ブルドッグに迫る危険とは?
遺伝子の多様性が失われている
この7月、オンラインジャーナル「犬の遺伝と疫学」に、ブルドッグ・ファンにとってショッキングな内容が掲載されました。
ブルドッグの遺伝子を初めて完全に解析した結果、遺伝子プール(多様性)が極めて低いことが明らかになったためです。
研究者が北米、ヨーロッパ、アルゼンチンで暮らす健康な個体と、大学の動物病院に入院するさまざまな疾患を持つ個体、合計139匹からDNAを採取、解析を行ったところ、次のような結果が出ました。
- 健康かつ暮らす地域もバラバラなら各ゲノムの構造にも違いがあるはずと考えられていたが、139匹がほぼ同じゲノムを持っていると判明。
- 健康な犬、疾患を持つ犬の両方に、犬の免疫系を制御するゲノム領域で多様性の欠如が見つかった。
解析結果が示すこと
まず、ブルドッグならではの外見的と疾患がセットになっていること。
人気の理由のひとつであるあの顔をつくりだすために、短頭の個体が選択交配されて頭蓋骨はますます短くなり、その結果、ブルドッグの最大の死因ともなるさまざまな呼吸器疾患や発熱を引き起こすことになりました。
また、つぶれた頭蓋骨のせいで子犬は産道を自力で通ることが困難なため、プルドッグの実に80%が人工授精と帝王切開を必要とすると見られています。
ブルドッグの人気が招いたこと
他の犬種同様、ブルドッグには昔から熱烈なファンがいるうえ、最近は特に人気が高まっていて、アメリカでは3万ドル(300万円)もの金額で取引される子犬もいるのだとか。
そうした人々が求めるブルドッグのイメージが、まさにあの特徴的な容姿であることは言うまでもありません。
もともとブルドッグはたったの68匹から始まったと言われており、限られた選択肢の中で、愛嬌のあるつぶれた顔にどっしりした体形、たるんだ皮膚といった特徴を出すための選択交配が行われており、初めから遺伝的な問題は予測できたはず、という声もあるようです。
ブルドッグ誕生から100年余を経て、遺伝子レベルでの危機が判明した今、人々があの容姿を「正しいブルドッグ」として求める限り、ブルドッグ達に運命づけられた不幸は終らないどころか、さらに死を早める結果になるかもしれません。
外見重視の弊害
人の手が生み出した犬の遺伝病
初期のブルドッグは長い顔とまっすぐな尾を持ち、皮膚のたるみも殆どなく、現在よりもっとスリムな姿形をしています。このほうがずっと犬として活動しやすく健康そうに見えるのに、なぜ健康と引き換えに今の姿になったのでしょうか。歴史を振り返ってみます。
そもそも犬の交配に人が介入するようになったのは、猟犬や番犬の役割を立派にこなす優れた個体を次の世代につなげるためでした。
それが19世紀に入ると、一部の富裕層がステータスシンボルとして犬を飼い始め、様々な犬種の完璧な外見を求め、新たな犬種の作成にも熱を入れ始めました。その過程でケンネルクラブが登場し、ドッグショーが開催されるようになりました。
優れた外見を何世代にもわたって定着させたり、より特徴を強めるため、同じ犬種や近親の交配が行われ、遺伝疾患もそれに付随することになりました。
その後、こうした旧来のブリーディングだけでなく、エスカレートするドッグショーの基準、一般の純血種信仰、メディアが煽る純血種の人気、人気に応じるために短期間に無理な交配を行うブリーダーといった様々な要因が加わった結果、いまや犬の姿形は大きく変化し、遺伝疾患もより高い確率で発現するようになったというわけです。
イギリスの番組「犬たちの悲鳴〜ブリーディングが引き起こす遺伝病」で、これらについて詳しく取り上げていますので、ぜひご覧になってみて下さい。
犬の苦しみをストップさせるために
犬の遺伝病が増えて行った背景には次代の要求もあったわけですが、今後、こうした流れをくいとめるために各々が何をすべきか、資料を参考にしたうえで考えてみました。
ブリーダー
遺伝子疾患を持つ犬を多く生み出している現在の交配を見直し、見た目より健康を重視した交配に努める。
ケネルクラブ
ドッグショーの審査基準を見直すことで、交配の幅が広がる可能性がある
ペット流通
遺伝的健全性に努める優良ブリーダーと手を結び、購入者とブリーダーを結ぶ仲介者としての役割を果たす
メディア
動物のCM等への起用がもたらす影響を深く認識する。犬猫の愛らしさや愛嬌をいたずらにデフォルメして視聴者に偏ったイメージを与えない
購入者
流行りや見た目に左右されない。純血種を飼うことのメリット、デメリットをしっかり理解する。
まとめ
もともと少数のブルドッグから始まった交配。
外見的特徴を出すための選択交配が重ねられた結果、遺伝的多様性が失われ、現在ではかなり危機的な段階に入っていることが研究で明らかになりました。
危機的とまでいかないにしても、このことは他の犬種・猫種にも言えることで、真剣に考えねばならない時期に来ていると言えそうです。
一部の犬種・猫種に対して「ぶちゃかわ」「ブサかわ」という言葉を耳にするたび、人間が犬や猫に与えている苦痛を知ってか知らずか「かわいい」と言う異常さに落ち着かない気持ちになります。
ブルドッグが遺伝的危機にあるというニュース、真の意味で犬を愛するとはどういうことかが問われているように感じるのは私だけでしょうか。
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