫は、ケージやケースで飼育されていることが一般的です。
その飼育や展示の施設について、環境省が広さや収容頭数についての具体的な数値規制の検討に乗り出したとの報道がありました。

これは虐待的な飼育をする悪質な業者を排除することが目的ですが、報道されている規制の内容と現状から考えられる問題点などを見ていきたいと思います。

環境省が検討している内容

今年は5年ごとに見直しが検討される『動物愛護法改正の年』です。
前回(2012年)の法改正の時に動物愛護部会が、当時の改正には間に合わなかった、「現状よりも細かい規制の導入が必要」という報告書を提出していました。
環境省はこれを受けて、今回の法改正に向けて飼育施設の具体的な規制の導入に道筋をつける方針とのことですが、それは具体的にはどういったものになるのでしょうか?

パピーミルへの潜入の報道や悪質なペットショップを見たことのある人なら具体的にイメージが湧くかと思いますが、身動きもままならいほど狭いケージに閉じ込められていたり、そんな狭いケージの中に複数の動物をすし詰めにしているような飼育方法は動物虐待であると、今回漸く問題視されることになりました。
業者が飼育や展示をする際のケージやケースの大きさに、具体的な数値基準を設けて規制する方針で、すでに有識者への聞き取り調査を始めており、獣医学の専門家らによる検討委員会を立ち上げる予定だそうです。

他の国の数値規制と日本の現状

ドイツやイギリス、またアメリカの多くの州では、犬や猫を飼育する施設の大きさに具体的な数値規制を設けています。

その中でももっとも厳しい規制はドイツで、体高50cmまでの犬には6平方メートル(4畳弱)体高65cmまでは8平方メートル、体高65cm以上は10平方メートル(約6畳)の広さが必要と定められており、採光や通気性に関しても規定があります。

アメリカは州により規定値に差がありますが(数値規定がない州もある)平均するとイギリスよりはやや厳しめです。

この中では一番規制値が小さいのがイギリスの基準で、生後12周未満の子犬を1〜4匹収容するためのケージは最低1平方メートルの広さで高さは最低90cm。
一匹増えるごとに床面積にして0.25平方メートルずつ最低基準面積が増やされます。

日本では現在数値規制はありません。
ペット業界による独自調査の資料では、2016年の時点で繁殖業者の7割以上がケージで犬を飼育しており、そのうちの約9割が上記のイギリスの基準にも達していません。
広さの問題だけでなく、衛生状態や健康管理に関しても清掃の回数や健康診断の回数などの数値規定はありません。

数値規制の設定にペット業界の反応は?

ケージの中のチワワの横顔

動物を愛する人や人道的な視点から見れば、環境省が導入しようとしている規制は歓迎すべきものですが、繁殖業者などの業界関係者は警戒感を強めています。

数値規制導入に対抗するペット業界

例えばイギリスと同程度の基準を求めるなら、総額17億円以上の設備投資が必要と業界では試算しているそうです。
コストの増加と厳しくなる経営環境に、業界が渋い顔をすることは簡単に予想できます。

2016年2月には、ペット関連の業界団体によって組織された新団体『犬猫適正飼養推進協議会』が設立されましたが、この協議会には繁殖業者だけでなく、製薬会社、ペット保険などの損害保険会社など社会的な影響力の大きい会社も名を連ねています。
取材を行った週刊朝日によると、欧州の基準を下回る日本の業界独自の基準を作ることを目指していると受け取れる資料が作成されていると報道されています。

名前だけで見ると、『犬や猫を正しい環境で飼育するための団体なのかな?』という印象を持ちますが、犬や猫にとって正しい環境ではなく、業界が利益を上げるのに最適な環境を作るための協議会ということでしょうか。
尚、協議会会長への取材は、「明確な話ができる段階ではない。」として断られたそうです。

過去の規制導入の問題点

前回(2012年)の動物愛護法改正の際には、繁殖施設で生まれた子犬や子猫を、生後8週齢までは母親や兄弟から引き離さないための、『8週齢規制』の導入が焦点のひとつでした。

