アメリカのNO KILLの事例から殺処分ゼロについて考えてみよう

アメリカのNO KILLの事例から殺処分ゼロについて考えてみよう

アメリカのデラウェア州が、全米で初めての動物保護施設にいる犬や猫に対してNO KILLの州として認定されました。何が功を奏したのか、殺処分ゼロとの違いは何なのか、などを考えてみたいと思います。

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州として初めてNO KILLの基準を満たしたデラウェア州

ケージの中の2匹の犬

アメリカ屈指の大規模動物保護団体であるベストフレンズアニマルソサエティの2019年全国会議の場で、デラウェア州がアメリカで初めてにして唯一のNO KILLの基準を満たした州として認定されました。
今まで、自治体単位でNO KILL認定を受けた郡や市町はあったのですが、州全体では初めての快挙です。

アメリカの動物保護施設におけるNO KILL運動は日本で言うところの「殺処分ゼロ」と同じと考えられがちですが、実は根本的な部分に大きな違いがあります。
アメリカは決して動物福祉に関しての先進国とは言えませんが、NO KILLに関する明確な定義や体系的なシステムは日本でも参考にしたい部分がたくさんあります。

NO KILLの定義とは?

シェルターの犬舎に座る犬

前出の動物保護団体ベストフレンズアニマルソサエティは、アメリカの動物福祉団体や自治体の動物愛護センターを結ぶ全国的なネットワークを形成して全国のNO KILL推進の活動をリードしています。

同団体では動物保護施設や各自治体がNO KILLを名乗るための条件として、引き取った動物の90%以上が殺処分されずに譲渡・返還・保護されることと定めています。
生存率が100%ではなく90%以上と設定されている理由は、個体とその理由によっては安楽死が最も人道的な選択の場合もあると認識されているからです。
手の施しようのない病気や怪我のために絶え間ない苦痛を感じている場合や、トレーニングなどのリハビリを行いコミュニティに属するには危険過ぎる場合には安楽死が選択されます。
収容する場所がない、センターでの保護期間を過ぎたなどの理由での殺処分がある場合にはNO KILLを名乗ることはできません。
安楽死の決定は、定められている規定に沿って動物福祉の専門家が行います。

保護施設などに収容されている犬や猫については、全ての動物の生活の質が最も優先されます。
ただ単に殺処分を実施しないというだけでなく、施設にいる間も恐怖や苦痛、空腹から解放されて安全に暮らすことができる生活の質が確保されていることがNO KILLの概念のベースになっています。

NO KILLを達成するための具体的な策

バンダナをつけた黒い犬

デラウェア州が州全体でNO KILLを達成できた背景には、施設で犬や猫を保護することの他に様々なプログラムを実施したことがあります。

大規模な保護犬猫の譲渡イベント

規模の大きい保護団体がリードして、数多くの団体やグループが合同で大規模な譲渡会を行いました。合同開催することで集客力や宣伝効果が高まり、保護犬や保護猫に新しい家族が見つかるチャンスが高くなります。
保護されている犬や猫をペットが欲しい家庭に送り出して行くことは、殺処分される動物を減らす最良の方法です。

猫のTNRプログラムの実施

野良猫として街中などで暮らしている猫を捕獲して(Trap)避妊去勢手術を施し(Neuter)元の場所に戻す(Return)プログラムです。
少し時間はかかりますが、人道的で確実に野良猫を減らしていくことができ、結果的に殺処分される猫を減らすことに繋がります。

低コストの避妊去勢クリニック

自治体や保護団体によって低コストの避妊去勢専門のクリニックが開設されました。
殺処分が多い地域では、犬や猫が知らないうちに妊娠出産していたと言って子犬や子猫を保健所や保護施設に連れてくる人がたくさんいます。
そのような事態を最も効果的に防ぐのは、低い料金で避妊去勢手術を提供することです。

教育プログラムの実施

自分が住んでいる自治体で犬や猫の殺処分がどれくらい行われているか、なぜそんなことが起こっているのかを知らない人はたくさんいます。まずは知ってもらわないことには対策も浸透しませんから、教育や啓蒙のための活動はとても大切です。
学校で子供達を対象にしたNO KILLを実現するための講演、地域の市民イベントなどにブースを出展しての啓蒙活動などが実施されました。

犬の行動治療のプログラム

犬が保健所や保護施設に連れて来られる理由の大きな割合を占めるのが「問題行動」と言われるものです。
しかし、脳の器質など本当に犬に問題がある場合はごくわずかで、ほとんどの場合は飼い主の対応が間違っていることから来ています。
問題行動があるとされている犬に適切な行動治療のプログラムを実施することが殺処分される犬を減らすことにつながりました。

日本での殺処分ゼロ運動では、保護〜譲渡には力が入れられるようになって来ましたが、TNR活動に対する一般の理解が低く小規模なボランティア頼りであったり、教育や行動治療のプログラムまでは手が回らない状態です。

何よりも日本の殺処分ゼロ運動がおちいりがちなのは「とにかく殺処分を実施しないこと」にのみ焦点が合わされ、保護されている動物の生活の質が見落とされていることです。

まとめ

家族に迎えられた保護犬

アメリカのデラウェア州が初めてで唯一のNO KILLの州として認定されたことから、NO KILLを達成するために実施されたこと、日本の殺処分ゼロ運動と違う点などを紹介しました。

殺処分ゼロは一見正しいことのように思えますし、保護動物の殺処分は無いに越したことはないのですが、殺処分を実施しないという点だけに固執してしまうと肝心の動物たちにしわ寄せが行ってしまいます。
殺処分ゼロという状態は、保護されている犬や猫が少なくとも安全で恐怖や苦痛を感じないで日々を過ごし、飼育放棄される動物を減らして無理のない譲渡ができるようになった結果としてあるもので、それ自体を目標にするものではありません。
外国の事例をそのまま真似しようというのではなく、NO KILLという目標に対して総合的なプログラムが体系的に実施されているいう点は大いに参考になるのではないでしょうか。

《参考URL》 https://bestfriends.org/2025-goal

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