この時もペット業界は反対活動に力を入れて、8週齢規制45日齢規制にすり替えられてしまいました。
また前回の法改正では、子犬や子猫を販売する際には購入者と販売者が実際に対面して、重要事項の説明をした上で取引をすることが義務付けられたはずでしたが、今現在もペットのネット通販は堂々とまかり通っています。
しかも業界が了解したはずの45日齢規制すらも守られておらず、もっと幼い週齢の動物が販売されているのが現状です。

法律を改正しようとすれば業界が足を引っ張り、改正にこぎつけた法律を破っても、それを調査する機関も罰則も十分ではないというのは日本のペット業界が抱えている大きな問題です。

私たちにできることは?

パグの顔のアップ

気の滅入るようなことばかり書いてきましたが、私たちは決して無力なわけではありません。
犬や猫を取り巻く環境を良くするためにできることはたくさんあります。

まずは知ること

ペットショップに流通される動物たちが生まれている、劣悪な環境の繁殖施設と、そこでボロボロになるまで使い捨てられる繁殖犬たち。
まだ離乳も済まないうちから母親から離されて、不自然な環境をたらい回しにされる子犬や子猫。
そういった実態を知らないことにはなにも始まりません。
悲しい現実ですが目をそらさずに知っておきたいことです。

黙っていないで声をあげること

今年は5年に一度の動物愛護法改正の年ですので、環境省から法改正に関する国民の意見を募るパブリックコメントの募集があるかと思います。
この記事で取り上げた数値規制のこと、前回に改正されたのにきちんと実行されていない規制のこと、自分自身の提案などを文章にして伝えましょう。

せっかく向こうから「どうしたら良いと思いますか?」と聞いてくれているのですから、こんな絶好の機会を逃すわけにはいきません。
「自分には難しい」と思われる方も、パブリックコメント募集の折には各動物保護団体などが文案などを公開してくださったりもしますので、肩の力を抜いて参加してみてくださいね。

パブリックコメントの他にも、署名運動や地元議員ヘの相談など個人でできることはいろいろあります。

賢い消費者になること

ペットショップに流通する動物の問題が後を絶たない根本の理由、それは買う人がいるからです。
ペットショップやホームセンターで後先考えずに、『かわいい』という理由だけで子犬や子猫を衝動買いしない。
ペットを迎えるなら、きちんとしたブリーダーから飼育環境や親犬や兄弟犬も見せてもらった上で購入する、または保護団体や愛護センターから迎える。
そういうことを実行する人が増えていけば、時間はかかっても悪質な業者は淘汰されていくはずなのです。

まとめ

環境省がようやく重い腰をあげて、犬や猫の繁殖業者やペットショップの飼育施設に具体的な数値規制を設ける見通しです。
ヨーロッパやアメリカでは数値規制が設定されている例が多いなか、日本にはなかったこの種の規制が検討されるようになったのは喜ばしいことです。

ペット業界からは、すでに対抗するための活動団体が設立され、強い反発が予想されます。
設備投資にコストがかかり経営状態が悪化し、生産性が落ちるという声もあるようですが、子犬や子猫は工業製品ではありません。
いえ、工業製品ですら良い品質のものを作るためには生産の現場を整えることは必須であるはずなのに、ペットの繁殖の現場では多くの場合そんなことは無視されています。

日本の法律が、せっかく良い方向に変わろうとしているこの機会を逃したり無駄にしたりすることがないように、私たちも賢くならなくてはいけません。
そして私たちにもできることはあります。
一人でも多くの人が考え行動してくださることを祈っています。

最後に、動物を取り巻く環境の話になるとたびたび取り上げられるマハトマ・ガンジーの言葉を記しておきます。
"国の偉大さと道徳的発展は、その国における動物の扱い方で判る"
自分の国を恥ずかしくないものにしたい、心からそう思います。

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